14.影
私の心の中にはカトリーヌに対する罪悪感がじわじわと広がっていた。彼女が私の目の前で不安そうに立ち尽くしているのを見つめると、その視線がまるで私の内面を見透かしているかのように感じられる。彼女との友情は、間違いなく今や揺らいでいるのだろう。
「ごめんなさい、カトリーヌ。」私はそっと呟くように謝罪を口にした。続けて「あなたのことを悪く言ったわけじゃないの。ただ、感情的になってしまったのだとわかってほしい……」
彼女は静かに私を見つめ、やがて小さく頷いた。彼女の目には私が抱えている葛藤と同じような痛みが見えた。その痛みは私が与えてしまった者であることは明白である。
「バーバラ? 私はただあなたのことが心配だっただけなのよ。グラムエルとのことも、私たちの友情のこともね。だからこの家であなたの側にいようと決めたんだもの」まさか今でもそんなに優しく言葉をかけてくれるとは。考えてもみないカトリーヌの言葉を聞いて、私の瞳からは涙があふれ出す。
「私はあなたを守りたいと思っているの。ただ……」彼女は言葉を選びながら続けた。「バーバラとグラムエルの関係がこんな風になってしまったのは、私にも責任があるのかもしれない」彼女は一体何を言いたいのか。
私とグラムエルの関係がうまくいっていないから来てくれたカトリーヌが、その関係の悪さに関わっていると? まるで卵と鶏のようにどちらが先なのかどちらが後なのか、そんな話であるはずがない。理解できずただただ混乱する私をじっと見つめている。
「やはり、あなたもグラムエルを愛して…… いるというの……?」つい先ほどグラムエルが否定したはずの二人の関係。確かにただの友人関係だと言っていたのに?
「違う、それは違うのよ、きっと今勘違いをしているのだと思う。私と彼は間違いなく友人であり同僚で間違いはないわ。だからこそ仕事で一緒にいることが多いし、同じ悩みを抱えるわけだから二人で気晴らしに行くこともあるでしょう? そのことがあなたを不安にさせたのではないかと言いたかったの」成程そう言うことだったのか。わかってしまえば簡単で疑うのも馬鹿らしい。
「カトリーヌ、あなたが彼と親しいのは私にとって辛い部分があるわ。でも仕事なら仕方ないわよね。私だって働いていたんだからそれくらいわかる。おかしな疑いをかけてごめんなさい」そういうとカトリーヌは優しく頷いて私の頬へキスをした。
「私もあなたに謝りたい。あなたが思っている以上に私はあなたのことを大切に思っている。だからこそ、バーバラ? あなたには元気で楽しく過ごしていてほしいの」それを聞いた私はこらえきれなくなり再び涙を流しカトリーヌを抱きよせた。
「私たちはお互いの気持ちをもっと理解し合わなきゃ。グラムエルのことも疑って悪かったわ。私たちの関係はきっと今までよりもっと良くなるに違いない」私は根拠もなくそう力説したが、きっと大丈夫、三人で力を合わせて生きていけるだろう。
「さあバーバラ、家の中へ入ろうか。つまらない真似をして悪かったね。カトリーヌ、バーバラに暖かいものを淹れてくれるかい?」グラムエルはそう言って私とカトリーヌを促すと、ソファを家の中へと戻した。
◇◇◇
そしてやってきた翌日、毎日ゴロゴロと怠けて生きていては二人に申し訳ない。私も出来ることをして二人の役に立てるよう頑張ろうと誓いを立てた。手始めに朝食の片づけをし、リビングを掃除する。
そして恐る恐る昨日と同じ部屋へと入っていき、ベッドを整えようとシーツへ手をかけた。そこには金色の長い髪がまた絡みついていた。




