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あんたバカね、あんたよりマシよ  作者: 肉球バイク将軍
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二次会で

「はあ!?」

 律香の次の言葉を遮るように、沙羅がその一軒家のインターホンを押した。待ち構えていたかのようにすぐにドアが開き、律香は咄嗟に自分より背の高い沙羅の背後に隠れた。

「お疲れ様です!」

 出迎えてくれたのは真秀ではなく、真秀の1歳下の妹の(ねい)だった。律香たちと同じサークルの後輩だ。その声に気付き、律香は何事もなかった沙羅の背後から姿を現した。

「お疲れ様。いきなり押しかけてごめんなさい。」

「お疲れー。寧、ありがとー。」

「律姉はもう親戚みたいなもんだし、そんな遠慮しないでよー。寒いでしょうから早く中にどうぞ~。」

 律香と沙羅は靴を揃えて上がり、リビングにいた真秀と寧の両親に挨拶をし、2階の寧の部屋に行く。

 ラグの下に敷いてあるホットカーペットの温かさが、冷えた足にじんわり沁みた。こたつ机の上には、既にチューハイやビール、梅酒等の缶、個包装のカルパスやチョコレートやチーズ等が乗った菓子盆が用意されていた。座布団は少し冷たい。

「カシスとかカルーアもありますから牛乳割も出せますけど、要ります?」

「それは要らないけど、律香が大分飲んでるから一応お水はもらえたら嬉しい。」

「りょーかいでーす。持って来ますねー。」

 寧はそう答えて部屋から出て行った。

「しゃ~ら~…あんた悪意あり過ぎじゃない?」

「別にからかってるわけじゃない。本人に聞けないなら、寧に聞いてみたらどうかと思った。それだけ。」

「行き先くらい教えてくれてもよかったじゃん!」

「教えたら、ついて来た?」

「…流石に今日は気乗りしないって断ったと思うけど。」

「引き延ばしたって律香が無駄に悶々する時間が長引くだけ。だったらさっさと確かめたらいいよ。」

「…まあ、お気遣いについてはお礼を言わせてもらわないとね。ありがとう。」

 律香が後ろに倒れ込むと、ちょうど部屋のドアが開き、寧が2Lの水のペットボトルと、グラスを1つ持って戻って来た。

「律姉、大丈夫?律姉ほんとに顔に出ないからわかりづらけど、今日はそんなに飲んだんだ…。」

 寧がすぐにコップに水を注ぎ始めたので、律香は慌てて体を起こした。

「違うの。気持ち悪いとかじゃなくて。ただ、倒れ込みたい気分になっただけだから。」

「それはそれで…心配になるね…。」

 寧は、律香の前に水の入ったグラスを置いた。

「心配してくれてありがとう。ごめん、誤解させて。」

「いや、律姉が平気なら別にいいんだけど。」

「ねえ、とりあえず乾杯しよ。」

 そう言った沙羅は、既にホワイトサワーのチューハイの缶を空けて手に持っていた。

 律香は梅酒、沙羅はカシスオレンジのチューハイの缶をそれぞれ空けた。

「じゃ、お疲れ~。」

「お疲れ様。」

「お疲れ様です。」

 沙羅の掛け声で、3人はチューハイの缶を寄せて軽く当てる。

「で、律姉、お兄と何かあったの?」

 遠慮なく聞いてくる寧に、律香は勢いよく振り向く。

「沙羅といい、寧といい…ド直球に聞くのね。」

「だって、お兄が帰って来てない土日に来るの珍しいし、敢えて避けて来たのか、それとも急に何かあったのか、どっちかしかないかなーって。」

 真秀は電車一本で行ける隣県の大学に通っていて、アパートを借りている。毎週ではないものの、月に1~2回程度、土日には顔を見せに帰って来ており、律香はそのタイミングで寧を訪れることがほとんどだった。

 律香は体育座りで缶を両手で持ちながら、うーんと唸っている。

 それを見かねたのか、沙羅が口を開いた。

「マシューくんって、彼女できた?」

 律香は唸るのをやめて、持っている缶を見たまま動きを止め、聞き耳を立てた。

「ええ、知らないです!どこ情報ですか?」

「律香とマシューくんの高校の同級生でマシューくんと同じ大学の子から、ここ1週間ずっと2人でランチしてる女の子がいるって聞いたんだってさ。」

「ん~、お兄だから珍しいしまさかって感じはわかりますけど~。もしかするかもしれませんね。だって、律姉が側にいなくなったから。」

 律香は顔を上げて寧を見た。

「律姉、ちょっと目が怖い~。」

「気にしないで。続けて?あたしが側にいなくなったからっていうのはどういうこと?」

 寧はうーんと唸ってからチューハイを一口飲んで、律香を見つめ返す。

「高校までって、なんやかんやお兄の背後というか側というか、律姉が影にも表にもいたっていうか、まあそうだったでしょ?律姉ってやっぱこう…ねえ…並じゃなくて凄まじい美人でなんでもできちゃうし、お兄のことを少しでもいいなーって思った女の子がいたとしても、律姉に引け目を感じちゃって近寄れなかったりとかあったんじゃないかな?彼女だったとしても彼女じゃなかったとしても強過ぎる存在感、みたいな?」

 実際牽制はしてたし、という言葉を律香は飲み込んだ。

 律香こと、織原ヴェル律香は日本人の父、日本人/イギリス人のハーフの母の間に生まれたクオーターで、髪は生まれつきのレッドブラウンのストレートヘアだ。その上顔もスタイルも抜群に美しかった。左右対称で目鼻立ちがはっきりしていて小さな顔、手足は長くて華奢過ぎないという嫌味のないプロポーションに恵まれた。

 しかし、天は律香に二物どころか多くの恵みを与えた。学業成績は常に学年トップ3、全国模試でも上位をとった。体育の授業やマラソン大会、水泳大会、運動会でも活躍を見せつけた。吹奏楽部に入っては人気で花形楽器のトランペットのパートでリーダーも務めた。

 当然周囲の目を惹いたが、謙遜することも傲慢になることもなく、老若男女問わず毅然とした立ち振る舞いをし、「文武両道のカッコいい女」を貫いてきた。強いて言えば、男には多少当たりが強かったかもしれない。

 そんな律香は広い交友関係にも恵まれたが、真秀との関係や真秀に対する想いについては誤魔化し続けてきた。それどころか特別な関係を匂わすようなことを言ったこともあったし、クラスが同じでも離れても登下校は可能な限り共にした。真秀ももしかしたら律香との関係を聞かれることがあったかもしれないが、真秀がどうしていたのかについてはわからない。が、律香としては「聞くのも野暮」と思われるように真秀に張り付いていたと思う。

 そんな律香は、大学が真秀と別々になり、沙羅と出会ってようやく真秀についてのことを打ち明けられた。沙羅が律香にとって今までにない唯一無二の親友になったという意味ではない。牽制する必要がない環境になってから友人になった沙羅へは、お酒の勢いもあったものの、打ち明けられたのだ。

――でも、今までの牽制はもしかしたら無駄だったのかな。あたしとマシューの間には幼馴染以外の特別な関係はないとバレていたのかな。

 昼休みに届いたLINEのメッセージは、「真秀くん、浮気してない?」ではなく「真秀くん、彼女できたの?」だった。幼馴染だからなのか、片想いであることがバレていたからかはわからないが、律香と真秀が恋人だと思って送ってくる内容ではない。

 律香は缶に残っている梅酒を勢いよく飲み干し、近くにあった適当な缶を手に取って開けた。

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