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第7話 神様VS王子様

「というわけでこの妖精達の絵のことについて妖精使いの凪くんに話を聞きたくてね」

空流は自身の考えを話し切ると僕に意見を求めてきた。


「そう言われても。僕は妖精使いだけど妖精については詳しくないし」

「そうかな? 僕は君がこれまで会った中で一番妖精と仲がいいと思うよ。信頼しあっていると思うんだ」

「どうして?」

(本当にどうして?)


「アイコンタクトが多い。ほら君はさっきから妖精と何回も目を合わせている」

『睨んだときのか』

(睨まれたときのだ)


「あと君がクエストしている時も見かけたことがあるんだ。忙しそうだったから声はかけなかったけどね。君は普段は妖精と目をよく合わせるのに戦闘で魔法を使うは全く妖精の方を見ていない。妖精を信頼して託しているんだろ」


『いや、目を合わせる必要がないだけだな、魔法使うときはメイはいらない子だから』

(なんですか? いらない子? 私だって応援してますよ)

『お前たまにクエスト中読書とかしてね?』

(だって暇なんですもん。隙間時間を有効活用してるんです)

『主人の戦闘中を隙間時間と呼ぶな』


「ほら、やっぱり。今みたいにじっと妖精の方を見てる時間が多い。君たちは本当に仲がいいんだね」

「そんなことはないと思うけど……」

(そんなことはないですね)

「謙遜しないで」

(うーん、なんか嫌だなぁ)


「それで妖精使いの凪くんは異世界人の謎についてどんなふうに考えているのかな?」

「異世界人ね。えーと、く……くるうだっけ?」

「くうるね」


「空流、君には残念だけど僕は異世界人なんていないと思っている」

「いない? それじゃあ僕が示した証拠はどう考えてるの?」

「シンプルな考え方で解決できる。妖精は小さく何かと不便だ。大きさに対する憧れがあってもおかしくない」


(そうかな。大きいことに憧れたことなんてあんまりないですけど)

『小さくてアイス買いに行けないだろ』

(主様が行ってくれるからあんまり不便じゃないんですよね。それに小さい方がアイス沢山食べれるし)

『他の妖精はお前みたいに図々しくないだろ』


「つまりこれは妖精達が大きくなった自分を想像して描いたんだろう」

「こんな姿を?」


『こんな……』

(主様のことですよ)

『主様のことじゃないですよ、だろ、お前が言うべき言葉は。否定すんだよ。追い打ちかけてどうする』

(でも主様のことですよ)

『違うだろ。お前達が描いた下手くそな絵のことだ』

(私達の描いた絵をバカにしないでください!)


「とにかく、こんな姿でも妖精は憧れたんだ。きっと妖精の美的センスが人間とは違うんだろうね」

(なんか言い方に棘がある)

「それじゃあ薬は? 異世界人がいることを示すもう一つ証拠だよ」

「妖精の中には人間が好きな奴らがいる。こいつみたいに」

 僕はメイを軽くつついてやった。明らかに不機嫌そうな顔をする。


『おい、人間好きな妖精ってことなんだからニコニコしとけ』

(ちっ……ニコッ)

メイは微笑む前に舌打ちしやがった。

『態度!』

 メイを叱りつけてから僕は空流に向かって話を続ける。


「薬は最近現れたそういう人間好きの妖精が作ったものなんじゃないかな。ほら、この薬の小瓶、結構新しいものだし」

『新しめの小瓶使っててよかった』

(主様のミスがいい方に働きましたね)

『ミスじゃない。こだわりがなかっただけだ』

(ミスを認めないのはダメですよ)

『妖精族の絵はどうした』

(あれは私のせいじゃないですから)

『お前……』


「でもあの薬が入っていた宝箱は妖精サイズではなかった。妖精達が使っていたにしては大きすぎるんだ」


「人間好きの彼女達は宝箱を人間サイズに合わせて大きく作ってくれたんだ。これまでに宝箱が見つからなかったのは人間サイズが完成したのが最近だったからだね。人間のために小さい体で苦労して作ってくれたんだろう。そもそも人間好きの妖精達は作った人間用の薬を人間達に使って欲しいと思っているんだ。宝箱はそんな彼女達が人間に向けてアイテムを渡すためのプレゼントボックスなんじゃないだろうか」


(嘘をつく時急に饒舌になる……主様わかりやすすぎますね)

『お前は寡黙にしてやろうか』


仮説を唱え終えて空流の顔を見るととても複雑な表情をしていた。

「それが……妖精使いの考えなんだね」

「え? ああ、そうだよ」

「わかったよ。聞けてよかった。ありがとね」

 そう言って空流は席を立った。


『なんとか納得してくれたようだな』

(あれは納得したんじゃないんですよ。バカな仮説を立てるバカな奴だなと思われて逃げられただけです)




凪と別れた空流は自分の部屋に帰り調査のノートを眺めながら考えていた。

どうして凪くんはあんなこじつけのような仮説を立ててまで異世界人の存在を否定するだろうのか。妖精と異様に仲がいい彼はもしかしたら異世界人について何かを知っているのかもしれない。もしかしたら彼が、彼こそが……。




 空流と別れた僕は自分の部屋に戻った。

『今日は疲れた。なんで僕はこんな厄介なことに巻き込まれるのかな』

(自ら人体実験とかいう厄介な事をしてるからじゃないですか)

『うーん、今日は癒されにいくか』


僕は借りている部屋に穴を開けてその中に入っていく。その先には室内とは思えないほどの広大な空間があった。ここは魔法で作った拡張空間。そこを僕のペット部屋として使っているのだ。僕のお気に入りの動物はこの空間で飼っている。


そこに入ってすぐの場所には小さい小屋があり動物のご飯や遊び道具などが管理されていた。

(前から思ってましたけど部屋の中に小屋があるって不思議な感じですね)

『便利な魔法だろ。……もう少し広くてもいいな』

 そう話しながら僕らは小屋の中に入る。物が多い小屋の中からペットフードや遊び道具を探す。


(そういえば私ここに入るの初めてかもしれません)

『そうだっけ?』

(あれ?)

 メイが何かを見つけて止まった。

『どうした?』

(主様……私の家があります。一度も帰ったことのない)

 その視線の先にはメイの名前が書かれた鳥籠があった。


『そうか、たまには帰ってゆっくり休むといい』

(私を鳥扱いしないでください!)

 妖精は鳥扱いされるのを嫌う。鳥籠はそんなメイに見せるためにわざわざ用意したものだ。実際には鳥類などの空を飛べる動物も小屋の外で放し飼いしている。


『そうだメイ、妖精達に宝箱を作らせて各地に配置するように命じておけよ。中には人間へのプレゼントとかを入れてな』

(えーなんで主様の尻拭いを私達がしなくちゃならないんですか)

『仕方ないだろ、人間好きの妖精がいるって言っちゃったんだから』

 メイの不満に溢れた小言を聞き流しながら目的のものを見つける。そして小屋の外に出てある動物達に会いにいく。


 暖かい赤みかった毛並み。凛とした顔つき。とんがった耳。あちらの世界では狼と呼ばれる動物に姿が似ている。種名を名付ける慣習はなかったのだが、最近になって僕が名乗っている名前からナギオオカミと名付けた。その群れが僕を囲む。僕はしゃがん一匹の頭を撫でる。すると彼らも僕に甘えてくるのだ。


『かわいいなぁ』

(人懐っこいですね)

『よし、餌をあげよう』

 僕が持ってきたフードを彼らに差し出すと彼らは僕の手ごと餌に噛み付いた。


(うわっ、痛そう)

『甘噛みだろう。可愛らしいじゃないか』

(あれ? 主様は虐待するタイプの動物好きじゃなかったんですね)

『そんなタイプの動物好きはいない!』


 やはり動物はいい。できることなら独占したい。そう考えている僕がテイマーを目の敵にするのも当然のことだとわかるだろう。



しかし空流は僕と話した次の日からも優秀な成績を残し続けた。その成績を見たメイが気になって僕に尋ねてきた。


(あれ主様、もしかして弱体化魔法失敗したんですか?)

『失敗なんてするわけないだろ。弱体化魔法は慣れたもんよ』

(何回もかけてますからね、味方に。じゃあどうして空流さんはこんなにいい成績なんですか?)

『そもそも彼女の動物には弱体化をかけていないんだ』

(かけてないんですか? どうして?)

『そりゃ弱体化をかけてクエストに行ったら怪我をしてしまうかもしれないだろ、動物達が』

(……主様はペット達に対するその優しさをどうして人間達に向けてあげられないんです?)

『知るか』


(でも主様、動物好きの友達ができてよかったですね)

『友達ぃ〜? 友達だとぉ?』

(そうです、友達ですよ。好きなものを一人で愛でるだけじゃなくて、好きなものが同じ人と共有するのもいいじゃないですか)

『そんな文化知らん。好きなものは誰にも渡さずに独り占めだ』

(もう、主様は動物好きを拗らせてますね。……でも動物好きか、そういえばそもそもこんな研究始めたのもそれがきっかけでしたよね)

『ん? ああ、そうだったな。懐かしいな』

(もう一年も前になるんですね)

『一年なんて僕達からしたら大した時間じゃないだろ』

(そうですね。でも人間達が来てからの一年はこれまでの百年よりも長く感じます)

『まあな』


 今から一年前、僕とメイは人間達に出会った。この世界と僕達にとっての異世界である地球が突然繋がったあの日に。

今回のエピソードはこれで終わりです。もしこのエピソードを気に入っていただけたらブックマークや☆での評価をしていただけるとありがたいです。また次のエピソードは1話で終わる短いエピソードなのでそれも読んでいただけたら嬉しいです。

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