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第5話 マッチポンプドクター

 昨日の夜、僕は研究室でとあるものを作っていた。


(何を作ってるんですか)

『薬だよ。人体の研究が進んだおかげで人間の内科的病も回復魔法で治せるようになった。そして僕の技術ならその回復魔法を薬として生成することも可能。そう、人間の治療薬だよ』

(それで蓮斗さんの妹さんの病気が治るんですよ)

『治るに決まってるだろ。僕の、神の回復魔法を抽出したものだぞ。たとえ人間の世界の未知の病だとしても治せないものなどない』

(すごい本当に役に立ってる)


『ただ僕になら簡単に作れるが人間達には過ぎたものだ。あまり量産はしないでおこう。さて、ではこれはドクターキラーと名付けよう。これさえあれば医者などいらないからな』

(治療薬の名前とは思えないですけどね)



 宝箱の中にはそのドクターキラーが入っていた。


「なんだ、この小瓶は」

 勇気がドクターキラーが入った小瓶を慎重に掲げた。未知の世界の未知の物質だ。たとえ小瓶の中に入っていても慎重になるのは当然だろう。しかしこのままのペースだと薬だとわかって蓮斗の妹に使うまでに時間がかかりそうだ。


「もしかしてポーション、つまり薬なんじゃないかな。それならもしかしたらお前の妹に飲ませて病気を治せるかもしれない」

(なんか話の進め方雑過ぎません?)

『さっさと終わらせて休日をゆっくり過ごしたいの』

(えぇ……)


「…………」

 二人は僕の発言を聞いて再び小瓶の中の液体を慎重に眺めた。

「……決めつけることはできないよ。そうだろ、蓮斗くん」

「そうっすね。一瞬期待してしまいましたけど」

「毒の可能性もあるからね」


『こいつら賢すぎて話が進まないな』

(もしかして主様より)

『なんか言ったか』

(いえ何も)


「冷静に考えるとこんな得体の知れない洞窟の得体の知れない宝箱から出てきた得体の知れない瓶に入った得体の知れない液体を大切な妹に飲ませることはできないっす」


(冷静になっちゃった)

『くそっ、せっかく僕が作ったドクターキラーを得体が知れないだと?』

(じゃあもし主様が蓮斗さんの立場だったら薬を使いますか)

『使うわけねえだろ、こんな怪しいもん』

(やっっぱりそうですよね)

『でもこいつらには使ってもらわなればならない。僕の研究の成果を試してもらわなくては』

(自己本位ですねぇ)

『よし、こうなったら』


「あっ!」

 僕は二人が止める猶予も与えずに小瓶の中のドクターキラーを少し口に含んだ。

「ほら、無害だ。さっきまでの戦闘で傷ついた体も治ってる。これは確かに薬だ!」

「どうしてそこまで」

「こういうのは誰かが最初に一歩を踏み出さないといけないんだ。それに……もしこれが薬だと証明できたらお前が安心して妹を治せるじゃないか」


「凪さん! お、俺、感動しました。俺達のためにそこまでして守られるなんて。凪さんは妹の命の恩人です」

「毒かもしれない液体を仲間のために躊躇いなく飲むなんてなんて危険な……でも素晴らしい勇気だ。僕は君を尊敬するよ。勇気ある人、僕の名前をそのまま君に渡したい」

「いや、それは別にいい」


(勇気もなにも自分が作って薬だって知ってるんだから飲めて当たり前ですよね)

『いや、僕と人間とは少しだけ体の作りが違うからドクターキラーは少しだけ僕の体には合わない。そう、今、ちょっとだけお腹の調子が悪い』

(それは……ご愁傷様です)

 ギュルルルルとお腹が嫌な音を出した。




 二日後、いつもの食堂を訪れると蓮斗がいた。別に話しかける気はなかったが向こうが気づいて僕に駆け寄ってきた。


「聞いてください。妹、治りました」

 あの後、ギルドに報告をした後発見者利益として妹にドクターキラーを飲ませる許可をもらったらしい。


「飲んですぐに病気が完全に治って、ずっと寝たきりだったからすぐに体は動かせないんすけど、しばらくすれば学校にも通えるようになるらしいっす」

「あっそ、よかったな」

(よかったですね)


「これで莫大な治療費を稼ぐ必要もなくなりました」

「それじゃあ冒険者は辞めるのか? もう金を稼ぐ必要はないんだろ」

「いえ、冒険者もこのクランも辞めないっす。妹が治ってもうちは貧乏なままですからね。あいつの学費とか稼がないと」

「ふーん、大変だな」

「でもおかげさまで昨日は安心して休ませてもらいました。これまでみたいに無理をする必要も無くなったんす」


『ということはこれで僕の研究も安心して続けられるな』

(人体実験はせめて緊張感を持ってやってください。安心感持ってやっちゃダメ)


「実は親にはもう冒険者を辞めていいと言われたんす。金を稼ぐにしてももっと安全なバイトがあるだろって」

「じゃあどうして辞めないんだ?」

「俺、このクランが好きなんすよ。雰囲気とか目標とかメンバーとか。何より尊敬できる先輩がいますし」

「へ?」


「凪さんには本当に真摯に相談に乗ってくれて感謝してます。また一緒にパーティ組んでください」

「あ、ああ」

「それじゃあ、俺これからクエストなんで」

 そう言って蓮斗は食堂を出て行った。


『尊敬できる先輩って僕のことか?』

(そうですよ、きっと)

『そ、そうか。ふふ、羨望の眼差し……あぁ、気分がいい。そうだ、冷静に考えたらこの世界の神ぞ、我は』

(どうしたんですか、変な喋り方して)

『僕はもっと人間どもに崇められるべきなんだと思わないか。神だもの。ほら、向こうの世界の宗教みたいにな』

(邪教ですねー)

『人を助けた神を邪とは何事じゃ』

(……ふっ)

 メイは鼻で笑った。尊敬のかけらもねえ。


(でも冷静に考えたら調子が悪い人にデバフをかけて余計に調子を悪くさせた人って最低じゃないですか)

『僕のことか?』

(主様以外に誰がいるんですか)

『でも助けたから』


(マッチポンプって言うんですよ、そーいうの)

『バレなきゃいいのさ。ほら、これで被験体の維持とクランでの僕の地位を高めることができた。研究の成果の確認もできた。万事よしだ。尊敬したまえ人間ども。僕はこのままひっそりとそして確実に研究を続けるぞ』

(はぁー、こいつ……)

 メイは何故か重いため息をついた。

今回のエピソードはこれで終わりです。もしこのエピソードを気に入っていただけたらブックマークや☆での評価をしていただけるとありがたいです。また次の話から新しいエピソードが始まるのでそれも読んでいただけたら嬉しいです。

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