第46話 成績下位コンビ
「動画投稿?」
「そうです。動画投稿サイトに動画を投稿して再生数を手に入れるんです」
『これまた俗な提案だな』
(ですね)
「そんな簡単に言うけどな、再生数で大儲けするのは流行や需要という面倒くさいものを考えなくちゃいけなくて大変だって聞くぞ。実際始めたての素人高校生の動画なんて僕は見たいと思わない。きっと他の奴らもそうだろう」
(主様その俗に溶け込んでるじゃないですか)
『暇な時見てるからな』
「素人高校生? ふっ、凪さん、思い出してください。私達は普通の高校生じゃない。冒険者なんですよ」
「だから?」
「一年前から異世界ブームはまだ続いています。それなのに異世界に行けるのは冒険者や一部の労働者のみ。異世界の様子をテレビなどで放送することもありません。だからこそ私達が異世界に関する動画を撮れば大人気間違いなしということです!」
『どこまでも浅い考えだな』
(でも案外これくらいの浅さの方が成功するかもしれませんよ)
「それに別の売り出し方も考えています」
「冒険者だけじゃないのか」
「そうです。カップル投稿者として売り出すんです」
「カップル?」
(カップル?)
「僕とお前が?」
「やだな、もちろんふりですよ、ふり」
「それなら本物のカップルの政喜と麗奈に任せた方がいいと思うが」
「政喜さんと麗奈さんはバカップルですけど意外とこういうこと好きじゃないですし、第一それだと私達にお金が入りません」
「そもそも受けるのか、カップルチャンネル。僕見たことないんだけど」
「私もありません。でも顔のいい男女が楽しそうにしてたら大体いけますよ」
「さっきから浅いことしか言わねえな」
「それに凪さんは推しに雰囲気似ているので人気出ると思いますよ」
『人間如きに似てると言われても嬉しくねえ』
(文句ばかり言ってないで主様も案出したらどうです?)
『僕はそもそもやるとは言ってない』
「凪さん、乗り気じゃないみたいですね」
「今の説明で乗り気なやつがいたら詐欺とかに注意だな」
「お願いします。私を助けると思って! 人助けのついでにお小遣いが稼げるみたいな感覚でいいですから」
「怪しさが増してるぞ」
「それじゃあ、聞いてくれますか。私がお金を稼ぎたい理由」
「推しのためだろ」
「これを聞いたら私に手を貸したくなる、そんな悲しい過去があるんです」
「そうなのか?」
(こんなふうに自分から積極的に悲しい過去話す人いませんけどね)
「昔私の推しが所属していたアイドルグループが解散してしまったんです。炎上によって」
「……どうせ不祥事とか起こしたんじゃないか」
「違いますよ。私の推しはそんなことしてません。起こしたのはグループのリーダーです」
(不祥事ではあるんだ)
「最初にリーダーの未成年淫行が報道されました。それがきっかけとなり他のメンバーの熱愛や犯罪も報道され、唯一私の推しだけが不祥事を免れたんです」
「どうせそいつも何かやってるぞ」
「もう大丈夫です」
「安心し切った時が一番危ないんだぜ」
「いえ、その推しはもうだいぶ前に引退してしまったので不祥事が報道されることは多分もうありません」
「ふーん、それいつの話だ?」
「十五年前です」
「十五年⁉︎ じゃあその時杏奈は……」
「一歳になるかどうかくらいですね」
「化け物じゃんお前」
(推し活の化け物……)
「あの時一歳だった私はこう思ったんです、推しは推せる時に推そうって。そのためにお金が必要なんです」
「全く響かない。お前の推しについてはすごくどうでもいいし、お前については少し怖い。距離を置きたい」
「えー、やりましょうよ。成功すれば稼げしファンも増えますよ」
「ファンか」
「そうです。沢山の人に尊敬されて女の子にもモテモテですよ」
「女はどうでもいいが、人間達から尊敬されるのは悪くないな」
「私も凪さんを推しちゃおっかな」
「やめてくれぇ」
(なんかまんざらでもない顔してません? 神様が承認欲求持たないでくださいよ)
「知ってますか? 人気者になるとファンから大量の差し入れをもらえるんですよ。欲しいものを言ったらファンが届けてくれるんです」
『へー貢物か、宗教みたいだな。そうだなあ……神様として崇められるのとは別で敬われるのもいいなあ……』
(なんだか乗り気になってきましたね。そういえば主様は人間の世界の神の立ち位置を羨ましがってたことありましたっけ)
『普段敬われることがないからな』
(可哀想に)
『そう思うならもっと敬え』
(哀れみでもいいんですか?)
『いい。とりあえず敬え』
(そうだ、いっそ動画で神様だと明かしてみたらどうです? みんな敬いますよ)
『嫌だよ。金がなくて動画で神様明かすなんてみっともない』
(金がなくてカップルチャンネル作ろうとしている時点でだいぶみっともないです)
『じゃあみっともなくても別に構わん』
僕は杏奈の話をもう少し聞くことにした。
「それじゃあ仮にやるとしてだ」
「はい」
杏奈は嬉しそうに返事した。
「そもそも異世界についてのことを勝手に公表してもいいのか? それどころか異世界で動画を撮って公開しようとしていいのか?」
「それは……わかりません」
「はあー、そんなことだろうと思った」
「ちょっと許可とれるかギルドに訊いてみますか?」
「いや、それよりももっといい方法がある」