第4話 怪しげな宝箱
そのまま部屋に帰りたかったのだが蓮斗は僕にもついてきてくれと言って無理に勇気のところに同行させた。
「……というわけなんです」
蓮斗が僕に話したことをそのまま勇気に伝える。
「よく相談してくれた。流石に給料を増やすことはできないがクエストが負担にならないように仕事量を減らして……」
「でもそれだと給料も減ってしまいますよね。お願いしたいのはその逆です。もっとクエストに参加させてください」
「それはできない。クエストをこなす量が増えるほど蓮斗くんのパフォーマンスは落ちる。そんな状態の君を危険なクエストに参加させることはできない」
「でも」
「これは君のためだけじゃない、他のメンバーの安全も考えてのことだ。クエストの量を減らしても給料が減らないようにするからどうか休んでくれ」
「しかしそれだと他のメンバーからの不満が増えますよね。それは俺だけ優遇されているみたいで心苦しいっす」
(やっぱり大きな人が言い争いしていると迫力あってワクワクしますね)
『口論をそういう楽しみ方するやついるんだな』
「うーん、なら俺がどうにか説得するよ」
「いや、俺自身が許せないんす」
(二人とも譲りませんね〜。このままだと長引きそうです)
『本当にこいつらごちゃごちゃと面倒くさいな』
(二人ともそれぞれの考えがあるんですよ)
こいつらの話し合いなどどうでもいいから早く結論を出してくれと僕は投げやりに一つ提案をした。
「もうその妹を回復魔法を使って治せばいいじゃん」
口に出してみると意外といい案なのではないかと思ったがすぐに勇気に否定された。
「異世界じゃないと魔法は使えないよ。知らなかったの?」
『知らなかった。向こうの世界で魔法を使えるのは僕だけなのか?』
(あれ、気づいてなかったんですか? 私言いませんでしたっけ)
『聞いてない!』
「え、あー、ずっとこっちにいてあんまり帰ってないから」
「たまには帰ったほうがいいよ。感覚がおかしくなっちゃうからね」
苦しい誤魔化しだが勇気は納得したようだ。
「う、うん、そうする。それじゃあこっちの世界に連れてきて回復魔法を使ったら?」
「あいつにあんまり負担をかけたくないっす」
「それに回復魔法は外傷を治すには適しているが内科的な治療は全く研究が進んでいないんだ。できるのは解毒くらいで」
「そ、そうなんだ」
『相変わらず人間の魔法は程度が低いな』
(人間の研究をしていたくせに知らなかった人に言われたくないと思いますよ)
「とりあえずこの話の続きは明日にしよう。また明日の朝ここに集まってくれるかい?」
「わかりました」
蓮斗はそう言って頷いた。
「それじゃあまた明日、凪くんも」
「ん? 僕も?」
「うん。明日までに何とか解決したいね」
『くそっ、こんなことになるなら相談など無視しておけばよかった。明日一日この不毛な言い合いを聞かなければいけないのか。それならせめて』
「……そうだ。せっかくだから近場にレベル上げに行こう。リーダーと僕が見ているなら彼も無理しないだろうし、気分転換にもなるし」
『実験にもなるしな』
(ああ、それが目的ですか)
『相談の報酬だ』
(相談しただけで人体実験されるなんて不当ですよ)
僕は部屋に戻って今日の研究記録をまとめていた。
(明日どうなるんでしょうかね)
『勇気がどうにか説得するだろ。それでも拒んできたらクビかもな』
(クビですか……)
『そもそもあいつはクビ候補だ。交渉できる立場にないんだよ』
(いや、主様こないだクビ最有力候補だったときにめちゃくちゃごねてたじゃないですか)
『うるさいな、メイはいつも……。そういえばお前この前研究進んでないなとか言ってたな』
(言いましたっけそんなこと)
『言った。確かに言っていた。お前みたいなアホの役立たずの研究で人間を被験体にするなんて最低すぎる。どうせこのまま続けていても意味ないんだから今すぐやめろと言っていた』
(それは言いました)
『言ってない。ちゃんと否定しろ』
(言ってはないけど思ってました)
『お前制裁を全く恐れねえな。まあいい。見せてやるよ、研究の成果を』
翌日、昨日の提案の通り僕達は近くの魔物がいる森に足を運んだ。魔物を見つけて蓮斗が戦う。彼の戦闘スタイルは勇気と同じ剣士。ただし勇気ほど強くない代わりにいくつかの補助魔法が使える。だから僕とは少しだけ相性が悪い。今回のような少人数だとわかりやすい。明らかに僕の仕事量が減っている。
「やっぱり休むべきだと思う」
蓮斗の戦いを見ていた勇気が言った。
「動きがかなり悪くなっている。クランに入った時よりも強くなっているはずなのにそれを感じない」
(それは主様がデバフをかけているからです。一度解いてあげたらどうですか?)
『それも考えたがそれよりもいい方法がある。だからデバフは絶対に解かない』
(ケチ!)
『ケチとは違う!』
その後、僕達は森を進んで行った。勇気は補助魔導士と不調の剣士とのパーティでは不安のようだったが僕は目的のため彼に構わずに誘導していった。
目的の場所に近づくと勇気が声を上げた。
「なんだろう? あんな場所あったか?」
彼が指す先には人が入れるほどの洞穴があった。
「俺は見たことないっすね」
「雨とかで地形が変わって入り口が地表に露出してきたんじゃないか。ちょっと試しに入ってみよう」
(露骨な誘導……罠だ)
『お前は疑うなよ』
「危険じゃないか」
「大丈夫だって。この辺りはあまり強い魔物がいない。洞窟に入った途端強くなるわけないじゃないか」
「いや、ゲームとかだとよくあるけど」
「ゲームはゲーム、これは現実。とりあえずさ、手前の方だけ、行ってみよう。もしかしたらレアなアイテムが手に入るかも」
少し強引に勇気を説得して三人で洞窟の中に入った。
洞窟はあまり深くなかった。分かれ道もなく一直線で魔物もいない。そういうふうに作った。
「あ、あんなところに宝箱がー」
迫真の演技で僕は洞窟の行き止まりに配置した宝箱を二人に見せた。
「宝箱?」
「すごいっすね。俺こっちに来て宝箱初めて見ました」
「そうだ、その通りだ。さっき凪くんが言った通りこの世界はゲームと違う。ゲームのような宝箱などこれまでに見たことも聞いたこともない。それなのにこんなに簡単に……」
『おかしい、宝箱など妖精族が持っているではないか。見たことはないとはどういうことだ』
(いや、だってよそから来た人が見つけられるようなところに宝箱置かないじゃないですか。妖精の里では宝箱は人間には見つからないようなところに巧妙に隠してあるんですよ)
『確かにそれはそうだが先に言っておけ。おかげで怪しまれてるじゃないか』
(こんなガバガバの作戦、元から怪しまれるに決まってますよ)
「もしかしたらトラップかもしれないっすね」
「トラップか」
「ええ、ミミックってモンスターいるじゃないですか。ああいうのじゃないですか?」
「いや、ミミックは宝箱があることを前提とした擬態だ。それなら宝箱がまるでないこの世界にはいないはずだ。それよりも他の冒険者の悪戯を疑った方がいいだろう」
「それとも悪質な罠かもしれないですね。最近他の冒険者を妨害する輩がいると聞いたことがあるっすから」
『なんでこいつらそんなに理性的なん? せっかくの神の好意なんだから黙って騙されてろよ』
(口悪いですよ)
「いや、蓮斗はもっと貪欲に行こう。もしかしたら本物の宝箱でこの中に妹を救えるだけの財宝が入っているかもよ」
「いやー、人生そんな甘くないですからね」
「ちっ、もういい、僕が開ける」
「え、危ないよ」
勇気の制止を振り払って宝箱に手をかけ、そして思い切って開けた。その中に入っていたのは……。
次でこのエピソードは終了です。