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第31話 冒険者になろう

 さっさと相談の内容というのを言えばいいのに奏はレストランの料理をマイペースに食っていた。


「なるほど。これが異世界の料理か」

「異世界の料理といっても食材もシェフも地球のものだけどな。異世界での料理というべきだ」

「異世界のシェフは諦めるとして、異世界の食材ってのはまだ見つからないのかよ」

「少しは見つかってるけどそれすらまだ調査中の段階だね。増やし方がはっきりとわからないことにはレストランで提供するのは難しいし」


「異世界研究は危険がつきものでなかなか進まないからな。もっと俺の会社を信頼して出資してくれりゃいいのに」

 奏は不満そうに言って食事を続けた。



「ご馳走様。それじゃあ本題に入ろうか」

 奏は食事を終えるとようやく相談の内容について話し始めた。


「俺はな、異世界にすげー興味があるんだ。それこそ自分の会社で異世界開拓を主導するほどにな。しかし俺自身は異世界には無断で立ち入ってはいけないと副社長の叔父に言われてるんだ。もし異世界に来たとしても叔父の監視付きだ。俺が望んだ異世界開拓ってのはこんな縛られたものじゃない。もっと自由でワクワクする冒険を自分の手でしたかったんだ」

「それで?」

「俺は冒険者になることにした。社長の立場ではなく冒険者として異世界に関わりたいんだ。ついでに正体を隠して現場の様子を見ておくのもいいと思うしな」


(海外のテレビでやってるやつだ)

『社長が自分の会社に潜入するやつな』

(最後にお世話になった先輩にチケットとかプレゼントするやつですね)

『詳しすぎるだろ。お前テレビどんだけ見てんだ』


「なるほどね。つまり冒険者達に潜入したいと」

「潜入ね……」


(潜入ってのは主様と同じですね)

『一緒にするな』

(一緒ですよ。性格があんまり良くないのもそっくりです)


「いい考えだとは思うけど会社の方は忙しくはないの?」

「忙しいと言えば忙しいが、お前達の想像ほどじゃない。会社のことは叔父達がほとんどやってるし、普通の学生ほどではないが時間は作れるはずだ」


「それで? 結局僕達に相談したいことってなんなんだよ」

「それは……冒険者のなり方がわからないんだ」

「社長なのに知らないのか」

「そういう細かいことは叔父さん達に任せてるから」

(任せすぎでは? 副社長が悪い人だったら乗っ取られてましたね)

『乗っ取られた方が良かったんじゃないか』


「情けないと思われても仕方ない。でも、頼む! 俺を冒険者に仲間にさせてくれ!」

 空流は少し考えてから答えた。

「わかったよ。できる範囲で手伝うよ」

「はぁー……しょうがないな」

(いいんですか?)

『まあ、この世界の開拓を主導する会社の社長だからな。調べておいても無駄にはならないだろう』




 僕よりも詳しいであろう空流に説明を任せると、彼女は紙に書きながら話し始めた。

「ステップ1、名前を登録する。まずはギルドに行って名前を登録して冒険者として認めてもらう必要があるんだ」


「名前か、流石にこのままだとギルド長なんかに見られたらバレるよな」

「ああ、登録する名前は下の名前だけでOKだよ」

「それはセキュリティ的にどうなんだ」

「お前の会社だろ」

「バレたくないなら偽名を使おう。多分バレないはずだ」

「やっぱりセキュリティ的にどうなんだ」


(自分の会社に不安を感じていますね)

『この社長にしてこの会社ありだな』


 偽名と聞いて僕は思いついたことを言ってみる。

「偽名なら空流に名付けてもらったらどうだ?」

(主様悪いやつですね〜)

「下の名前だけでいいならそのまま奏でいいよ。空流ほど珍しい名前でもないしな」

「そっか、残念だ」

「僕も残念」

(本当に残念)

「そんなに偽名つけたかったのか?」

 奏はきょとんとした顔をしていた。



「ステップ2、試験に挑む。冒険者としての資質を試す試験に挑んで合格する必要があるんだ」


「試験……めんどくさいな」

「ちなみにこれは推薦状があれば飛ばせる」

「推薦状? 誰からの?」

「僕は大学の教授から」

 空流はそう答えた。


(主様は?)

『僕は偽造した』

(セキュリティへの信頼が下がる下がる)

『バレないように魔法でギルドの奴を洗脳したんだ』

(それならしょうがないか)


「でもなかなか試験を飛ばせる人は少ないんだよね。それなりの地位と実績のある人からの推薦じゃないと認められないから」

「仕方ない、試験を受けるか。流石に叔父さんに推薦状をもらうわけにはいかないし認めてくれないだろうからな。それで試験はどんなことをやらされるんだ?」

「さあ? 僕は知らないや。訊いてみたことはあるけど怯えた様子で答えてくれなかった」

「うちの会社は何をやらせてるんだ」


『そういえば僕も試験は受けてないけどいい噂は聞かないな』

(やっぱりこの人の会社腐ってますよ)

『幹部を集めて改善するように言ってくれ。お前達も現場を知れと言ってくれ』

(いよいよテレビ番組みたいになってきましたね)


「なんか怖いから口の固い幹部に推薦状を頼むか」

「だからお前の会社だろ」

「俺の会社はブラック企業だ。よく言うブラック企業と違って従業員には優しいが、危ないことをやっているブラックな企業だ」

「わかってるならなんとかしろ!」

『潜入するまでもないじゃねえか』

(裏で生物兵器とか作ってそう)

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