第24話 フウへのプレゼント
翌朝、僕はわざわざ《悪魔の傘》のフウのもとを訪ねた。
「どうしたんですかお兄様。こんな朝早くに訪ねてきて」
「ちょっと渡したものがあってな。ほら、誕生日プレゼントだ」
「誕生日とは? 私にそんなものありましたか?」
「ほら、封印が解かれただろ。その記念だ」
「封印したのはお兄様ですけどね」
嫌味ったらしくフウは言った。
『流石に無理があるか』
(主様ってたまに無理のあること言いますよね)
『無理難題を解決するためだ』
「怪しいですがもらえるものはもらっておきましょう」
僕がフウに渡したのは素朴なデザインのイヤリングだった。
(あのイヤリングは何なんですか? 昨日徹夜で作ってましたけど)
『あれには魔法が込められているんだ。もしもフウの近くで人や動物が傷付いたら自動的に回復魔法、死んだら蘇生魔法をかけるように設定した。ついでにもし無理やり外そうとしたり魔法が追いつかなくなるほど暴れたら自動的に封印魔法がかかるようにもした。あくまでも簡易的な封印だからその時は僕がしっかりとした封印をすることになるがな』
(もう、猛獣扱いじゃないですか)
『猛獣よりも厄介だろ』
フウはイヤリングをじっと眺めてからようやく耳につけた。
「似合ってますか?」
「え、あ、うん。似合ってる」
「お兄様だから当てになりませんね」
「じゃあなんで聞いた」
フウは近くにあった鏡に顔を映して見た。
「センスのないお兄様にしてはいいものを選びましたね。気に入りました」
『言いたい放題言いやがって。自分勝手が』
「それをあげたんだからちゃんと大人しく過ごせよ」
「はいはい、それじゃあ私これからお出かけなので帰ってください」
そう言ってフウは鼻歌を歌いながら自分の部屋に帰って行った。
(本当に外見だけなら可愛らしい少女なのに……)
『中身はギャングスターだな』
(それ絶対言葉出さないでくださいよ)
その後フウと別れてから僕達は姿を消してこっそりとフウの跡をつけた。魔法のイヤリングがしっかりと働くかを確認するためだ。
「風華ちゃん、クエスト行こう」
「風華ちゃん、うちのレストランで食べて行かない?」
「風華ちゃん、この前助けてくれてありがとね」
(このクランハウスの周りだとすごい人気者ですね)
『怯えてるだけじゃねえの』
(いや、街の人たちの笑顔は別に引きつってはいません。ボロを出していないんですよ)
その後もフウは街を歩き続けた。
『このままだとイヤリングの効果がわからないな』
(じゃあ主様はここでフウ様が暴れて欲しいんですか)
『そういうわけじゃない。でも丁度いい悪人が現れてくれたら』
(あ、見てください主様。あの人昨日のナンパ男です)
メイが指差す先には昨日のナンパ男らしき人物がいた。
(でも髪がありません)
『反省して頭を丸めたのか』
「あ、風華さん……あの昨日は本当にすみませんでした。なんか昨日の記憶がなくて……ただ何かすごい恐ろしいことがあったような気がして……本当にすみません」
(謝ってますね。フウ様はどうするでしょうか)
『流石に……いや』
「なぜ生きているのか、そんなことは興味ありません。その謝罪は自己満足のためなのでしょうか、そんなことも興味ありません」
そしてフウは男を路地裏に連れて行き、数秒して一人で出てきた。僕達が急いで路地裏に向かうとそこには蘇生魔法がかかったばかりの元ナンパ男がいた。
『可哀想だが確かめられたな。一応痛覚を遮断する魔法も共にかかるようにしておいてよかった』
(それにしても蘇生魔法があるとはいえ死が軽い……)
『冒険者ってやつは死を恐れねえイカれたやつばかりだ。クエストで何回も死んでるせいでもう死ぬのなんて全く怖くないらしい』
(私達が一年いない間にそんな連中が生まれていたとは……)
メイは倒れている男を見ながらそう言った。
僕達はとりあえず安心して《鍵の家》のクランハウスに戻った。
『解決できてよかったな』
(あれで解決でいいんですかね)
『それは僕も少し思っていて口に出さなかったんだ』
(現実を見てください)
『でもあいつは今日公衆の面前での殺人は避けていた。僕の忠告を聞いてなるべく悪目立ちせず大人しくするつもりなんだろう。ナンパみたいな怒りを買うことをしなければあいつは平穏に過ごしてくれるだろう』
(大人しくとは? 平穏とは?)
『これまでのフウのことを考えれば十分大人しいし平穏だ。僕はそれで妥協する』
(本当にヤバい人なんですね、フウ様は)
『そうだ。そして今回のフウの件で僕がいかにまともかわかったろ』
(いえ、主様はまともではなく少しましなだけです)
『あれ? ちょっと前まで僕を持ち上げてたのに。あ、そうか、フウがいなくなって身の安全が確保された途端に僕への感謝が消えたのか』
(そういうことです)
『そんなクズみたいなことを自信満々に言うな』
(もしまたフウ様と会ったらお願いしますね)
『都合いいな、お前は』
メイは悪びれもせずににっこりと笑った。実にいい笑顔だった。
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