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第15話 闇クラン

 ある朝僕らは緊急ミーティングということでクランハウスに集められた。全員が集まると勇気が前に出て話し始めた。

「みんな、おはよう。早速本題に入ろう。実は大変残念なことだが大規模クエストを延期することが決まった」


 一同は勇気のその報告を聞いて騒ぎ始める。そんな中美波が一人手を挙げて勇気に尋ねた。

「どういうこと? 偵察の結果、有害なドラゴンはいなくなったんでしょ。それなのに延期?」

「確かに空流くんと凪くんのおかげで魔物のドラゴンはいなくなった」


『僕らのおかげというかアリアのおかげだけどな』

(アリアちゃんのことはまだ公表されてないんですね)

『混乱の元だからな。だが近いうちに公表はするらしい』


「しかし最近冒険者を襲う賊が現れたようなんだ」

「冒険者を襲う?」

「この数日ですでに八クラン、計三十六人が被害に遭っている。その中には上位クランもあったらしい。しかしその賊はたった一人でそのパーティ全員と戦い容易く全滅させたと報告されている。このことからかなりの実力者と考えられる。さらに実はこの賊の被害は同時刻に全く別の場所で報告されている」

「それって……」

「そう、賊は一人ではない。組織。ギルドはこれらのことから彼らを闇クランと名付けた。闇クランは今後もきっとクエスト中に現れて襲撃してくるだろう。注意してほしい」


「討伐のクエストは?」

「……実力差がかなりあるようだ。だからギルドは慎重になっていて、クエストはまだ出されていない」

「情けない」

 美波は呆れた様子でギルドの対応を批判した。勇気はそれをなだめてから話を続けた。


「とにかく大規模クエストの準備をしていたみんなには悪いが普段通りのクエストに戻ってくれ。そしてクエスト中はくれぐれも闇クランに気をつけて」

「ちょっと待ってください!」

 勇気の話を遮って攻撃魔導士の杏奈が声をあげた。

「私、大規模クエストの報酬があると思って散財しちゃったんですよ。このままじゃ破産しちゃいます」


 悲痛な訴えを杏奈はするが美波はそれに口を挟む。

「それはあんたの管理の問題でしょ。そもそも報酬の支給は元から半年後よ。どのみち破産していたんじゃない?」

「そ、そんな……」

 落ちこむ杏奈を見かねて勇気が助け舟を出した。

「わかった。杏奈については後で給料の相談に来てくれ。できる限り支援はするよ」


(もとより破産する運命の人が延期のおかげで助かりましたね)

『闇クランに感謝した方がいいようだな』


「それじゃあミーティングは以上だ」

 勇気はそう言ってミーティングを切り上げた。




 今日はクエストの予定があったのでミーティングの後にパーティメンバーと共に出発した。今日のパーティメンバーは空流、先ほど破産を告白した杏奈、社会人で斧使いの翔真の四人だ。


「あんなこと聞いた後にクエストなんて……泣きます。でも空流さんと一緒なのは心強いです」

「杏奈ちゃん、俺は頼りにならないって?」

 翔真はおどけた様子で杏奈に絡んだ。それを杏奈は申し訳なさそうに返した。

「翔真さん! 違います。翔真さんも頼りにしてます」

「あはは、いいよ、別に」


(今日のメンバーは年齢バラバラですね)

『そうだな。杏奈は高校生で、空流は大学生、翔真は社会人』

(で主様は数億歳。もうおじいちゃんだ!)

『お前は二百歳! ヨボヨボのおばあちゃんな!』


「それにしても破産するまで何にお金を使ったの?」

 空流が好奇心からか杏奈に尋ねた。意外とデリカシーのない奴だ。

「推しのグッズに使いました」

「推し?」

 翔真が杏奈に聞き返した。

「応援している人やもののことですよ、翔真さん」

「なるほど。じゃあ俺にとってはうちの娘が推しってことか」

「うーん? ちょっと違うような?」

(ジェネレーションギャップのある会話ですね)


 そんな会話に興味を失ったのか空流が近づいてきて僕に尋ねた。

「ねえ、凪くんは闇クランのことどう思う?」

『訊いてくると思った』

「もしかして異世界人かな?」

「あれ? まだ異世界人の存在を信じているの」

「ロマンだからね」


(ところで主様、実際に闇クランとやらに心当たりあるんですか?)

『それが今回は全くないんだ。多分だけどこれは単純に一部の冒険者が暴れてるってだけだと思うぞ』

(うーん、私なんとなく主様のせいな気がするんですよね。何か忘れているような気もするし)

『お前はどれだけ僕を悪人にしたいんだ』



 魔物と戦闘していない時のパーティは黙って進むか警戒を緩めない程度にクエストとは関係のない雑談をする二つのパターンがある。今回のメンバーは後者だった。


「うちの娘がアイドルになるって言ってオーディションを受けに行ったんだよ。でも親としては心配でさ、ほら、芸能界って怖いだろ。どう思う?」

 翔真が娘と同じくらいの歳だという杏奈に尋ねた。

「どう思うと言われても……それなら推しという言い方は間違ってないのかなって」

「いや、そういうことじゃなくて」


 杏奈の回答があまりに見当違いで空流が代わりに答えた。

「娘さんのやりたいことをやらせてあげたら良いんじゃないですか。危ないことがあったら助けてあげられるよな信頼関係があるようですし」

「そうかな。僕は危ない時に助けられるとかじゃなくてそもそも危ないことに近づけたくないんだ」


『冒険者なんかよりは安全だと思うけどな』

(闇クランがいるって話聞いてないのかってくらい能天気な会話ですね)

『闇クランがいるって話の中で自分の給料の心配が先に来るようなやつだからな』


 そんな奴らでも魔物を前にするとしっかりと仕事をする。翔真が前に出て魔物の集団を抑え杏奈が魔法で数を減らしていく。空流は攻撃を二人に任せて近づいてくる魔物を倒していく。僕は彼らにデバフもかけているがそれがバレないようにしっかりバフもかける。

(意外といいチームですね。主様を除いて)


「今日のパーティいい感じですね」

「そうだね。それにしても空流くんは今日テイムした動物がいないのによくここまでやれるね」

 グリムはこの前の怪我の影響で今日は連れてきていないらしい。

『会いたかったのに』


「相棒だよりにはなりたくないですからね。それに元々グリムは偵察向きですし」

「戦闘向きの動物はいないんですか」

「テイムが少し難しくてね。それに戦闘に連れて行くとなるとかなり強くないと僕が安心できない。この前のグリムの怪我で再確認したよ。いっそテイマーをやめてしまってもいいかもしれない」

「色々考えてるんですね」

「君は何も考えずに報酬が高いクエストに突っ込むのをやめようか」

「えへへ、それは……!」

 突然杏奈の体が横に吹き飛んだ。


「な……!」

 さらに驚いて足が止まった翔真に仮面をつけた謎の男が襲いかかった。


「やめろ!」

 間一髪のところで空流が蹴りかかりそれを防いだ。そう二人は思い込んでしまった。

 その男は空流の蹴りを片手で軽々と受け止めそのまま足首を握りつぶした。


 そして元の狙い通り翔真の体に重い一撃を与える。重い重い一撃だった。翔真は重い装備と共に十数メートル吹き飛ばされて木をへし折ってようやく地面に落ちた。衝撃で大きな音がした。


 その音に怯むことなく男は空流にとどめを刺しに行った。空流は寸前でかわして距離をとる。しかし空流が逃げた先の地面には爆発魔法が仕掛けられていた。


「魔法……お前は、何者……」

 爆発に巻き込まれて空流は倒れていった。


『さてと……人の目があったから黙って見てたけど、もういいか』

(何者なんですか、こいつ)

『わからないが、人間じゃないだろう。僕と同種か、それとも……おっと』

 僕がメイと話しているとその男は不躾にも攻撃を仕掛けてきた。


『メイ、三人の回復は任せた』

(了解です)


 先ほど見た通り敵は武器を持たずに至近距離で格闘するファイターでありながら魔法も使える。これは冒険者では見たことがないスタイルだが仮に魔法格闘家とでも名付けようか。

(名付けるならマジシャン・グレイト・ファイターですね)

 すぐに戻ってきたメイがくだらないことを言う。


『ふざけて空流みたいなネーミングするな。回復は?』

(蘇生が必要な人もいましたが全員終わりました。安全な場所に運んでもおきました)

『よくやった。それじゃあ、大切な被検体を傷つけた罪を償わせてやる』


「ブオー!」

 男は知性があるとは思えない獰猛な叫び声をあげた。


(なんですかこいつ。まるで魔物みたい)

『もし魔物なら容赦はしないが、こいつに関しては色々と調べたい。なるべく手加減して、そうだなこの魔法かな』


「《サイレン》」


 さっきの敵の咆哮を記憶し増幅して返す。音は木々を薙ぎ倒すほどに強力になって男にぶつかった。そして男は動かなくなった。

「自分の声に倒れるとは情けないな」


(なんですか、この魔法)

『最近作った魔法だ。朝起きられなくてな』

(あ、いつものアラーム! 目覚まし時計ないのに鳴ってるの不思議だったんですよね)

『そう、毎朝いい感じの音楽で起きたかったから作った』

(スマホでいいじゃないですか)

『設定の仕方がよくわからなかったんだ』

(やっぱりおじいちゃん……)

『一度訊いた時お前もわかってなかっただろ、クソババア』

(今、一線を越えました。親子の仲が崩壊するような悪態ですよ今のは。反抗期ですか)

『どちらかというとお前が僕に反抗しているんだ、いつもな! そんなことよりもだ。この返り討ちにされた闇クランって奴の間抜けづらを拝んでやろう』


 倒れた男の仮面を剥ぎ取るとその奥には想像もしていなかった顔があった。それは僕の顔。僕と全く同じ顔がそこにはあった。

(これは……よく見慣れた間抜けづらだ)

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