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9.レアンの隠し事

 レアンは最近掴まり立ちをするようになってきた。一歳で掴まり立ちは周りの子より早いらしいのだ。


 そこでまずやり出したこと。

 テーブルの角をへツマという食器洗いに使っていたものをノーリという植物の液で貼り付けていく。

 あれは大量にあるのでケガしそうになる角には全て貼り付ける。


 そんな俺の努力をよそに、あぶなっかしいところをひとつも見せずに歩き回り始めたレアン。

 本当に疑問なんだが、なぜか最初から歩き方を知っているようなそんな風に歩くのだ。


「おいっ! ソニア! レアンが歩いた!」


 ────ドタドタドタッ


「レアンが!? あぁ! 凄いわレアン!」


 進行方向に行くと抱きしめた。

 そして頬擦りをしている。

 なんだかレアンが恥ずかしそうにしている気がする。


 そんな訳が無いのだが。まだ一歳かそこらだぞ。

 だが、昨日ソニアが魔力が増えている気がすると言っていた。感覚的なものだから曖昧で正確には分からないらしい。


 そういえば、最近奇妙なことが起きている。同じ部屋に寝ているはずのレアンが布団から出てどこかに行っていて、目の前が濡れているとか。


 物音がしたと思ったら壁が濡れているとか。そういう時に隣で寝ているレアンは大抵魔力切れのような症状をしているらしい。


「凄いやつだな? レアンは」


 レアンとソニアを眺めていて感傷に浸ってしまった。歩き始めたら目が離せないってジェイさんが言っていたな。気をつけないと。


 そんなことを考えていたその日の夜。

 あまり寝れなかった俺は目を閉じていたが起きていたのだ。すると、ゴソゴソと動く音がするではないか。


 何かと思い少し目を開けて見てみるとベッドからはいだすレアンの姿が。どこに行くのかと目を追うと風呂場の方に行くではないか。


 不思議に思って静かに音を立てないように後を着いていく。もう歩けるようになったので普通に歩いている。たまに危なっかしくてヒヤヒヤするが、ぶつけるような所は全部俺がカバーしてる。


 そうじゃなくて。レアンはお風呂場に行くと手を前に突き出した。何をする気なのか頭にはハテナだらけだ。こんな時間に起きて一体何をしようというのか。


「でて」


 言葉に反応したように風呂場に水の塊が出現し、フヨフヨと段々大きくなっていく。

 これって……魔法に詳しくないが、凄いことなんじゃないのかと頭を悩ませていると。


「うぅぅ」


 ────バッシャャャャャン


 風呂釜が満杯になる程の水が一気に釜に叩きつけられたため、すごい音を発した。それは家中に響き渡った為にソニアも驚いてやって来た。


「なにがあったの!?」


「ははははっ。レアンがやったんだ」


「何を!? この水は……」


 ソニアは目と口を開いてポカンとしている。


「俺がこっそり後をついてきて様子を見ていたんだがな、レアンはソニアみたいに詠唱をしていなかった」


 それを聞いたソニアは腕を震わせるとペタンと座り込んでしまった。


「それって、凄いことなんだろう?」


「何か言ってた?」


「あぁ。ただ、『でて』と。それだけだ」


「信じられない。私の子が無詠唱の使い手なんて。あれは、イメージが正確でないとできるものではないのよ」


 ソニアは頭を抱えて横に頭を振るう。

 事の重大さを俺も理解した。

 これも知られたら国に連れていかれるんだろうな。


「なぁ。このことは……」


「えぇ。他言無用よ」


「わかった。全く。なんて息子なんだ」


 俺はもう我慢できなかった。

 頬が緩み笑いが止まらない。


「ハッハッハッハッ! うちの子は天才だ! すげぇ! これで、剣術も覚えてみろよ! 凄いことになるぞ!」


「ちょっと。程々にしてよね? レアンが魔法を嫌になったり、剣術を嫌いになったら元も子もないわよ?」


「うっ……そうだな。程々にしないとな」


 スヤスヤと寝るレアンを眺める。


「でももしかしたら今は魔法しか出来ないからやってないのかも……」


「そんな、自我があるって言うのか?」


「実は、レオン王子がそうだったのよ。小さいころから勝手に魔法や剣術に興味があって、ドンドン習得していったのよ」


 たしかに少し前にソニアがそんな話をしていたのを思い出した。って事はやっぱり。


「じゃあ、転生者って……ことなのかな?」


「そうかもしれないわね。これだけ王子との接点があるとそう考えるのがいいかもしれないわね。ということは、この子は何かの役割を背負ってるかもしれないと言うことよ」


「役割? というと?」


「んー。ちょっと信じたくないんだけど、もうすぐ復活するかもしれないとされている。魔王の討伐とか……」


 俺は目を見張って嫌な汗が頬を伝う。

 そんな命の危険がある役割をレアンが背負わなきゃいけないと言うのか。


「分かんないわよ? でも、なんとなくそうなのかなって」


 ソニアの目には滴が溢れる。

 そんな重荷を背負っているのかと思うと心配でしょうがないのだろう。それは俺も同じ気持ちだから。


 ソニアがレアンを抱き締める。俺はその二人を覆うように抱き締める。


「大丈夫。きっと大丈夫だ。俺達の息子なんだから」


「グスッ……そうね。この子を信じましょう」


「負けないぐらい強くするさ」


 俺は数年先の剣術の鍛錬をスパルタにすると決めた。

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