2、挨拶
「ライラ、支度はできましたか?」
「はい、お母様」
「それでは、ゴードン様の家に行き、挨拶をしよう」
「はい、お父様」
ライラ達クロース家辺境伯家の人間は、馬車で隣国グローサへ向かった。
「ライラ、ゴードン様と話をして、どうしても耐えられないようだったら私に言いなさい」
「お父様……きっと大丈夫だと思いますわ」
ライラは父親を元気づけるように微笑んだ。
ゴードン達の住む王宮への道は思ったほど遠くなかった。
「そろそろ着く頃だろう」
「お父様、お母様、道の周りが黄金色ですわ」
「ええ、ライラ。この辺りは小麦が沢山とれますからね」
ライラは窓からの眺めを楽しんだ。
ライラの目に、王宮が映った。
「まあ、なんて綺麗な王宮なのでしょう。華美ではなく、自然と調和していますわ」
「そうですね、ライラ」
王宮の前につくと、馬車が止まった。一番先に馬車を降りたのは、クロース辺境伯だった。
「さあ、ライラ。気を付けておりなさい」
「はい、お父様」
ライラは父親のクロース辺境伯に手を取ってもらい、馬車を降りた。
カールした長いダークブラウンの髪が、風にあおられてふんわりと舞い上がる。
「大丈夫? ライラ」
「はい、お母様」
最後に母親が馬車を降りると兵士が現れた。
「ようこそグローサ王国へ。王と王妃、王子たちがお待ちです。こちらへどうぞ」
「さあライラ、行こう」
「はい、お父様」
父親と母親につづき、ライラは兵士の後について歩いた。
応接室につくと、クロース辺境伯夫妻とライラは席に着いた。
すぐにグローサ王と二人の王子が現れた。
「やあ、よく来てくださいました、クロース辺境伯」
「グローサ王、お久しぶりです」
父親がいうと、母親も言葉を続けた。
「先日のパーティーではお世話になりました」
グローサ王はクロース辺境伯と握手をした後、クロース婦人と握手をし、最後にライラと握手をした。
「ご息女のライラ様ですね」
「はじめまして、グローサ王」
ライラは自分を見つめるグローサ王に向かって微笑んだ。
「さあ、ゴードン、マルク、ライラ様にご挨拶を」
先に手を差し出したのは、マルク王子だった。うねりのある金髪をかきあげて、ライラを見つめてニコリとほほ笑んだ。
「はじめまして、ライラ様。マルクと申します」
「マルク王子、よろしくお願いします」
次に手を差し出したのは、ゴードン王子だった。美しいストレートの金髪で顔を隠していた。
「これからよろしくお願いいたします、ライラ様」
「ええ、ゴードン王子。こちらこそよろしくお願いいたします」
その時、窓から入った風が、ゴードン王子の前髪を撫でた。
一瞬、ゴードン王子の顔があらわになった。ゴードン王子の顔には、左目から左ほほにかけて大きなやけどの跡があった。
顔を見られた瞬間、ライラにはゴードン王子の深い青い色の目が、よりいっそう沈んで見えた。