終わりと引き替えに約束を
「ふわぁ…今日から新学期かぁ…全然そんな気がしないよなぁ…」
呑気にそう言ったのは、僕の友達であり親友の大ちゃんだ。彼はよく、こんな風に独り言を呟く。
出会ったばかりの頃は僕に向かって言っているのかと思って言葉を返していたけれど、長く付き合っていくうちに彼は独り言を呟いていることに気づいた。おかげで今は言葉を返すことはしない。
彼の言う新学期というのは、高校一年の二学期のことをさしている。確かに、大ちゃんの言う通り夏休み明けということ以外周りは何一つとして変わっていない。あえていくつか挙げるのならば、活気が溢れていること。そして…。
「大ちゃん、はるくん、おっはよー!」
夏休み前と変わらないテンションで僕らを呼んだのは、テンション高すぎる高杉さんだ。今日も一段と声が大きい。
「おいなお!朝っぱらからそんな大声出すなよー…頭に響くだろうが」
大ちゃんが言った。
「えーごめんっ、二日酔いの大ちゃんには、今の私の活気が強すぎちゃったかな~??」
ニヤリと笑いながら僕の後ろに高杉さんが隠れた。
「おいおい、誤解を招くような言いがかりは止めろよ。だいたい俺らはまだ未成なんだぞ?そんなんで酒なんか飲めるかよ!」
「あ~そっかそっかぁ…って、え!?大ちゃん未成年者だったの!?」
「なっ、当たり前だろ!でなきゃこんなところに通ってねぇって。あ、そういやなお、髪切ったんだな」
そう、今大ちゃんが言った通り、変わったというのは高杉さんの髪型だ。肩より少し下まであった長い髪を、肩より五センチほど上までバッサリと切っていた。正直、僕は前の髪型の方がよかったと思っているけれど、今さら彼女にそれを伝えたところでもう遅い。
「はる、お前もそう思うだろ?」
どうやら、僕が考え事をしている間に話が進んでいたようだ。何の話をしていたのかはさておき、とりあえず適当に相づちを打つ。すると、大ちゃんは「ほらな、」と楽しそうに笑った。
「いやぁ~二人にそう言われると照れるなぁ。でも私、本当はそう言ってほしかった訳じゃないのっ!」
高杉さんはキッパリそう言うと、女子集団の方へ行ってしまった。
「あいつ、何キレてるんだ?」
それは僕も同感だった。
しばらくしてチャイムが鳴り、同時にクラスにゴジ…いや、担任の先生が入ってきた。
このクラスの人達は、担任のことをゴジラと呼んでいる。