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孤高の彼女  作者: 赤虎
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別れ、そして・・・

1


全日本新体操ジュニア選手権5連覇、全日本ジュニア体操競技選手権大会4連覇を成し遂げた紗希は、15歳で体操競技から引退した。世間は騒いだ。シニアの世界選手権で新体操と体操の2冠を獲ることが確実視された逸材が理由を明かすことなく突然引退を表明したのだから当然だろう。しかし、外見は15歳の少女でも、紗希の内臓は原因不明の疾患で70歳代の高齢者と同程度まで機能が衰えていた。もう限界だった。


その後、紗希は所謂進学校に入学した。しかし、16歳で80歳の内臓機能しかない紗希には通常の高校生活すら不可能になり、学校も休みがちになった。それでも学校の配慮でリモート授業を受け続けた結果、1年は何とか成績を維持できたが、2年になるとそれすら不可能になり、休学せざるを得なくなる。


紗希は今日も居間でうたた寝をしている。1日20時間以上寝ているかもしれない。僕はリモートで大学の仕事ができるので、常に紗希の傍にいることができた。紗希は目を覚ますと僕を呼び、甘えてくる。僕もそれに応えて紗希の傍に座り、とりとめのない雑談をしていると、気が付けば紗希は寝ているということの繰り返し。僕はこの娘に何をしてやれたのだろう?体操の世界に引きずり込んで、数多の栄誉を与えることはできた。しかし、紗希が望んでいたのは、ひょっとしたら今のような生活ではなかったのか?暖かな日差しが差し込むこの居間で、1日中ゴロゴロとうたた寝をする日々。傍から見れば怠惰な生活に過ぎないが、これこそ紗希が望んでいたのではないかと、日増しに衰えていく紗希を見守りながらそう思った。


紗希の18歳の誕生日、つまり、僕の家に全裸の少女が現れた日、僕と紗希は2人だけで誕生日を祝った。僕は奮発して所謂高級魚の刺身を大量に買い込んだ。紗希は大喜びでその多くを食べたが、暫くすると吐き出してしまう。紗希は泣きながらごめんなさいと言い続け、意識を失った。最期の時が近いと僕は悟った。


病院に緊急搬送された紗希は、ようやく意識を取り戻した。


「お父さん・・・」

「紗希・・・ごめん。僕がもっと早く気付いていれば、効果的な治療ができたかもしれないのに・・・」

「違うの・・・これは私の寿命なの・・・私は、最初から20歳まで生きることができない運命なの・・・あの日の約束だから・・・」

「どういう意味だ?」

「・・・私、必ず帰ってくるから・・・必ず・・・絶対にお父さんを1人ぼっちにさせないから・・・」


これが紗希の最期の言葉だった。


2


紗希が18歳でこの世を去って、僕はまた1人になってしまった。そんなある日、僕は気分転換に家の近所を散歩した。紗希と一緒によく来た公園のベンチに腰掛け、何となく空を見ていた。


「お父さん!」


紗希の声がした。振り向くと、そこには笑顔の紗希がいた。


「ただいま!お父さん!」

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