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孤高の彼女  作者: 赤虎
40/45

新年会

1


「これだけ?」

「そう・・・全部7等だった・・・」

「籤運が尽きたようですね・・・」


テーブルの上にはトイレットペーパーが6本ある。恒例の桜町商店街の歳末福引、今年は大外れだった。


「温泉旅行は期待していなかったけど、せめてお米5kgは欲しかったな・・・」

「私はお餅2kgでも良かった・・・」

「温泉旅行は別途考えよう・・・僕も久しぶりに寒ブリ食べたいし・・・」

「寒ブリ、今シーズンは無理だよね・・・これから後期試験があるし、それが終わったら入試もあるし・・・」

「来年の年末にしようか?早めに予約すれば何とかなるさ」

「そうだね・・・ところでハチは何時帰省するの?」

「しない」

「どうして?」

「お父さんが未だに根に持っているから帰ってこなくていいとお母さんが・・・」


夏休み、私が見合いをブッ壊した結果、父は例の県会議員から出入禁止を言い渡され、病院を拡大するという父の野望は完全に潰えた。自分が私を無視して時代錯誤な政略結婚を何年も前から画策しておきながら、野望が潰えた原因を私のせいにするとはあまりにも酷過ぎる。そして未だに根に持っているとは・・・母は私と頻繁に連絡が取れるからあえて帰省する必要はないと言ってくれているけど・・・


「それじゃ仕方ないね・・・実は、2日に桜木学部長から新年会に招待されているんだけど、八屋君も一緒にどう?」

「はい、御邪魔でなければ」

「邪魔なんてとんでもない。八屋君はもう家族の一員のようなものだから」

「でもさ、いいの、新年会に行って」

「何故?」

「当然、院長も出てくるよ。学部長と一緒に!」


そうなるだろうな。紗希は面白がっているけど・・・


「構うものか。30年前の話だ」

「強がっちゃって!」


2


年明けの2日、私達は桜木動物総合病院に出向いた。人数が多いから病院の会議室で新年会をするとのこと。病院の玄関で、晴着姿の奈那が出迎えてくれた。


「おめでとうございます!菊地教授、菊地先輩、八屋先輩!」

「おめでとう、桜木君!」

「綺麗だよ、キュウ!」

「ありがとうございます!」

「おめでとう、奈那・・・」

「あれ?八屋先輩、元気ないですね?」

「ハチはね、父親と喧嘩中なんだよ」

「そうなんですか・・・」

「大丈夫、気にしないで」

「立ち話も何ですから、こちらへ!」


奈那は新年会の会場である会議室に案内してくれた。そこには、既に桜木夫妻が待っていた。テーブルには御節料理が並んでいる。でもこれじゃ紗希は・・・


「大丈夫ですよ。菊地先輩の分は別途作りましたから」

「じゃ、全ての料理を2種類作ったってこと?」

「そうですよ。菊地先輩のためですから!」


奈那はそこまでして・・・


「菊地君、おめでとう!さぁ、席に座って・・・では、僭越ながら乾杯の音頭を・・・昨年は藤村君の藤村9号改4Ver5.3を普及させるために、つまり農学部オリジナル商品を確立させるために学部が異なる菊地君に頑張ってもらった。この場を借りて再度御礼申し上げたい。ピザハウスは開店後まもなく黒字になり大繁盛している。多くの新聞や雑誌、SNSにも取り上げられ、藤村9号改4Ver5.3を使いたいという要望が全国各地から届いている。未だ未だ知名度も売上も近大マグロには遠く及ばないが、マグロと異なりピザは世界的に普及しているので市場規模が異なる。秋以降、藤村9号改4Ver5.3を生産したいという農家も増えている。今年は藤村9号改4Ver5.3を去年の2倍以上生産し、海外に打って出る計画だ」


長い・・・


「それと、朗報がある。未だ内定に過ぎないが、4月1日の人事で私が学長になることになりそうだ」


何だ、自画自賛かよ・・・


「おめでとうございます!」

「未だ早い。同日付の人事で、菊地君は工学部学部長になる」

「えっ!」

「教授、おめでとうございます!」

「ありがとう」


あれ?反応がイマイチだな・・・


「菊地君も藤村君も、将来性が無いという一般的評価にも関わらず研究を始め、長年の試行錯誤、努力の結果、画期的な成果を生み出した。昨今の、短期間で成果を出す、しかし薄っぺらい研究者に対して、2人は正に研究者の鑑だ。我が大学の誇りだ。藤村君は此処にいないが、新年と、2人の研究者のために祝おう!乾杯!」

「乾杯!」


3


「でもさ、実用化はどうするの?」

「准教授の栗橋君が教授に昇格する予定だ。今後は栗橋君が中心になって実用化を担うことになる」

「でも、それじゃお父さんが・・・」

「いいんだよ。誰かがしなければならないことを、たまたま僕がしただけだ。栗橋君なら大丈夫。きっと僕の夢を実現してくれるから。それに、僕は桜木学部長から重要なミッションを与えられたからね」

「何それ?」

「工学部、特に機械システム工学科では水面下で精密誘導兵器や軍事用パワードスーツの研究が行われている。これは現学長と工学部長の意向を反映したものだ。資金獲得額が向上し、大学の評価も高まるからね。以前から桜木学部長は軍事研究を学問の外道と見做し嫌悪していた。桜木学部長は自身が学長になり、僕を学部長に据えて、この大学から軍事研究を一掃する考えなんだ」

「・・・」

「桜木学部長は、僕を学長に据えるつもりだ。二度と軍事研究ができない体制を確立するためにね。僕も同じ考えだ。技術は人を幸せにするためにある。人を殺傷する技術はこの地上から一掃しなければならないからね」


そうか、だから単純に喜べないんだ・・・桜木学部長、只物じゃなかったんだな・・・


「菊地君!」


桜木学部長が呼んでいる。


「紹介しよう。妻の玲子だ」

「菊地君、お久しぶり・・・」

「こちらこそ・・・古河さん・・・」

「おや?既に旧知の関係なのかい?」

「僕達、高校2年の時に同じクラスだったんです」

「そうか!35年ぶりの再会ということか!積もる話もあるだろう。私は失礼するよ」


学部長は全然知らないんだ。あの2人が5年も付き合っていたことを・・・その時、会議室の内線電話がけたたましく鳴った。


「はい、どうしたの?」

《破水後2時間以上経過したチワワが搬送されました!》

「直ぐ行くからオペ室に運んで!山崎先生は!」

《連絡済です!》

「分かった!・・・菊地さん、八屋さん!お酒飲んでないよね!」

「飲んでいません!」

「私も!」

「奈那は!」

「飲んでないよ!着替えてくる!」

「手伝って!」


私達は院長と共にオペ室に向かった。


「どうやらお開きのようだね?」

「未だ30分も経っていませんが・・・」

「どうだね?場所を変えて飲み直すかい?」

「そうしましょう」


4


「終わった・・・あれ?誰もいない・・・」

「さては飲み直すために出かけたな・・・」

「私達が命を守っているのに何考えてんだか・・・」

「山崎先生、折角ですから御節をどうぞ」

「じゃ、遠慮なくいただきます」


その日の夕方、菊地教授は泥酔して帰ってきた。4月1日以降の新体制で工学部は変わるんだろうな・・・その様、見届けたい。

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