モブなので平凡に生きる予定でした~何故か攻略対象者の1人の距離感が近過ぎるのですが
設定にこだわっていませんし、いつも思い付きで書いているのでお話自体がゆるいです。
あまり辛辣な感想をいただくとへこたれて落ち込むのでお手柔らかにお願いします。
気が付いたら私は乙女ゲームの世界で生きていた。
中世ヨーロッパを基にした様な、それでいて魔法や妖精、女神に魔物も存在するファンタジー要素が強かった乙女ゲーム『SWEET FAIRY LOVERS』通称スイラバの世界に。
最初は「ここはどこ?私は誰?」状態で、まさか自分がスイラバの世界にいるとは思わなかったのだが、ある日ふわふわのピンク髪の少女を目撃してここがスイラバの世界だと知った。
ふわふわピンク髪の少女こそこの世界のヒロインである『リスリー・アロア』だったのだ。
本来であれば子爵家の娘だったが、子爵家はリスリーが生まれる直前に没落した為にリスリーは普通に平民として育った。
しかし15歳の時に行われた祝福式の時に純聖魔法の持ち主だと分かりそこから物語が動き出す。
祝福式とは15歳になった者が女神からの祝福を授けて貰える儀式で、その際に自分が何属性の魔法を持っているのか分かる。
そして純聖魔法とは聖魔法の最上位魔法で女神の化身と呼ばれる乙女にしか出現しない為、リスリーは聖魔堂教会の庇護の下この国最大の魔法学園『シャノワール学園』に入学し、そこで攻略対象者である6人の男性達と恋に落ちる。
一人一人を攻略するも良し、最終的にハーレムルートを解放して逆ハー狙いも良し、誰も攻略せずに妖精や魔物の図鑑をコンプリートするも良しなゲームだったので結構な人気を博していた。
私は友達に「これをやらないなんて女子と呼べない!」と変な理由で押し付けられてやっただけだったので実の所このゲームについて細かくは知らない。
私がプレイした際に攻略したのは一番攻略しやすい『ブーレス・ハスリー』子爵令息だった。
人懐っこくて少し甘えん坊で寂しがり屋な子犬的なキャラクターで好感度がグングン上がる事で有名だったので攻略は呆気ない程に簡単だった。
一番人気だったのはヤンデレ王子の『リュシュファー・ニコルカーン』だったと思う。
白に近い銀髪に真っ赤な瞳。
彫刻の様な完全なる美を持った男とか言われていた気がする。
表面上は王子らしくキラキラ爽やかで人当たりも良く申し分ないのだが心の闇が深く、人を愛すれば愛する程に闇が濃くなって、ヒロインと両思いになる事でようやく少しずつ闇から開放されるとか何とかだった気がするけどヤンデレキャラに興味がなかったので攻略もしなかった。
ただ一番人気だけあり王子の容姿やスチルはどれもこれも綺麗だったのは覚えている。
他のキャラクター達は本当に興味が無いゲームだったのであまり覚えていない。
皆イケメンだった事しか。
さて、そんなスイラバの世界での私の立ち位置はと言うとモブである。
ゲームの中に出て来たのすら全く覚えていない名前を聞いても「誰?」としか思えないキャラとしてこの世界にいたのである。
ヒロインはヒロインで大変そうだしモブで全く良いんだけどね。
私のこの世界での名前は『サリー・ボーン』
名前からしてパッとしない。
男爵家の次女である。
そこら辺にゴロゴロいる様な茶色い髪に茶色い瞳の平凡な顔付きの女の子だった。
この世界で目覚めたばかりの頃は「スマホが無いのなんて無理!」「漫画読みたい!」とか色々思っていたけど、1ヶ月も暮らすと人間は慣れるらしい。
近代的な物は何も無い世界だけど男爵家が裕福な事もあってそこそこ快適に暮らしている。
そして私は何と土魔法と水魔法と火魔法の3つの魔法が使えると言う、この世界ではかなり珍しいタイプの人間であった。
純聖魔法を使える人に比べたらカスみたいなものだろうが、普通は1人1属性の世界なのだ。
3属性持ちと分かった時の両親の反応はお祭り騒ぎだった。
『モブに若干チートっぽい能力を授けて下さりありがとう!』
と思ったのも束の間、私はその能力をしっかりと開花させる為にシャノワール学園に入学させられる事になった。
よりにもよって乙女ゲームの舞台のど真ん中にである。
まぁヒロインや攻略対象者達と関わりさえ持たなきゃモブとして楽しい学園ライフが送れるでしょうと思っていたのに、今私はやけにキラキラした男性に絡まれている。
このキラキラ具合から言って絶対に攻略対象者である。
『ソリシャー・オブライン』
伯爵家の長男でこの学園にトップの成績で入学したらしいその男は、淡いラベンダー色の髪にスカイブルーの瞳のアイドル顔の美少年だった。
「君が3属性持ちの男爵令嬢か?」
突然声を掛けられたと思ったら壁ドンされていたのには度肝を抜かされた。
無駄にエフェクトが掛かった様にキラキラとした美少年は壁ドンをして鼻先がくっ付く位に顔を寄せて私をじっと見つめている。
『何?!何?!何?!』
頭の中はパニックである。
入学初日にいきなりキラキラ美少年に壁ドンされるモブなんて聞いた事がない。
ヒロインだったら出会いイベントかな?と思うが私は真性のモブなのだ。
攻略対象者と絡む事すらないはずなのにこの状況は何なんだ?!
「見た感じすごく平凡なのに3属性持ちなんて、君凄いね」
コツンとおでことおでこがくっ付いたと思ったらおでこからブワッと何かエネルギーの塊の様な物が体内に流れ込んで来た。
全身が一気に熱くなった。
「へぇ、本当に3属性持ってるんだ。僕だって2属性なのに…それに君、純聖魔法のあの子より魔力量も多いね。いいよ、君」
何をされているのかは分からなかったが段々と車酔いの様な気持ち悪さがしてきた。
目眩がしてきて気持ち悪い。
それを察したのかソリシャーはくっ付けていたおでこを離した。
「魔力酔いしちゃった?」
「な、何なんですか?!」
「魔力交流だけど?知らない?」
「し、知りません!」
「そっか、ごめんごめん」
「も、もう良いですか?注目浴びてて嫌なんですけど」
気付けば私達の周囲には遠巻きにだがこちらを見てる人達が集まって来ていた。
そりゃそうだろう、これだけ無駄にキラキラした美少年がいるのだ。
注目を浴びない方がおかしい。
「どうせ同じクラスなんだし一緒に行こう」
え?!同じクラス?!
ソリシャーは私の手を引いて歩き出した。
私は好奇の視線を浴びながらも歩くしかなかった。
『どうしてこうなったー?!』
内心では大絶叫である。
魔術Aクラスが私に割り当てられたクラスだった。
そして今私はヒロインを始めとするメインキャスト達に囲まれているっぽい。
この乙女ゲームの世界はヒロインや攻略対象者達だけ変わった毛色(本当の意味での毛の色)をしていてモブは茶色や黒の髪色をしているのだが、何故か私を取り囲む様にその変わった毛色の人間達が座っているのだ。
真ん中にいる茶色い髪の平凡な私はもうどうしていいのか分からない。
私の右隣に当然の様に座ったのはソリシャー。
左隣には萌葱色の髪をした、私がゲームで唯一攻略したキャラであるブレースがちょこんと座っている。
目の前の席にはピンク髪のふわふわ頭、超絶美少女ヒロインのリスリーが座っており、その右隣にはヤンデレ王子のリュシュファーが、左隣には水色の髪色に藍色の目をした儚げな美男子が座っている。
私の真後ろには真っ赤な髪をした少しミステリアスな雰囲気を漂わせた男子が座ってこちらを見ている。
攻略対象1人足りないんじゃない?とお思いになるだろうが、もう1人は教壇の横に立っている。
キラッキラに光り輝く金色の髪にエメラルドの様に綺麗な瞳。
あれが攻略対象者と言わず何と言おう!
攻略対象の1人は担任の先生だったらしい。
『ハラルド・キャンバリー』
金髪が恐ろしい程に似合う、とても鼻筋の通った美青年。
先生ではなく1つ年上の先輩にでも見える様な美しくて爽やかな見た目。
本当に何なんだ、この状況。
席は好きな所へシステムな様なのでそーっと席を移ろうかと思ったのにソリシャーが私の手を握ったまんまなのでそれも出来ない。
「そろそろ手を離してくれませんか?」
そう言ってみても「気にしない気にしない」と笑顔を向けられるだけで一向に離す気配がない。
何のつもりなんだろうか?
そしてこの異様な状況に周囲の私を見る目が痛い痛い。
本来であれば周囲に溶け込みそうな程に地味で平凡な女の周りにド派手な人達が座ってるんだもの、当然の反応だろう。
本当にどうしてこうなった?
それからと言うもの私の周りを当然の様にキラキラ人種が陣取り、特にソリシャーは常に私にピタリと張り付いて離れず、私の平凡だけど楽しい学園ライフ計画は早々に立ち消えた。
ヒロインのリスリーは流石ヒロインと思える程に可愛らしく、性格も良く、私に頼って来たり相談してきたりと仲良くしているのだが、王子やら赤毛やらが何かと面倒くさい。
ブレースは子犬みたいな子なので何の害もないのだが、王子と赤毛が本当に怖い。
赤毛男は『ユーリシャス・ワズマフ』と言い公爵家の長男だった。
身分だけでも凄いのに15歳にして王国騎士団の最年少団長までしている本当に凄い男だった。
鍛え抜かれた肉体は服を着ている上からでも分かる程に美しい。
そして王子と赤毛は確実にリスリーに惹かれているのが丸分かりだった。
だから仲良くしている私が気に入らない様で何かにつけて突っかかって来るのだ。
凍りついてしまいそうな程の殺気を含んだ目でこちらを見ながらである。
本当に止めて欲しい。
『何故敵意剥き出しで来るの?私、女ですけど?取りませんよ、ヒロインの事?そっちの趣味はありませんよ?私に構わずヒロインとよろしくやってればいいんじゃないですか?私的にはそうしてもらった方がいいんですがねー』
と常々思っているが口に出して不敬罪にでもなったら困るので思うだけに留めている。
王子と赤毛は殺気を持った目で噛み付いて来るだけだが、問題はソリシャーだ。
ヒロインには全く興味を示す様子もなく私にばかり構ってくる。
必ず隣に座るし、歩いていると普通に手を繋いでくるし、座っていても手を繋いでくるし、2人1組で魔法操作の訓練をする時は絶対私と組むし、何かにつけて誘ってくるし。
普通こんな状況なら「もしかして私に気があるの?!」等と勘違いしてもおかしくはないだろうが、相手は攻略対象者のキラキラ美少年である。
絶対そんな事はありえない。
超絶美少女のヒロインがいながら、風景に溶け込んでしまいそうなモブを好きになる攻略対象者がいる訳がない。
うっかり勘違いして叶わぬ恋に身を焦がす、なんて不毛な事はしたくないので、本当はちょっと…かなりドキドキする事もあるのだが『平常心!平常心!』と自分を落ち着かせる日々を送っている。
「サリー、こんな所にいたんだ」
今日も今日とてひっそりと1人時間を楽しんでいた図書室の片隅に無駄にキラキラした美少年ソリシャーが満面の笑みでやって来て、当然の様に隣に座った。
「何を読んでるの?」
私の読んでいる本が気になるのか、無駄に顔を近付けて覗き込んでくる。
『近い!近い!!』
頬が触れてしまう程の距離感で顔が熱くなる。
『平常心!平常心!』
「サリー?君はいつまで俺を焦らすつもり?」
不意に耳元でそう囁かれて思わずソリシャーの方を見ると、鼻先が触れ、もう唇が触れてしまいそうな程近くに顔があった。
そのまんま硬直してしまった私の唇にソリシャーの唇が軽く触れた。
「へ?!」
思わず情けない声が漏れた。
すると再度、今度ははっきりと唇が重なった。
「俺さ、随分と分かりやすく攻めて来たつもりだったんだけど、これで分かった?」
思わず唇を押さえソリシャーを見た。
ほんのりと頬を赤らめたソリシャーが少し潤んで色気を孕んだ瞳でこちらを見ている。
「俺さ、サリーの魔力に一目惚れしたんだよね。魂の奥底まで痺れる様なその魔力に惹かれた。そしてサリーを知れば知る程に君は俺の予想を上回ってばかりでさ、もう君の全てに夢中なの。分かる?」
何が起きているのか判断が出来ない程に頭の中はパニックだった。
「まだ分かんない?ならもっかいキスする?」
とりあえずキスはマズイと思うので頭をブンブンと振った。
「そんなに頭を振ると脳が揺れて倒れちゃうよ?」
頬を両手で包まれてじっと目を見つめられる。
多分今の私の顔は茹でダコの様に真っ赤だろう。
「手が邪魔!その手下ろしてくれない?じゃないとキス出来ないから」
私は更にギュッと両手で唇を押さえた。
「強情だな、サリーは。まぁそこが可愛いんだけど」
そう言うと鼻先にリップ音を立ててキスを降らせた。
「これで俺の気持ち分かってくれた?」
ブンブンと首を縦に振る。
「じゃあこれからはサリーに好きになってもらえるように全力で行くから、ちゃんと俺を見てよね?」
イタズラっ子の様でいてどこか妖艶にも見える笑顔でそう言うと私はソリシャーに抱き締められていた。
彼の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
自分の物なのかソリシャーの物なのか分からない心音がバクバクと響いていた。
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【ソリシャー視点】
入学式の前日、俺は面白い話を耳にした。
ここ数百年現れなかった3属性持ちが現れたと言うのだ。
そいつが明日シャノワール学園に入学してくると言うじゃないか。
俺は2属性持ちでこれでも次期魔塔当主の筆頭候補である。
3属性持ちだったら俺の今の立ち位置を脅かす存在になるかもしれない。
でも正直魔塔の当主になんてなってもならなくてもいいからその点は何の問題もないが、3属性持ちという存在自体が気になる。
どんなやつなのか見極めてやろう!
そう思って学園に行くと一際際立った魔力の女を見つけた。
小柄でどう見ても平凡な女だったのだが、その魔力に俺は痺れた。
全身を射抜かれる様な刺激的で痺れる様な魔力。
それでいて何処か甘美な魅力も含まれている。
こんな感覚は初めてだった。
思わずその女を呼び止めて魔力交流をしていた。
魔力交流とは自分の魔力を相手の体内に流し込む事で相手の魔力を受け取り情報を得る手段だ。
彼女の魔力が体内に流れ込んで来た瞬間、心が震えた。
何処かの国の本に『霊の片我』と言う言葉があるそうだ。
文字通り同じ霊を持ったもう片方の自分と言う意味で、その片我と出会えるのはほんのひと握りしかいないが、出会ってしまったらもう無条件に惹かれてしまうのらしい。
そんな御伽噺の様な事はあるはずがないと思っていたが、彼女の魔力に触れた瞬間『彼女こそが霊の片我だ』と思った。
それから俺はかなり頑張ったと思う。
俺は自分で言うのも何なのだが顔は頗る良い。
俺が微笑めば大抵の女はコロッと行く。
だがサリーは全く靡かない。
手を繋いでも平然としているし、どんなに誘っても首を縦に振らない。
何なら俺を邪険にすらする。
その癖魔力操作の授業で難しいとされる複数属性付与魔法を成功させると俺に飛び付いて来てドキリとする程眩しい笑顔で無邪気に喜ぶ。
普段は本当に平凡な顔付きなのに、ふとした瞬間に見せる輝く様な表情や仕草に俺は翻弄されっぱなしだ。
観念しよう、サリーに勝てる気がしない。
でも一つだけどうしても不満なのはサリーが俺を全く意識していないという事だ。
時折頬を染める事はあるが何やらブツブツと言いながら難しい顔をしたと思ったらまた何事もなかった様に頬の赤みが消えてしまう。
誘っても本気だと受け取ってくれない。
何故かリスリーとくっつけようとする。
勘弁して欲しい。
リスリーに手を出そう物ならリュシュファーとユーリシャスに何をされるか分かったもんじゃない。
そして当のリスリーはどうやら水色の髪色をした伯爵家令息『イスカル・ドラー』に淡い恋心を募らせている様だ。
サリーに出会う前の俺なら他の男を好きな女、しかもかなり見目の良い女だったら振り向かせたいと躍起になっただろうが今はそんな気すら起きない。
振り向かせたい、手に入れたい、その全てが欲しい女が隣にいるのだから。
サリーの近くには犬っころの様にブレースがいる事が多いがあいつは問題ない。
さて、どうやってサリーの目を俺に向ければいいものか?
図書室での一件はサリーにとても効果的だった様だ。
効果があり過ぎて挙動不審気味になっているがそこも俺を意識しての事だと思うと可愛い。
さぁサリー、早く俺に落ちて。
身も心も俺でいっぱいになって。
俺の全てを君で満たして。
君は俺に絡め取られたのだから、もう君を逃がしてはあげない。
君が俺に陥落するのはきっともう目の前。