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世界の時が止まるまで  作者: あさっち
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敗戦国

初めて書いた。

夕暮れ時、付近の枯れた木を赤い光が禍々しく照らす。

仰向けに倒れた少年は、意識が朦朧としている。

騒然たる叫び声と共に、至る所から四肢が飛んでくる。続いて頭も。

それが、グルリとこちらを覗き、掻き消える様に問いかけてきた。


「助けて・・・」


次々に惨殺していく脅威的な力を目の前に、少年は為すすべがなかった。

怒りに身を任せ、起き上がろうとする。惑い、狂い、叫ぶ仲間仲間たち。

獲物を捕らようと必死に狩りをする何か。それを見て嘲笑するフードの男。


「”何かができるかもしれない”と思ったか?その潰れた左目で何ができる。生き残れば、また地獄が待っているのだぞ。それでも貴様はやり遂げようというのか?」


フードの男が問いかけてきた。


真っ暗になった。


****


痛いほど馬車が揺れ動く。寝心地は最悪の一等車両で目を覚ました。


「ああ、もうすぐ王国に着く、降りる準備を」


老騎手の声が頭上から聞こえてきた。

他愛もない会話をするはずもなく、数日間、この愛想のない男と共にしてきた旅は、贅沢だったといえよう。


「またうなされてたよ・・・」

「・・・」


起き上がり、腰を正規の場所に落ち着かせる。


「そうかい、それは良かった」


数週間もかけて森を抜けると、場所はがらりと変わった。

それは城下町の門を起点に一斉に広がる。夕焼け空に黄色い花びらをやさしい海風に乗せて、何とも幻想的にあたり優雅に色々と見せていた。


「ベンゼルの王はこれが好みなのかね?」


老騎手の目には、厄介なことに巻き込まれなければいいがという嫌味が込められている。あまりかかわりたくない気持ちが強いせいか、馬車を急がせる。


「そんなに嫌か」


あまりの乗り心地の悪さに声が出てしまった。


「そりゃぁ、嫌ってことでもないですが。ここは余り近づきたくない領地でしてね。数年前の勇者の大攻勢に、なんでも、他の国からくる商売人を規制してたりとか。いろいろ噂を聞くもんでして」


饒舌にグチャグチャとたわいもないことを喋り倒す老主に対して、馬車はどんどんスピードを上げていき、城下門のすぐ近くまで迫っている。

しかし、様子がだんだんと怪しくなってきた。


明らかに騎兵の数が少ないのである。


男は騎手の横に着き手綱を奪おうとした。


「何するんだ!」

「いいから、馬車を止めろ!」


力づよく馬車が止まり、男は直ぐにそこを飛び出した。


門下の下まで来たところで、衛兵に止められる。


「おい、そこのお前!止まれ!」


男は何もなっかった様に徐々に衛兵に近づく。


髪は白髪で、隻眼の黒い眼をした男。

遠目から見れば普通の冒険者だ。


衛兵に近づくにつれて、その体格は露になった。

身長は推定180センチほど。

鎧の上からでもわかる筋肉の流々さ。


衛兵は思わず、後ろに倒れこんでしまった。


男はそんなことは露知らずに、野太い声で衛兵に問う。


「何があった?」

「何かあったって、王妃がルーベルトに進行を宣言したのですよ」


歯切れ悪く発言する衛兵に対し、見切りをつけたのか。

一様に用事を済ませたかのように、城下に足を踏み入れていく男。

衛兵と老騎手は只それに唖然としているだけであった。


****


「陛下。お言葉があります」


寝室に向かう途中で、声がかかった。

従者が耳打ちをすると、王妃は目を丸くした。


「すぐにその者を呼べ」


王妃の声と一斉に何人かの従者がその場を離れた。


「さて、この一見どうしてくれよう」


****


宮殿の大広間にてその謁見は行われている。

従者による。軽い挨拶と読み上げが行われた後で、話は本題へと切り出された。


「それで勇者。今度は我から何を欲す」

「はい、私たちとしては、エルフ国とこの国との和解です」

「気安く、大きく出たな勇者。しかしな、私らとてそのような提案にただで乗るわけにはいかんのだよ。他人の領土を踏み荒らし、死の灰を降らせたお前たちに、私はとても不快で、悔しいぞ」


王妃の目には憎しみが込められる。

異質な空気の中で、女性ヒーラーが大きく前に出る。


「だからこそ、同じような惨状を繰り返したくありません!種族は違えど、私たちは争わずに仲良くできると思うんです!」


飽き飽きしたセリフだ。

王妃はその言葉に、一種の怒りを覚えている。


「あの日を忘れるものか・・・貴様らが、われの国を蹂躙し、一騎当千の兵たちを跡形もなく粉々にしたことを・・・」


王妃はあの日を覚えている。

城下には死の灰が降り注ぎ、約9割の建物が損害を受けたこと。

悪魔に魂を売った国王は、目の前にいる勇者によって斬首されたことを。


「お前たちの要求には答える道以外ないのだ・・・」


圧倒的な暴力を見せつけられた後で、立ち直りはもはやできるはずがなかった。

ガクンと腰を落とす王妃と自信満々の笑みを浮かべて対峙する勇者たち。

読んでくれてありがとう。

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