デミデビル7
護衛の人柄を知れたのは収穫だが、生気を奪う底知れぬ本性も見えた。
「他人に気を許しすぎだ」
「……」
「いずれ分かる、気をつけろよ」
実際のところつい最近襲われたので、身の安全に気を付けなきゃいけないんだろう。
ただ、正直それほど命を狙われている実感が持てない。
「護身術…習うべきかな…」
「要らんだろ」
心の中だけのつもりが声に出してしまっていたらしい。
ユークが間髪入れず答える。
「あんたたちがいない時襲われたらどうすればいいのよ」
「覚えてるから必要ないんじゃねえの」
「…?」眉間に力が入る。「覚えてるも何も、戦闘経験すらないんだけど…」
「あー……。どうしても習いたいなら俺とルナが交代で教えるが」
「そこまで習いたい訳ではないんで…」
話題を逸らされたように感じるのは気のせいだろうか?
「何があろうと俺が護るから」
「………………少女漫画みたいなセリフもその姿で台無し」
両手いっぱいの買い物袋と積み上がった箱で隠れるユークの表情。
私の鳴り止まない心音に勘づかれると癪なので、顔に出さないようにした。
「買い込んだのは凜だろ」
「目の保養になるから着てよ」
「気が向いたらな」
「それ絶対着ないやつ!」
「ひゅっひゅー」
「口笛下手か」
目を泳がせて音の鳴らない口笛を吹いている。
「流行りのギャップ萌えってやつだな」
「そのギャップだっさ…。強いて言うなら蛙化現象でしょ」
「ドン引き、か?若者言葉分かんねえ!」
「まだ若いでしょ。……ああ、見た目よりずっと年が上なんだっけ」
見る限りユークの外見は20代後半だ。
とはいえ、ルナと同じ“悪魔“なら不老に近い長寿のはず。
「いくつなの」
「年齢不詳で」
「ルナにもそう言われたんだけど!…年齢公表しない悪魔ってなに?芸能人?」
「年齢公表NGなんで、事務所通してもらっていいっすか?」
「本当に芸能人してそうでムカつく!」
好奇心丸出しでテレビ出た?と聞くと、ちょっとな、と苦笑。
「どこ?芸名は?」
「大昔の話だよ。……家の鍵を開けてくれ」
怒涛の質問攻めを察知してか、ユークに遮られた。
斜めがけのショルダーバッグを探り、キーケースをしぶしぶ取り出す。
「カギ開けるから教えてよ」
「服を整理するから今度な」
玄関の扉を壁際まで押し開け、一歩引いて荷物持ちのユークを先に入らせる。
私が声を発するより先に、ユークは1階の自分の部屋にこもってしまった。
ユークは一度部屋にこもると、たいていは食事間際まで出ない。
仕方ない、またの機会だ。
手元には手提げのエコバック。
今日はファッション雑誌と漫画を買ったんだっけ。部屋でじっくり読みたい。
自然とゆるんでしまう口元を抑えながら、自室へ繋がる階段を登った。