デミデビル6
踵を返してショッピングモールへ向かう私にユークは慌ててついてくる。
「何で急に?」
「おにいさ…、ユーク、のことを知っておかないと護衛として信頼できない」
はあ?と呆れた様子で腕を掴まれる。力を加減してくれているみたいだが、一歩も動けない。
「中身は悠だから信用して欲し」
「顔が良いだけの夜這い男」
冷ややかな目で一瞥すると、ユークは手を離す。
「もちろん許されることじゃない。二日酔いだった、すまない」
通報しないでくれ、と両手を上げて降参のポーズ。
近寄りがたくて本心を聞けず、信用できなかったが、問い詰めるとすぐに謝ってくれた。
ルナ曰く、私が襲われた時のために何重もの結界を張っているそうだ。ユークは酔っぱらって私のベッドに潜り込み、眠ってしまっただけらしい。
複数の結界が知らぬ間に解除されていたため、夜間に様子を見に行ったところ、案の定知り合いだったので起きたら話せばいいと思ったのだそう。
夜這いの件を許すつもりはないものの、とりあえずは気が済んだ。一旦白紙に戻して友好的にいこう。
「私には一切触れてないってルナも断言してたし、それは信じる。これで仲直りってことで」
「ああ、助かる」
こちらが左手を差し出すとユークも手を出した。仲直りの握手。
どや顔の私と、澄まし顔のユーク。
お互い照れくさくなってにやけた。
「ギャップすごいね」
「そっちもな」
「誰かに言われたことない?」
「まあ…、ないこともない」
思い浮かぶ人がいるのだろう。小さく笑っている。
全女性が振り返るほどの笑った顔なのに、どこか寂しそうに見えた。
「じゃあ気晴らし!」
手首を掴んで引っ張った。
*****
「……めちゃくちゃ買った」
少し早めのランチ休憩することにして、フードコートで席を探す。積み上がった箱と袋。4人掛けのテーブルが買った物で2人分埋まる。
私は大盛り和風パスタ、ユークはラーメン。
「俺の金だからって買いすぎだろ」
「素材が良いからつい」
買ったのは全てユークの物である。選んだのは私。
「服なんて着れりゃ何でも良い」
ユークは山積みの紙袋を流し見する。
「護衛ならせめて身なり整えてよ」
「誰も見てないから良いだろ」
ご飯時から時間帯を外したものの、確かに近くの席に人が全く来ない。
いや、正しくは遠巻きに見ている?
プライベートの芸能人を遠くから見守る人達、みたいな…。
ひそひそと囁かれ、黄色い声も上がる。
これはユークが周囲の人の目の保養になっている!
私まで見られている気がしてそわそわしてしまう。
当の本人は素知らぬ顔。既にラーメンを食べ終え、水を飲んでいる。
すると、大学生くらいのお姉さん2人組が近づいてきた。
お腹を出した長袖トップスにパンツスタイルの長いストレート金髪女性と、その女性に腕を絡ませているオーバーサイズのパーカーに短パン、厚底ブーツを履いた黒髪ショートボブの女性。
「あのぉ、お兄さん達って兄妹、ですかー?」
「えっ」と返答に迷う私に、ユークは慣れた様子。
「まあそんなところです」
「もしかして芸能人ですー?」
「いや別に」
「えー、妹さんも美人だからてっきりモデルさんかとー」「ねー」
「あたしら暇しててー、これから遊びません?」「夜も空いてますぅ」
逆ナンパだ!!
「もう帰るんで」
「妹さんが心配ならぁ、一緒に送りますよお」と黒髪ショートボブ。
素っ気ない態度に関わらず、なおも食い下がるお姉さんたち。
何としてもこのハイスペックに近付きたい、という断固たる意志を感じる。
ユークが残りの水を一気に流し込んで、立ち上がった。手の甲で口元を乱暴に拭う。
「……少し話してくる、ここで待ってろ」
ユークはお姉さんを連れてどこかへ行ってしまったのでその間にパスタを堪能しよう。
食べ終わり、携帯をいじって10分ほど経った頃。
「待たせて悪かったな」とユークだけ戻ってきた。
「あれ、お姉さんたちは?」
「話せば分かってくれたよ」
「ふーん…」
食べ終えた食器を片付けて、荷物をまとめてフードコートを出る。
途中で先程のお姉さんたちを見かけたが、虚な目と覚束ない足取りで歩いていた。
「どんな話したの」
「大人の話だ」
「こわぁ」
そっと手を合わせ、南無三!と呟く。
「命まで奪ってない」
その言葉に私はくるり、と振り返る。
「南無阿弥陀仏」
「俺には効かないぞ」
「エクソシスト呼ばなきゃ」
「止めろ」