デミデビル4
高校生になった黒崎凛。
早くに両親を亡くし、親戚でもあり、親代わりの瑠奈と暮らしている。
高校の生活にも慣れてきた6月のある日。休日の朝にふと目覚めると、隣で見知らぬ男が寝ていた。
悲鳴を上げて瑠奈を呼んだが、瑠奈から、凛自身が悪魔の末裔であることを知る。
さらに今後はユークと呼ばれるその男を、凛の護衛にするという。
ユークは瑠奈と昔からの知り合いらしいが・・・・。
家中に響いた叫び声は人を起こすのに十分だった。
その場で立ち尽くした私と、もぞもぞと動く人物。
「………う、っせえな」
頭を抱えて出てきたそいつは見たこともない長髪の男。体調が優れないのか、顔色が悪い。
バタバタと階段を駆け上がる音が鳴り、私の部屋のドアが勢いよく開けられた。
「なになになに⁈ 大声出して!」
「なんで知らん男が私のベットに居るの!」
私がギャーギャーわめいたことで頭を押さえ、さらにしかめっ面になる。
「二日酔いに大声は止めてくれ……」
よくよく見ると、顔が整っている。ただ全くと言っていいほど見覚えがない。
「あー…、姿が違うからか」
男が小さくつぶやく。何と言ったか聞き取れなかったが、瑠奈が私と男の間に入った。
「簡単に説明すると、こいつはアタシの仲間兼、幼馴染の悠だよ」
「???」
悠とは明らかに顔と髪、そして何と言っても雰囲気が違う。
爽やか系学生の悠。一重で笑顔が多く話しかけやすい。茶髪混じりの短いくせっ毛。
男女問わず万人受けするような愛嬌があった。
一方、大人の色気が凄い成人男。綺麗な二重と切れ長の目でかなりの美形だが近寄りがたい。黒くて長いストレート髪。無愛想な表情は他人を見下しているように見える。
どこが同一人物?
「詳しく話すからリビングおいで」
瑠奈は男にりんごジュース、私にアイスコーヒーを用意してくれていた。
「改めて紹介するよ、こいつはユーク。悪魔だ」
ユークという男は瑠奈の隣に座り、両手でカップを持ってジュースをちびちびと飲んでいる。
私は反対側にまわり込んで座る。片手でグラスを鷲掴んで一気に飲み干した。
口元から溢れそうな水分を手の甲で乱暴に拭う。
「あくま。…続けて」
「ひと言で悪魔と言っても、大きく分けて2種類ある。ひとつは人間と共存を望む皆魔。基本的に皆魔は人間に干渉しない。一方、人肉を喰らう蝕魔。とはいえ、これは理想であって、現実は判別が難しいのさ」
ただの高校生として生きてきた私には突拍子もない話。
だが、不思議と落ち着いて聞いていられる。他人事だから?
「皆魔の中でも人間を愛し、裏切り者と虐げられた一族。彼らは悪魔でありながら同族を殺せる力を持つ」
理解させる、というより、ただ知識を披露しているだけのよう。
そういえば瑠奈との出会いは私が小学生の頃。6年前だったか。
母方の親戚で30歳過ぎのはず。だが私が知る限り、彼女は歳をとっていない。
「一族の末裔をあらゆる危機から護るためにアタシたちが居る」
瑠奈が頬杖をついて私を見る。
「凛ーーあんたをね」
「私?」
*****
悪魔と言えば、人肉を食らうだとか、魂と引き換えに願いを叶えてくれる怪物のイメージがある。
少なくとも、目の前の瑠奈は悪魔のイメージにありがちな角や翼はないし、人間と同じ食事。
「私に危機が?」
「あんたは16になって覚醒段階に入ったんだよ。この時期は無防備で、特に狙われやすい」
何を言ってるのか意味が分からない。私をおちょくっているとか?
そう思うと笑えてくる。
「そう。・・・・おとぎ話はこれで終わり?」
「分からなくてもいい。ただし、これから護衛として必ずユークを連れてくこと」
「はいはい」
喉が乾いて仕方ない。結露で濡れた紙パックからコーヒーを注ぐ。
一気に流し込み、グラスをシンクに置いた。
そのままリビングを後にしようと扉のドアノブに手を掛けた瞬間。
「空いてる部屋使いな」
ユークという男に放った瑠奈の爆弾発言。
悠になりすましていたとは言え、夜這いしてきた初対面の男とひとつ屋根の下?
「私の部屋には絶対入るなってそいつに言っといて!」
バタン、と聞こえるくらいの音を立てて、扉を力任せに閉める。
平穏に過ごせる気がしない…。