デミデビル3
悠は呆気に取られた私を家の玄関前で下ろし、インターフォンを鳴らす。
『はーい』
インターフォン越しの瑠奈はよそ行きの声だった。
「瑠奈さんですか?僕です、悠です」
『ユウ?…ああ、入って』
2人ともいつになく真剣な声色で瑠奈のよそ行きの声も素に戻っている。
扉が開き、神妙な顔で迎え入れられた。
「とりあえず凛は着替えてきな」
悠をリビングへ通し、私は体よく追い払われた。仕方なく二階へ。
階段を登った先にある部屋で制服を脱ぎ捨てる。このまま制服を放置しておくと瑠奈に怒られるので、ハンガーに掛け、ベットに飛び込んだ。左手首には掴まれた際の手形の痣がはっきりと残っている。
寝返りを打ち、ぼんやりと照明を眺めた。
「疲れた……」
今日は本当に色々ありすぎた。身体が鉛のように重い。
夕食まで一旦仮眠して、悠の正体については後で聞こうと私は意識を手放した。
*****
目が覚めると、そこは幼い時に住んでいたアパート。両親とも生きているがやけに大きく感じる。
ご飯を作る母と座って待つ父。変わらない生活。
(いや、私が縮んでる?)
服装を見ると昔よく着ていた、お気に入りのパジャマ。確か背が伸びて着れなくなったんだっけ。
《ー違う》
誰かの声がする。聞いたことのある懐かしい声だけれど、誰なのか分からない。
急に暗転し、場面が変わった。
母がインターフォンに出て、私は心を躍らせていた。この日は父が久しぶりに早く帰る日。
何回目かの、私の誕生日。
私は玄関で父を待っていた。優しく頭を撫でてくれる父の手を。
嬉しそうな母を引っ張り、一緒に出迎える。
「パパおかえ」「あなたお帰りなさ…」
「い、いやあぁあああぁああぁあ!!」
開いたドアから黒い何かが倒れてきた。倒れ込んだものから、赤黒い液体が広がっていく。
母が私を引っ張って、後ろへ押し込んだ。
父だ。いや、正確には父だった。
倒れた際に吹き飛んだ液体はパジャマの足元に降り注いだ。
母は気丈にも立ち向かっていく。
「だれ?わたしの大切な人を奪ったのは!」
「あいつらね!ねえそうでしょ⁈ わたし達を始末しに来たの?」
何か叫んでわめく母に、私は呆然と立ち尽くすしかなかった。
「この子たちには手を触れさせ……ぅぐッ!」
そいつの鋭利な爪によっていとも簡単に母の身体が貫かれる。
大量の血が私の顔に飛び散り、頬を伝う。
「あ、あぁあああああああぁあ」
母の亡骸が崩れ落ち、行き場のない私の手が空を掴む。
私は心の底から湧き上がるどす黒い感情に身を委ねた。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。
ーゆルさナい。
*****
「ッ、はっ…!」
顔面に携帯が落ちてきたのか、あまりの衝撃に飛び起きた。
やけにリアルな悪夢だ。全身から噴き出す汗の量が恐怖を物語っている。
時刻は夜中の2時。夕飯までのつもりが、6時間くらい寝ていたらしい。
今起きてしまうと朝が面倒臭いので、シャワーだけ浴びてまた寝ることにしよう。
掛け布団をめくり、電気を付ける。
「い、いやぁあああああ」
家中に悲鳴が響き渡った。