デミデビル1
カーテンの隙間から漏れ出す光が心地よい。
私はゆっくりと上半身を起こし、一気に腕を伸ばす。
ベッドから立ち上がって階段を下り、洗面所へ。顔を洗ってからリビングに向かった。
「早起きじゃない、凛。おはよう」
「…おはよー瑠奈」
挽きたてコーヒーの香りを堪能しながらテーブルの椅子に腰掛けた。
ホコリ避けのケースの中に卵焼きやベーコンが乗ったおかず、味噌汁、ご飯といった朝食が入っている。
「これだけだと足りないよ」
「休み時間早弁してるから充分でしょ」
「バレてた」
「それでも弁当は多めに用意してんだから」
「ルナが料理得意なんて顔に似合わずだよね」
「それに比べ、あんたは下手というより壊滅的」
「包丁で切って煮込むだけでしょ。簡単、カンタン」
「消し炭にしたの覚えてる?」
「あれはー…、ナンデモナイデス」
痛いところを突かれた私は無言で手を合わせ、できたての卵焼きに手をつけた。
*****
「ごちそうさま!」
バタバタと2階へ上り、部屋のクローゼットから制服を取り出す。
ブラウスに腕を通し、膝上の長さになるまでスカートを折り曲げ、ネクタイを締めた。
鞄を手に取って携帯もポケットへしまう。ズドドド、と1階へ駆け下りた。
革靴に足を入れ、髪を手ぐしで整える。
「忘れ物」
「ありがと、行ってきます!」
カッターシャツとワイドパンツを着た瑠奈が弁当箱が入った保冷バックを差し出してくれた。
バックを受け取り、瑠奈へ手を振って勢いよく玄関を飛び出した。
*****
受験時に徒歩圏内の公立高校を探し、何とか合格。
目指していた高校デビューはおろか、友人も出来ず、クラスメイトはただ遠巻きに見るだけの存在。
小さく口を尖らせていると、背後から聞き慣れた声がした。
「なんで先に行くんだよー」
「1人で行けるから!あんたがいると友達ができないんだけど⁈」
「友達できないのは関係ないだろー?お前危なっかしいから見張ってないと」
家が隣で幼馴染の悠で顔も運動神経も頭も良い。人として完成しすぎているから、多分人間じゃない。
朝の恒例行事に頭を抱えるしかなかった。厄介なことに、こいつが来ると周囲がはやし立て始めるのだ。
「ゆう!毎日よくやるねえ!」「オレ応援してるわ!」
「おうさんきゅ!」手を挙げて野次に挨拶する悠。
「…人気者は大変ね、それじゃ!」
悠が目を離した隙に、集まっていた野次馬たちの中に飛び込んで紛れる。
そのまま革靴を靴箱にしまい、上履きを履くと、仁王立ちをする足が見えた。
「おれから逃げられると思うたか」
「なんで毎度先回り出来るの⁈ やっぱりあんた人間じゃないでしょ!」
「どうだろうね」
悠が微笑みながら目の前に立ちはだかっていた。微笑みと言っても目元は笑っていない。
ここまで先読みされていると発信機でも付けられている気分。
私は肩をすくめ、しぶしぶ悠の元へ戻った。