泉の女神に恋をした俺は金の斧も銀の斧もいらない。
木こりは唯一の仕事道具を失い途方に暮れていました。
「貴方が落としたのは、この金の斧ですか? 銀の斧ですか? ……それとも普通の斧ですか?」
次に木こりは唖然としました。突如現れた麗しき泉の女神に言葉も出ず、ただ心を奪われたのです。木こりは結局その質問に答えること無く逃げてしまいました。
木こりは仕事道具を失い困り果てましたが泉の女神が忘れられず、道に咲いていた一輪の花を泉へと浮かべました。
「貴方が落としたのは、この金の花ですか? 銀の花ですか? ……それとも普通の花ですか?」
木こりはまた会えた喜びに満ち溢れ、すぐに返事が出来ませんでしたが、正直に『普通の花』と答えました。
「貴方は正直ですね。この全ての花を差し上げましょう」
全ての花を持つ女神の手が木こりへと向けられます。木こりが女神の手に触れ花を受け取ると、女神は泉へと消えていきました。木こりはその日、触れた女神の手の温もりを忘れることが出来ませんでした。
ある日、木こりは一通の手紙を泉へと浮かべました。木こりが書いたラブレターです。
「貴方が落としたのは、この金の便箋ですか? 銀の便箋ですか? ……それとも普通の便箋ですか?」
木こりは「それはあなたへの手紙です」とだけ答えました。女神が不思議に思い便箋を開けると、そこには木こりの愛に満ちた想いが綴られておりました。
手紙を読んだ女神は少しだけ戸惑いました。そして「貴方は悪い人ですね。この手紙は没収です……」と泉へと消えていきました。顔が沈む時にブクブクと水面を泡立たせ、上目遣いで木こりを見つめる視線はまんざらでもなさそうですが、木こりは想いが届かなかったと落ち込み帰路に着きました。
ある日、木こりはタマネギ、ニンジン、ジャガイモを泉へと沈めました。木こりの家の畑で採れた新鮮な野菜達です。すると女神は直ぐに現れず、一拍置いて静かに現れました。
「貴方が落としたのは、この金の野菜達ですか? 銀の野菜達ですか? ……それとも、ちょっと失敗したカレーですか?」
女神はカレー鍋を両手で差し出しました。そこには女神が丹精を込めて作り上げた美味しそうなカレーが入ってました。
「……い、良いんですか?」
野菜をあげたつもりが女神からカレーのお返しが来たので木こりは大いに戸惑いましたが、とても喜びました。
「いただきます!」
木こりはその日、少し焦げ付いたカレーを幸せそうに頬張りました。
ある日、木こりは熊のぬいぐるみを泉へと浮かべました。
「貴方が落としたのは、この金のテディベアですか? 銀のテディベアですか? ……それとも普通のテディベアですか?」
木こりは「それはあなたへのプレゼントです」と答えました。女神がぬいぐるみを見ると手紙が添えられており、『カレー美味しかったです。ありがとうございます』と書かれておりました。
「……貴方は本当に悪い人ですね…………」
そう言って女神は熊のぬいぐるみを抱えて泉へと沈んでいきました。その女神の顔は穏やかで、まるで春の訪れを告げる風のようでした。
ある日、木こりは葉っぱを一枚だけ泉へと浮かべました。
「貴方が落としたのは、この金の葉っぱですか? 銀の葉っぱですか? ……それとも、普通の葉っぱですか?」
女神が問い掛けると、木こりは近くの岩に腰掛けギターを取り出しました。
「今日は貴女に歌を届けたくて……聞いてもらえませんか?」
木こりは必死に練習したギターで歌を歌い始めました。女神は何も言わず木こりの歌を聞いています。一番を歌い終えた木こり
は「その葉っぱは、こうすると綺麗な音が鳴るんだ」と同じ葉っぱを取り出し口に当て『ピィィ』と綺麗な音を出しました。
女神は木こりの真似をして葉っぱを口に当てましたが、木こりのように綺麗な音がなかなか出ません。しばらくムキになってやり続けるうちにようやく綺麗な音が出始めました。木こりは二番を歌い始めました。女神も草笛でメロディを奏でます。
二人はその日、日が暮れるまで歌を歌い続けました。
その日、木こりは小さな指輪を泉に沈めました。
「貴方が落としたのは、金の指輪ですか? 銀の指輪ですか? ……それとも普通の指輪ですか?」
「……貴女への指輪です。私と結婚してくれませんか?」
「それはとても嬉しいお誘いなのですが……」
「…………」
「私はココを離れる訳にはいかないのです……」
「遠い地で暮らす母の具合が悪く、私は世話をするのに帰らなくてはいけなくなりました」
木こりの眼に涙が浮かびます。女神は落ち着いています。木こりの手に金の指輪を乗せました。
「これでお母さんの薬を買って下さい」
木こりの眼から涙が零れました。女神はまだ落ち着いています。木こりの手に銀の指輪を乗せました。
「これでお母さんとココで暮らしてみませんか?」
木こりの眼から涙が止まりません。しかし女神はまだ落ち着いています。
「……私と、貴方と、お母さんで」
木こりは最後に見せた女神の笑顔に、涙を拭いて頷きました。
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