夜、君を想う
人肌恋しい夜がある、隣を見て誰も居ないことを悲しむ夜がある、独りが怖くて泣き続けた夜がある
いつも僕は独りだった。中学も高校もあの時だってそうだ。大学を卒業して一般企業に就職、これといった目標もなく会社に行って、帰って、寝るの繰り返し。
「行ってきます」と言っても家から返ってくる言葉はない、「ただいま」と言っても迎えてくれる言葉はない。
会社では替えの利く機械のように扱われ、「お前の代わりなんていくらでもいる」なんて言われてしまう、確かに僕の代わりなんているらでもいるし、僕のことを必要とする人なんていない。
趣味でも出来たら何か変わるかもしれないと思った。だけど僕にできることなんてなかった。
まさしく機械、決められたことしか出来ない社会の一員、自由なんてないし、感情すら最早ない。
そんな僕を救ってくれたのは1人の青年だった。
その青年との出会いは少し特殊で、道端に倒れていた青年を助けたことで2人の関係は始まった。
青年曰く、倒れていた原因はただの睡眠不足とのこと、そしてお礼をしたいから時間がある時に家に来てくれと言い、住所の書いた紙を僕に手渡した。
もちろん時間なら沢山あるわけで、その週末の休日青年の家に行った。どうやら青年は親元を離れて大学に通っているらしい。
青年との会話は楽しかった。青年の将来の話、青年の今やっている話どれも有益な時間だった。帰り際青年に自分だけ話しててすみませんと言われたが僕は楽しかったからいいよと言った。
それから定期的に青年の家に行ってゲームや青年の相談を受けたりした。
それから数週間のことだろう、僕はある日青年に会社の愚痴を吐いてしまった。その瞬間僕はやってしまったと思った。
「甘え」そんな言葉が出るのではないかと心配してしまった。だが青年から出た言葉は「そんな会社辞めてしまえばいい」だった。その時僕は聞き間違いだと思ったが、どうやら本当だった。
青年曰く、僕はしっかり仕事が出来る、人に対する接し方もしっかりしてる、そして何よりも優しいと、僕は今までが認められたようで泣いてしまった。
青年は僕に勇気と自身をくれたのだ。
そして翌日、僕は会社を辞めた。最初、社長は退職届を受け取ってくれなかったが僕の熱意が伝わったらしく最終的に受け取ってくれた。
その日僕は少年の家に報告に行ったが家には誰もいなかったのでメールで伝えると。大学が忙しくて家を開けていたという連絡が来た。青年は自分の夢の為に頑張ってることを知り僕は更にやる気が出た。
それから僕は小さい頃夢見てたエンジニアの仕事に就く為、勉強を始めて色々な会社の採用試験を受けた。それから数社の合格通知が届いた。僕は喜ぶあまりに年甲斐もなく喜びの声を上げてしまった。
その翌日、久しぶりに青年と連絡を取るとどうやら青年の方も一段落着いたらしく家でゆっくりしてるらしい。何か買って青年の家に行こうそう思った僕は近くのコンビニでお菓子やジュースを買って青年の家に行った。
青年の家に着いた時、青年は酷く疲弊しているように見えた。どうやらここ数日寝れてなかったらしく疲れが溜まっていたらしい。このままパーティーのようなことをやるのは気が引けたので青年を布団に連れていった。青年に今日は家にいて欲しいと言われたのでその日は同じ部屋で寝た。
翌日、朝目を覚ました僕は疲れている青年のためにご飯を作った。青年は午後3時ぐらいに起きて僕が作ったご飯を食べた。僕自身料理をあまり作らないので味が心配だったが青年は美味しく食べてくれた。その後は一緒にゲームをした。
帰り際青年に呼び止められた。青年は覚悟を決めたような顔で言った。
「僕が大学に行ってる時、ずっと心に穴が空いているように感じました。何をしても埋まらない穴でも、昨日あなたに会ってその穴は埋まりました。まだ未熟な僕でもこれは恋だと分かったんです。だから」
そこで少し戸惑いがあったのか少し間があった。
「好きです。付き合ってください」
まさか最初の告白が同性からされるなんて思わなかったが、僕は快く承諾した。青年はOKが貰えると思ってなかったようでかなり慌てていた。
「えっと、あの、男性同士ですけど本当にいいんですか?」
青年は不安そうに尋ねた。
「僕も君と会えなかった時間を寂しいと感じていたよ、それに人を好きになるのに性別なんて関係ないよ」
その言葉が嬉しかったのか青年は泣き出した。僕は青年を抱きしめて慰めた。翌日、青年から同棲をしないかと言われ二つ返事で了承した。
更に翌日、色々手続きを済ませ荷物も運び入れ青年との同棲生活が始まった。その日は荷物の整理よりも家事などの役割分担を決めて終わった。
それからの生活は幸せそのものだった。家を出る時「行ってらっしゃい」と言ってくれる人がいる、帰ってきたら「おかえり」と迎えてくれる人がいる。それだけで1日頑張れる気になれたし、1日頑張ってよかったと思えた。休みの日には色んな所に遊びに行ったし、毎日笑って過ごせた。
こんな幸せが毎日続くと思ってた。でも、、、、
ある日、青年が倒れた。僕は急いで救急車を呼んだ。救急車は4.5分で家に着いて、直ぐに病院に連れて行ってもらった。病院につくと医者は病状は家族以外には患者の許可がない限り教えれないと言われた。どうすることも出来ない僕は彼無事であることをひたすらに願った。
何時間ぐらいたった頃だろう、医者が僕の元に来て彼が意識を戻したと伝えにきてくれた。僕は急いで彼が待つ病室に向かった。ベットで寝ている彼はいつも見せない表情をしていた。
「ごめんね、実は僕は癌なんだ。あなたにこのことは知られたくなかったけど、もう結構ガタがきてるみたい」
とても悲しそうな表情で彼は続けた。
「だから、僕と別れて、あなたにこれ以上心配かけさせたくないし悲しませたくない」
そう言った彼の目には涙が浮かんでいた。
「それは出来ないよ、僕は君を愛してるから、それに君からの恩もまだ返せてないしね」
気の利いた言葉を返せなかったが僕が思う1番の気持ちを伝えた。
「あなたはいつもそうですね」
彼は涙を流しながら笑った。
翌日、彼の退院が認められた。余生は自由に生きたいという彼の思いで。それから僕は長期の休暇を貰った。社長は妻の死に立ち会えなかった時の話をしてくれた。いい会社に入ったと思った。
それから僕達は旅行に行ったり、家でゆっくりしたり充実した日々を過ごした。
ある日彼は「もし僕があなたに会えてなかったら、きっと今よりも早く死んでるんでしょうね」と言った。
僕は何も言えなかった。日に日に衰えていく彼を見て死が近づいている事を実感してしまったのだ。
それから数日して彼は死んだ。最後は眠るように死んで言った。僕は彼になにか出来ただろうか、彼は本当に幸せだったのだろうか、不安になり僕は一日中泣いた。
葬儀の日、会場には僕一人がいた。どうやら彼は親族もいなく大学にもほとんど行ってなかったらしく、知り合いがいなかったそうだ。葬儀が終わった後、弁護士に遺言書を渡された。
「拝啓 愛すべき人へ
あなたがこれを読んでいるということは、僕はもう死んでしまったのでしょう、実は僕はあなたに出会うまで誰とも会話する事がなかったのです。あなたに出会ってからの日々はとても充実したものでした。そしてある日、体調が悪くなって入院してた時にあなたの事が頻りに思い浮かんでは消えていきました。入院中あなたが内定を貰ったと聞き自分の事のように喜んだことを今でも覚えています。正直、文を書くのが苦手なので今の気持ちだけ最後に書いて終わろうと思います。あなたと出会えて、あなたの彼氏になれてとてもとても幸せでした。もっとあなたといたかったけどそれは叶わぬ願いです。どうかお幸せに。敬具」
気がついたら紙が濡れていた。原因はすぐにわかった、涙だ。おそらく僕は今泣いているのだろう、でも僕は彼を幸せに出来て居たみたいで安心した。
あれから何年か経った。今でも君を想う気持ちはなくならない、ふと夜目が覚めて隣に君がいない事を悲しむ。1人はやっぱり寂しい。でも
きっと君は今でもどこかから僕を見ているのだろう。




