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いつか見た様な

作者: だかずお

僕は三十六歳になった。

日本と言う国に住み、結婚はしていないが、たまに働き、大方楽しく気ままにやっている。

今夜は中学時代からの友達と居酒屋に飲みに行く予定だ。

電車に乗り、渋谷の駅で降りる。

相変わらずの沢山の人、中には人混みの多い所は嫌いだと言う人も居るが、僕は賑わっている街が結構好きだ。

それで待ち合わせ場所は渋谷となった。

友達は結構寡黙な方の人間なのであるが、交友期間の長い僕とは割と気を遣わず、良く喋る、二人で酒を飲み、語りだすと色々深い話などを沢山したりする。

僕等は渋谷の駅前で合流し、いつもの様に安い居酒屋に入り、乾杯を始めた。


「乾杯」


酔い始める前は、お互いの近況、最近の日常生活の話などを始める。


「最近なんか面白い事あった?」


「いたって普通だね、でもこないだ会社の人と朝まで飲み語ったよ」


「へぇ、どうだった?」


大体こんな調子から始まる


酔い始めてくると、酔いの段階によって、普段の会話からは脱線し始め、最初はローカルな電車に乗っているのだが、飛行機に乗りだし、普段行かないような外国の地に向かう、顔が真っ赤になる頃には、ロケットに乗り宇宙に飛び出す始末だ。


ちなみに今は宇宙に飛び出した後

「人間って、何処から来て、何処に向かってるんだろうね?」


「君は不思議だと思わないか?死んだらどうなるのか?気になったりしないの?」


「いやぁ〜そりゃ考えるけどね、結局結論に至っても、頭で考えて勝手に自分で納得してるだけかも知れないし」


「最近ふと感じるんだ、気付いたらここで生きてた様な気がする、人生が始まり、振り返ればあっと言う間に、小学校、中学校、大学に行ってて、また今を生きてる、これはなんなんだろうね?」


友達は微笑する

「なんなんだろうねって言われても、結局なにも分からないんだよ、唯一分かった事は自分らは何も知らないって事だよ」


「そうなんだよ、何も知らない、分からないんだよなぁ」


そんな会話をし、会計を済まし。

またいつもの日常へと帰っていく。

僕は友達とこんな会話をするのが好きなのだ。


それは渋谷から電車に乗り、自身の住むアパートの最寄り駅で降り、歩いてる時の事だった。

突然僕の前に眩い光が、目の前を見ると、すぐそこに車が突っ込んで来ていたのだ。

その瞬間、僕は思う、、、あっ死んだ、と。。。


ガシャアアンッ


気付くと、僕は何も無い、真っ白の空間に居た。

あれ、なんだここは?

一瞬記憶が飛んだのか、自分が誰なのか思い出せなくなる。

あれっ?

確か僕は…そうだ渋谷で飲んでいて、確か帰り道に…段々と記憶が蘇って来る。

そうだ車に跳ねられたんだ。


それじゃあここはまさかあの世なのか?

焦り出す僕、何故なら周りは真っ白い空間、おおよそ想像していたあの世とは異なっていた風景だったからだ。

花畑は?

まさかこれが真実だとしたら、僕は恐ろしくなり、発狂しそうになった。

何故なら、何も無いからだ、自分の身体も、見える景色も真っ白でこの意識以外なにも……


これが永遠に続くのならば、地獄だ。

孤独死すらも出来ない、いや死ぬ事も出来ないではないか?身体すら無いのだから。

徐々に恐ろしくなり始めた、何も無い無の世界

これが永遠に続くのか?

なんとか発狂しそうになる自分を落ち着かせようとする、大丈夫だ、大丈夫だ、まさかそんな訳ない、落ち着け、落ち着け、そんな訳があるわけ無いじゃないか、パニックになりつつも、なんとか自分を落ち着かせようとする。


そんな訳ない


目の前は真っ白な空間


何も無かった


叫びそうになるが、声も出ない


そうだ夢に違いない、眠ればきっと目を覚まし、夢だったんだと。

僕はギョッとする、閉じる瞳が無いからだ、つまりここが臨界点、この景色は永遠に変わらなく続いていく……


ゾッとした瞬間だった、僕はある事実に気付く

いや、待てよ、それはおかしい、何故なら僕は先程まで友達と渋谷に居たのだから、どうやってあれらの光景を見たと言うのだ?

そうだ明らかにおかしい、僕には確かに人生があった。

そう、父、母も居て、友達も、仕事も、そうだこれが本当であるわけ無いじゃないか


絶対にここに何かある

これは夢だ、夢に違いない


おおい、誰か、誰かいないのか?


その時だった、僕の目の前に見た事も無い少女が立っているでは無いか。

とにかく嬉しかった、孤独から解放された気がした。

少女が何者でも構わない、とにかく話がしたい。


「君、君は誰で、ここは何処なんだい?」


少女は微笑んだ「私が誰って、誰でもないわ、何処かはまだ言えない、だってまだ途中だもの」


「途中?何を言っているんだい?」


「どうしますか?続けますか?それとも終わりにしますか?」


即答だった、続ける、続ける!!

次の瞬間、僕は病院のベッドに居た。

病室の風景、天井が見えたと言うだけだったが、あまりの嬉しさに涙していた。

そして、家族の姿が、僕は安堵と共に目をつむった。


ああ良かった。


目を覚ますと、いつも通りの日常があった。

ここは日本で、僕は都内に住んでおり、僕以外にも、もちろん沢山の人が居る。

ああ、こんな当たり前が、こんなにも幸せだなんて。

とにかくホッとしたのだ。

僕は嫌いだった仕事に行ける事すら、嬉しいと思う自分を感じては笑ってしまった。


だが、一つ気がかりな事が…

もしあれが本当にあの世と言うものなら、僕は怖くなった。

でも、あの少女は一体?


それから月日は流れ、歳は八十五になっていた。

僕が横たわる病室のベッドは、妻と子供、孫達に囲まれている。

閉じかける瞳

ああ、自分は死ぬんだな。


その時、若かりし体験が脳裏をよぎる、もしかして僕はまたあそこに行くのか?

そして今、はっきりと思い出した事がある

あの時、少女は確かに言っていた、続けますか?終わりにしますか?と……


今度はどうなるのだ?

終わりを選んでしまったら……

僕はどうなってしまうのだ?


僕は真っ白い空間に居た


やはりまたここだ。

ここはやはりあの世なのか?


すぐにあの少女を思った。

すると目の前にやはりその子は現れたのだ、当時と変わらぬ姿で。


「おいっ君、教えてくれ、ここはあの世なんだろう?君は誰だ?」


「それは答えられません、それよりどうしますか?」


「なんだって?」


「続けますか?それとも」


「終わりにしますか?」


「君、待て、まっ、待ってくれ、続けますか?って僕は死んだのだぞ、あの時は事故で運良く生き返って戻れたけど、今回は老衰で確かに寿命を終えたのに、どうやって続けると言うんだ?」


少女は言った


「続けますか?終わりにしますか?」


なんだと言うのだ、僕は終わりにすると言うのが恐ろしくて口に出来なかった。


「待ってくれ、君、終わりにしたらどうなると言うんだね?」


少女は微笑する


「終わりです」


それを聴き、恐ろしくなった僕は言った


「続けます」


「分かりました、ではリセットします」


リセット? リセットと言ったのか?


全ての記憶が消し飛んだ


私は現在、四十二歳の女、アメリカと言う国で育ち、南北戦争を体験し、現在不治の病に侵され、死を待つばかり。

そこそこ幸せな人生だった、ロベルトと言う男性と結婚し、子供こそ出来なかったが、旦那の最後を看取る事が出来て、思い残す事はもう何も無い。

その時ふと思う、死んだらどうなるのだろうか?

生きるのに必死で、考えたことも無かった。


何故だか分からないが、その時、脳裏に見た事の無い少女の姿が浮かんだ。

何故でしょう、その子を懐かしく感じたのは……


私は気付くと真っ白い空間に居た。

何故か心は落ち着き、何かを待っている私がそこには居た。


すると少女が目の前に現れる。


何故だろう、初めてなのに初めてじゃない気がするのは?

そんな事を思った、その時

私は思い出す、そう、私はこの少女に初めて会うのではない

過去二千三百八十五回程彼女に会っている、そうハッキリ思い出したのだ。


少女は言った


「続けますか?終わりにしますか?」


私はもう何も怖くなかった、そして全てに満足していた。


「終わりにします」


少女は微笑する


「では、終わりにします」


少女はゆっくり、ゆっくりと、こちらに近付いてくる


私は全てを覚悟していた。

例えどうなろうと、もう何も怖くはない

全てを受け入れていた私がそこには居た。


少女がすぐ側まで来て口にする


「では、さようなら」


何かのスイッチが切れる様な音がした。




ヴィヂャアアアンッ
























すると白い空間の天井が開き出したではないか

降り注ぐ眩い光


そこから声がした。


「おおい〜エムリア、いつまで最新ヴァーチャルゲームで遊んでるんだ、もう五時間もそれで遊んでるぞ」


その時、全てを思い出した


「あははは、パパ、やばいくらいハマり過ぎてた」


「ご飯出来てるぞ」


久しぶりに外に出た私は、あまりにも美しい光景に涙した。




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