表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第一話 維新改世


 天暦一八六五年。

 この年、軍権奉還によって二五〇年続いた桜庭幕府さくらばばくふはその歴史を閉ざし、新天皇である明慈天皇が即位する。俗にいう幕末と呼ばれる時代が終わり、倒幕志士による新政府である明慈政府が樹立され、皇国憲法が発布されたのがこの時代である。

 

 そしてはそれは、いわゆる『維新改世』と呼ばれる政治革命の開始でもあった。


 憲法発布に伴い、今まではただ漠然と『旭の国』もしくは『日の国』と呼ばれていたこの国は、二千年の歴史の中で初めて旭花皇国という国名を持ち、常備軍を持ち、法整備を整え、外交の場へと赴いた。

 いわば世界史上で言う所の、国家としての体をなすことになった。


 今まで、ただ漠然と武士と呼ばれる存在が支配していただけのこの国の姿は大きく変わり、法によって国の形は整えられ、法の契約によって約束の概念は厳格化され、法の制度によって人々は自由というものを手に入れた。


 そんな新政府の細かな法による支配を嫌ったのは、他ならぬ旧幕府勢力であった。


 これには裏のカラクリがある。実は軍権奉還によって維新政府に政権を禅譲した旧幕府勢力だったが、幕府側の思惑は維新政府に政権を譲るのでは無く、維新勢力に協調的な姿勢をとる事で維新政府の中枢部に食い込む事であった。

 いわば、幕府は看板だけを変えて自らが国の上に立つ為の一手を打ったのである。

 旧幕府勢力にとって予想外であったのは、維新勢力がそんな幕府側の思惑を『見破れなかった』点にある。

 維新勢力側にとって、優れた官僚や政治家を抱え込んでいる旧幕府側の人材は、早急な近代化を目指す上では必要不可欠な要素であった。

 その為、旧幕府側の人材を彼らは重用した。

 だが問題は、旧幕府のかつてのトップである御法川将軍家に対する扱いである。


 最後の征討大将軍であった御法川みのりかわ 信吉のぶよしは、将軍職を辞した後、特別に静河領しずかわが制定され、そこの領主に転封された。


 つまりは一地方の地方領主という扱いで終わらせていた。


 これは、彼の当初の狙いからすれば大きく外れたものになる。


 と言うのも、御法川家の狙いで言えば、軍権奉還を行なったのは、旧幕府勢力が維新勢力に食い込み政権を新たに簒奪する為であり、これを断れば堂々と維新側を『逆賊』として討ち、人材が重用されるのであればそのまま御法川家を始めとする旧幕府勢力が実権を掌握する。


 そんな腹づもりであったところが、蓋を開けてみれば人材は重用されたが、肝心の御法川家は地方領主以上の権威は与えらなかった。つまりは御法川家だけが宙に浮いた状態になった。


 言ってみれば、この事が旧幕府側に取って心残りとなっていた。


 やがてこの不満は爆発し、旧幕府勢力は新たに御法川 信吉を担ぎ上げて黒海道に観弩みど共和国の建国と旭花皇国からの独立を叫び、維新政府と激突した。いわゆる、鬼門戦争と呼ばれる反乱である。

一八六八年に起こったこの反乱は、軍権奉還によって起こった維新改世いしんかいせいに反発する旧幕府勢力が糾合した、事実上の旧幕府と新政府との最終決戦となった。


 明慈に入って初めて起こったこの反乱は、それから二年後の一八七〇年の五月。

 明慈五年に当たるこの年、鬼門戦争が終結する。

 桜庭幕府の歴史を紐解けば、それは恰も戦国最後の大戦である境ヶさかいがはらの戦いから始まる羽柴家凋落の流れに似ていた。


 こうして、旧幕府軍の最後の抵抗である黒海道での戦いである五星郭の戦いを以て鬼門戦争は終結し、それと同時に旭花皇国の維新改世も終焉する。




 それから二十年もの時代が下った、天歴一八九〇年の春。


 長峰 禅二郎は京都の沿岸の街である御橋台市の大企業である『長峰工業』の社長、長峰 重兵衛の息子として生まれる。


 それは北方の大国であるラムセス帝国との間に戦争が起こる十五年前のことであった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ