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能ある鷹は爪を見せてはくれない  作者: 町壁レタス
1章 "巻き込まれ体質"
8/10

真実は誰かが知る



こんなにも朝の目覚めが悪いことはここ最近はなかった気がする。そう思えるほど身体は重怠かった。けっして体調とかそういったモノではなく、ただなんとなく……身体が怠さを主張しているのだ。ベッドから半身だけ起き上がるとベッドの近くのソファーに横になるシュタが見える。―― 一晩中いてくれたんだ。まだ太陽は昇っておらず部屋の中は少し薄暗い。私に掛かっていた羽毛布団を抱き上げそっとシュタの体の上にかけた。



「……ナル、起きたのか? 」

「あっ、ごめんなさい。寒そうだったから」

「あぁ。悪い。ナルこそ身体が冷えるだろ俺はいいから布団に入れ」

「……うん」



気がつかないと踏んで布団をかけたが、流石というところなのか見事に布団を掛ける前に大きな瞳を開けたナル。やはりバレてしまったみたいだ。布団で寝るとは違ってソファーで寝るなんて寒いし身体も痛くなるだろう……けれど、隣においでとも言えない。もうそんな事を言える歳でもないのだ。そんなことを考えていると、いつのまにかシュタは身体を起こしていて、私の隣に立つと腰に手を回してベッドに誘導する。……まただ、シュタはいつも、いつものように私の心配をしてしまうのだ。



「そんなことをしなくても布団くらいちゃんと入れるわ!…このままじゃシュタがいないと私はダメ人間になっちゃうよ」

「プハッ、そうなるようにしてんの」

「なにそれ」

「こっちの話。さっ、ナル。話は終わりだ。朝日が昇るまでは寝てろ、な?」

「……うん」



ギシッとベッドが軋む。先ほどまで温かかった身体は大理石の床に体温をとられ底冷えしていた。布団の中はまだ暖かい。私が横になったのを確認してシュタが枕元に腰かける。



「…眠れないか?」

「…ううん。」

「嘘つけ。ここシワあるぞ?」

「眉間に触るなッ!!」


グリグリと眉間を捻られる。


「…お前の顔には、ばーさんが心配って書いてあるな」

「嘘ッ?」

「嘘」

「なっ…く…ッ、シュタ…!」

「本当、可愛いなお前。」

「な、なにいってんの…もう…!」



からかわれてる、そう分かっていても何だか妙に心臓が痛い。話題を替えようと話し始めるも見事に声が上ずった。その様子をみてシュタの目尻が細くなる。


「シュタは心配じゃないの…?聖女様のこと」

「そりゃあ心配じゃないってことはねぇけど…なんつーか、分かるんだよ。あぁ、大丈夫だって」

「なにそれ、まるでシュタも聖女様みたい」

「ハハハッ、どうだろうな」

「でもそれも面白いかも、"聖女"っていうから女の人ってイメージだけど別に聖女の持つ力があれば聖女様なわけじゃない?シュタが聖女…ねぇ。ふふふ、やっぱり面白い」

「面白いかあ?…兎に角、ばーさんのことは心配いらねぇよ。」

「…うん。ねぇシュタ、次、目が覚めたら会いに行けるかしら」

「…それはなんとも…。………いや、行くか?今から」

「えっ、シュタ…?」

「ばーさん。会いたいんだろ?なら行こうぜ」

「何言って、」

「"探検"。昔したろ? 」



ニヤリと口角をあげたシュタ。

――"探検"。それは昔、幼い頃から一緒の私とシュタだけに通じる秘密の遊び。その内容は簡単な事で気の思うままに二人でどこまでも進む…ただそれだけ。今まさにシュタはそれを提案してきたのだ。でも流石にこの状況下、国王命令が下されている今…"探検"なんてそんな危険な賭けをしてもいいものか、少し脳みそが震える。私が考え込むような仕草をみせたのをシュタは見逃さない。



「不安?」

「……ッ!それは、ま、まあ」

「――バレたら二人だけでどこかに行こうね」

「えっ?なに?」

「ナルがこんくらい小さいときに俺に言った言葉」

「……ッ」

「なんかあったら、二人でどこかいこう」



そうシュタが射ぬくように私の瞳を見つめた。――あぁやっぱり変わらないなあ。シュタはいつもそう。私が決められない時、私が困難にぶち当たった時…、どんな時だって私を導いてくれる。だからこそ深い信用して過ごせているのだよくよく考えてみれば私の周りにはそんな人しかいない。私のこういう立場上、バストレールの正式な皇女として近寄ってくるもの全てを疑わざるおえず1歩外に出れば敵と思わなくちゃいけない心持ちだった私にとってシュタやリュン達少ないけど私の味方で安心できるメンバーだ。…シュタの提案した"探検"それを否定する必要はないじゃないか。そう思えては沸々と沸き出る謎の高揚感に耐えきれずハハハッと声をもらす。突然のことにシュタは怪訝な目線を向けながらも、その姿が面白かったからかシュタもプッとその場で吹き出した。



「……行くか?」

「もちろん!」



そう言ってベッドから立ち上がり、目線をまた合わせて、ニシシッと笑った。





◇◇◇




「こんな道、よく知っていたわね」




あの後すぐに暖かい服に身を包みシュタの先導に着いていく、まだ日は向こうに隠れていて薄暗い。シュタが選ぶ道は住んでいる私も知らない獣道のようでその道にはえる草は踏まれてもすぐに状態を取り戻すように青々としている。 私達がいつも過ごしている敷地は想像するより大きいのだ。幼い頃の"探検"で私もある程度は知っていたそんな気でいたからかもしれない。まだまだ私の知らないことは多い。



「この先は地面がぬかるんでる、ほら手貸せ」

「えっ、あっ…うん」



そう言って広げられた手を一瞬見つめて手を重ねた。…私のよりも一回りは大きい手に不思議な感覚を覚える。なんというかシュタは男の人なんだなあと。…別にシュタの性別を間違えて覚えてたっていう意味ではなく、こう…男として意識をしはじめている…ような。私は最近おかしいのだ。シュタに差し出された手を握るの一瞬渋ってしまった。これじゃあまるで意識してるみたいじゃないか。




「…シュタ、」

「ん?どうした?」

「…温かいね」

「おう」



絡んだ指がまた深くなった。



ぬかるみに足をとられながらもしばらく歩いてると、見慣れた聖拝堂の裏手、中に飾られたステンドグラスが左右逆方向に見える。裏からみてもやはり、心地のよい場所であった。ここまで来るのに誰一人として出会った者はいない。


「…嘘だ…。本当にバレずについちゃった…!」

「まあ、俺しか知らない道だからな」

「そうなんだ!さすがシュタってとこね!」

「まあな。 ……流石に見張りがいるな」

「そうね、…入り口に1人…3人?」

「…あれは国王付きの兵だな。なら裏口から行こう」

「裏口?ここじゃないの?」

「ここは聖拝堂の真裏ってとこ、俺が行きたいのは聖女様の言う裏口」

「そんなところがあるの!?」

「しーっ、声がでかい」



あ、やばい。慌てて口元を手で押さえ声をすぼめて返事をする。カサカサと言う葉の擦れた音を消すほどの虫の音が私達の緊張感とは裏腹に涼しげに鳴いている。シュタ聖拝堂の裏側のタイルをいくつか叩くと小さくガコンッと音が鳴りある一区画が少し浮きでる。まさか、隠し扉?シュタが、その隠し扉を足先で引っ掛けると器用に押し上げそこにはあら不思議、階段かわ繋がっていたのだった。真っ暗なはずなのに、整備されているのが分かるほど歩きやすそうな階段。



「…これは?」

「聖拝堂の地下に繋がる場所」

「それはわかるけど…シュタ…、あなたは何者?」

「何者ってなあおい」

「こんなところ…」

「"聖女なら知ってることだ"」

「聖女様なら…?」

「まあ…そんな感じだな。」

「…でも、ここから聖女様に会えるのね」

「会える」

「行く、シュタ。ついてきて」

「もちろん。ナルを一人にしない。――だから何があっても前だけ進め」

「わかった」



"何があっても前だけ進めよ"か…。シュタが開いてくれる扉をくぐり、階段を1段ずつ降りているがやはり整備されている。1段は大きいものの苔が生えていないためか滑ることはない。…が先程までシュタが出入口を開いていたお陰で差し込む光があったけれど、閉じられたせいで真っ暗だ。私の足音とシュタの足音、それから心臓の音まで聞こえる。



―――コツ、コツ。



口を開かずもう30段は降りたはず…それなのに

終わりが見えない。足元の階段だけがずっと続く。



―――コツ、コツ。

――――コツ、コツ、コツ。



何段降りただろう…おかしい…目が使えず音だけを頼りに進んでいることもあってか敏感になた耳色んな音が情報として脳に入れ込む。それは分かるが、私とシュタ、二人だけのはずなのに……別の足音がする。



―――コツ、コツ、コツ



やっぱり聞こえる、身体の体温ががくっと落ちて心臓が速まる。あれ、いつから私は一人なんだっけ?…シュタは、シュタはいるよね?



「シュタ!」



――コツ、コツ、コツコツ。



「シュタ…ァ!!」



嘘だ。シュタも一緒に階段を降りていた、一人なはずはない!…けどシュタの足音だってするのに返事は一向に聞こえない。手にじっとりと汗が滲む。その間も階段はどんどん続いていて終わりはみえない。どこまで続くの?もう、いい加減ッ一人はいやッれそうだ!立ち止まって後ろを確認して、シュタを見つけてそれから!



「ナルーシェ!お前先行くなよ」

「えっ、シュタ!もう…」

「ナルーシェ、もう帰ろうな」

「帰える?なんで、」

「部屋で眠ればじきに朝になるじゃないか」

「でも、」


シュタを見つけようとした瞬間、目の前にシュタが現れて流れるように腰に手を回す。腰を引かれ身体が近づいた。


「さあ、帰ろう。ナルーシェ」

「………シュタ」

「どうした?…おいおい、なんで行かない?」

「……」

「俺と一緒に過ごそう」

「…………誰?」

「はあ?」

「貴方、誰?」

「なに言ってんだよ、ナルーシェ」

「…いまッ………ねぇ、シュタ。私の名前はなに?」

「ナルーシェだろ」



違うシュタじゃない、私の知ってるシュタじゃない。だって、シュタは私を二人のときは"ナルーシェ"じゃなくて"ナル"って呼んでくれる。

目の前のシュタは私をじっと見て微笑んでいた。

その顔は完全にシュタに違いないけどどこかが違う。直感に近い感覚だけれど、このシュタを信じてはいけない。だから私は、このシュタを否定しなくては…。喉が嫌に痛い。…信頼している人を否定するのは辛い。けど…。大きく息を吸った。



「貴方はシュタじゃない」



だってシュタと約束した。"何があっても前だけ進め"って。目の前ののシュタはシュタだけど違う、私が信じるのは、私のシュタだ。



「私はシュタを信じるよ。前だけ進めだよね、」



そう決めて、偽物のシュタの横を通る。足が止まりそうになる。けれどすれ違う一瞬だけ見えたその顔には笑みが浮かんでいて、何も話していないのに頭の中で「止まるなよ」そう聞こえるよ。




―――コツ、コツ。



「シュタ…、」



――コツ、コツ。



「会いたい……!」


「来いっ!!」

「シュタ!?」



突然弾けるようなシュタの声の後に腕をひかれる。その瞬間広がる景色は先程の暗闇が嘘のように目が霞むような光が広がった。シュタに腕を引かれそのままシュタの胸に飛び込むと勢いよく体が抱きしめられた。



「ナルッ!!頑張ったな」

「…シュタ、どうして!私、わた…し!」

「頑張ったな…。ここは歴代の聖女様が試練を与える道だ。…ナルなら通れると踏んだんだ。怖い思いをさせて悪かった」

「…試練を与える道?…そんな場所があるの?」

「そうだ、入ったもの歴代の聖女様から試練を与えられる。――そうやって昔から侵入者を防いでいたんだ」

「その試練って」

「ナル、ここに来るまでに誰に出会った?」

「出会った人?…それは……シュタだけど?」

「それが、試練だ」

「えっ?……どういうこと?」

「さあな、ほら行くぞ」

「えっ、ちょっとどうして?」



試練の内容が気になるのに突然シュタは方向をかえて足早に奥へとすすんでしまったのだった。ちらりと見えたシュタの耳は赤く染まっていた。



いつも閲覧ありがとうございます。

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