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能ある鷹は爪を見せてはくれない  作者: 町壁レタス
1章 "巻き込まれ体質"
7/10

あの時の"予感"




馬車の中では行きでは感じるのことのなかった時間が酷く長く感じる。重々しい雰囲気からシュタもリュンも口を開くことはない…もちろん私も。想像したくもない、考えたくもないけどバストレールになにがあったのか想像するだけで怖い、冷えきった手のひらを重ねて擦り合わせた。



「ナルーシェ様」

「…………なに?」

「……ナル。………心配すんじゃねぇ。どんなことがあっても俺がお前を守る、そう約束しただろ」

「シュタ……ありがとう。」

「……二人とも準備をしておいてそろそろ、着くよ」

「……うん」



馴染みのある海辺に近づいてきたころにリュンが声をかける。馬車の窓を開けて顔をのりだし外をみると遠くの方にうっすら城みえる。――良かった。炎の光じゃない。



「ナルちゃん、危ないから顔出さないで」

「あ!う、うん。ごめん」

「シュタ、ナルちゃんの事を見張っておいてよ」

「悪い、ほら座れッ」



腕を引かれてシュタの隣に体勢を崩す形でストンと座る。反動で付いていた私の手のひらがシュタの手のひらに重なった。……温かい大きな手、身などもうのり出したりしていないにその手を離すのは何故か惜しくて重なったままだ。……バカみたいに一瞬で恥ずかしさが私を満たしていて、なんだかなぁ……あんなに不安だったのに今じゃこんな気持ちになって。私はバストレールのモノなのに。けれど、この気持ちは不思議だった。……トクン、トクンと心臓が鳴っている。



「ご、ごめん」

「……あぁ。」



あぁなんだっけなこの感じ。

――この感覚は忘れていたような気がする。なんと言うのか、歳をとってバストレール国王の娘として変な規則をというかレールというのか私は"こうなるんだろうな"なんてうっすらと理解していた中で人間らしさ、いち女の子として持つべき感覚を持っていたのかもしれない。けど、かもしれない程度。それを判断するには私にまだいろいろ物が足りなすぎると思っている…というか今はそんな事を考えていることがおかしい!頭を左右に振って大きくため息をついた。




「んじゃあ、騎士の俺はここまでかな」

「リュン、本当にありがとう。それに、スネークにシャークも」

「いいえ~ん。じゃあね、ナルちゃんにシュタ!……さあお前達もよく頑張ったな~」




そう言いながら去っていくリュンと馬二匹を見送り私達も続いてお城の中に入る。自分のお城だと言うのにまだやはり気は抜けない、私はまだニルギーシェのままなのだ。シュタと二人、声を発することなく部屋に向かう。流石に勅命の後だ、各々バタバタと動き回っているのだろう私たちの部屋プライベートゾーンですれ違う人は一人もいなかった。部屋に近づくにつれて張り上げていた背中の力もゆっくりと抜けていく。シュタが私の部屋の扉を開けて、私が中に入り扉が閉められた。




「…はぁ。やっと帰ってこれた!」

「お疲れ様です。」

「シュタもね。いろいろサポートありがとう。」

「いえ、当然のことをしたまでですから」

「そうね。でもありがとう。シュタがいなかったらきっと無理だったからさ」

「そんなこと今言うなよ…。はぁ……大体な!お前、セジブナルのベルネット皇女へのあれはなんだ!」

「えっ、ベルネット皇女?私なんかした?」

「しただろうが!……最後、ベルネット皇女を庇うために言ったあの

言葉!」




シュタの言い出した言葉にピンと来るものはない。最後、ベルネット皇女を庇うため、庇うため……。

ああ!




"「お言葉ですが、彼女は素敵ですよ。自分の美しさを理解し、それを生かしたドレスアップ。細かな刺繍が素敵じゃないですか。…それにあの大きな丸眼鏡の奥……その下にどんな瞳が揺れているのか気になるではないか。私も男の様だな」"





「あれか!あれがどうしたの?」

「はぁ、オイッ!ナル!あれはニルギーシェ様としてじゃなくてナルとしての答えだっただろう!」

「……え、えええ…えっとぉ」

「ナル!」

「ごめんなさい!けどあぁいうの大嫌いで…」

「んなもんは、知ってる!何年、一緒にいると思ってるんだこっちは!」

「ごめんって…」

「あの姿はニルギーシェ様であってナルじゃないんだからな」

「うん…!でもきっと何にもならないと思うよ。ほら、あそこで私がああいう態度をとらないときっとベルネット皇女に無礼を働いたあの国とセジブナル国は取り返しのつかないことになっていたかもしれないし、何もバストレールには問題なかったでしょ?」

「はあぁぁぁぁぁ……」

「えっ、何。何なのそのため息は!」

「いや…いいです。ナルーシェ様はそう言うお方でした。……めんどくせぇことにならなきゃいいけどな」

「?」



あの時の私の行動に問題はあったか?いやきっとシュタからしたらあったんだろうけど私にはどうしてもない気しかしなくて、絞り出した答えがシュタが言ってるところとは違うことを返してしまったということだろう。あの大きいため息は絶対そうだ。シュタの言うめんどくさいこととはなんだろうか?浮かんでくる疑問の答えはぐるぐると頭を使ってもでない、いや、待てよ問題はなかったでしょうに!シュタは話をしながらもテキパキと私の洋服を出し私の近くに洋服を置いた。それを見て着ていたニルギーシェお兄様の洋服を脱ぐ。



「おい!ナル!人前で脱ぐな!」

「え?いいじゃん別に、シュタだし」

「………お前な…」



シュタの言葉を待っていると、突然扉を激しく叩かれ身体をびくつかせた。もうナルーシェの姿だから何も気にすることはないけれどこればっかりはもう反射に近い。


「ナルーシェ様、ナルーシェ様!お戻りですか!」

「ッ、び、ビックリしたぁ!その声はサナリアね!ごめんなさい。戻っていたのに」

「大丈夫です。ゆっくりしていてくださいと言いたいところだけど、ちょっとそうはいかなくなってしまいましたので、」

「うん。馬車の中でバストレールの外観はみて問題はなさそうだったし、敵国の襲来では無さそうで少し安心してしまっていたわ。――で、どうしたの?そもそもあの勅命はニルギーシェお兄様からなのかしら?……あせりすぎたわね、とりあえず中に入る?」

「このままでいいです。まず、勅命を送ったのは私です…ナルーシェ様、落ちついて聞いてください。――聖女様が倒れられました」

「えっ………!?」




◇◇◇



例えば人が死ぬとか、大切な人が目の前から消えてしまいそうな時とか。その時人はどうなってしまうのかは経験しなければいまいち分からないものである。――が、経験してしまえば話は変わる。

あぁ、今はよく分かる。頭に血が巡っていないように感じるほど頭が回らなく、思考が止まっていて、今の胸を埋め尽くす感情を口にすることが出来ない。喜怒哀楽に指し示せない“何か”で埋め尽くされていく。

「はぁっ、はぁっ…」と短い呼吸が機能的に続く。



「聖女様が倒れられました」

「うん、聞こえた……聞こえた」

「ナルーシェ様」

「だ、いじょうぶ。大丈夫……ッ、はぁっ……はあっ、はッ――」

「ナルーシェ様!?おい!ナル!ちゃんと息吐け、俺に合わせろ!」

「シュタっ、シュタっ、苦しいッくる……」

「クソ!!!」



これ以上息を吸いたくないのに勝手に酸素を吸い込んで、息を吐きたいのに口が、喉が、肺が言うことを聞いてくれない。自分が壊れたような気がして、このまま自分は死んでしまうんじゃないかと目の前が真っ暗になりそうだ。遠くで私を呼ぶ声が聞こえるけれど、もう、いまはそれに応える余裕なんて、ない。


「……ッ、んっ!?」

「ナル、ナル。落ち着け。俺に集中しろ。俺だけを見ろ。……いいな」



顎を指先で固定されて、上を向かせられる。綺麗な灰色の瞳が私を真っ直ぐに貫いていて辛くて苦しいのに魅入ってしまう。重なった唇から伝わる温かい温もりを感じて幾らか心が落ち着いたような気がした。



「んん、っ、ん」

「……ナル、鼻で息をしろ。そう、そうだ」



塞がれた唇が私が動くたびにくっついて離さない。シュタの口の中で吐き出される息をまた吸って吐き出す。でも、それでも苦しい。

嫌だ、いやだ。離して、苦しい……!


シュタの胸元を力のない手で押しているのにピクリともしない。むしろ、シュタは離れようとする私を抱き寄せて腕ごと抱き締めた。

辛いけど、でもシュタの私を思い遣る態度が嬉しくて涙がこみ上げてくる。嬉しいのか悲しいのか、自分でもよく分からないぐちゃぐちゃになった感情が渦巻いて、思わずシュタの脇の服を掴んだ。




「ナル、良い子だ。そのまま、ゆっくり、な」

「……う、ん」




鼻から息をするから吸える量も少なくなって、次第に呼吸が安定していく。

ふーっ、ふーっ、と胸を大きく上下させて鼻で息をしながら冷や汗でびっしょりと濡れた額を拭う。肩を抱き竦められてしまって身動ぎすることしか出来ないけれど、私が落ち着いてきたのが分かったのか、シュタの顔が僅かに綻んだのが分かった。



「落ちつけ、まだばーさんは死んでねぇだろ」

「…あの、あの……!」

「ナル、落ちつけ」

「うん、落ち着く落ち着くよ。ありがとう」



そう言って抱きしめられていた身体をシュタから離し、下を向いて新鮮な空気を吸う。いまだにドクドクと打つ心臓を抑え込み口を開くのだった。



「…公務に行く前、何故か嫌な予感がしたの…聖女様に会いに行かなきゃって……あんな予感があたるちゃうなんて……」

「そんな思い詰めるんじゃねぇぞ。ばーさんもいい歳だし、第一倒れただけだ。」

「聖女様をばーさんなんて呼んで!」

「ばーさんは、ばーさんはだからな。――サナリア、まだそこにいるか?」

「いますよ。ナルーシェ様の一大事壁をぶち破ろうとも考えましたが、良からぬ音も聞こえておりましたから遠慮しました。」

「なっ……!!」



良からぬ音……!?

サナリアの言う良からぬ音に思い当たる節しかなく、顔に熱が籠る。唇が熱い。きっと私の頬は紅いだろうそんな姿をみたシュタは意地悪そうに目を細めた。馬鹿みたいに心臓がうるさい。



「良からぬ音?さて、何のことか?ねぇ、ナルーシェ様」

「え、あ、うん」

「まあいいでしょう。それでなんだシュタ。」

「今はばーさんに面会することが難しい?――違うか?」

「その通りです。この国の聖女が倒れられたと話が外部に漏れてしまう事を危惧した国王様がこの城の者全員に本日の業務停止を言い渡したのです。」

「だから、帰って来たとき誰とも出会わなかったのね。」

「その通りです。…私が先程申し上げました勅命としてナルーシェ様をお呼びしたのは、ナルーシェ様様にはこの事をいち早くお伝えしようと思いまして。ですが…恐らく、ナルーシェ様が面会できるのはもう少ししてからかと。」

「サナリア…ありがとう。」





あのセジブナル国に届いた勅命は、サナリアの判断によったものらしい。確かに送ってもらえなければ私はきっと能天気に帰って来ただろう。ただその知らせを届けたのは実の兄ではなく、サナリア。それになんとなくの引っ掛かりがあるもののそれにそっと蓋をした。この部屋に向かうときにニルギーシェお兄様の姿で人に出会わないことは私としてはありがたいが、城では国王の命が下されていたなんて思ってもいなかったのだ。




「ナルーシェ様、本日はゆっくりお休みになって明日に備えることが賢明かと。」

「私もシュタの意見と同じでございます。公務も終えたばかりですし。」

「二人とも分かったわ。ありがとう。二人がいてくれて助かったわ」

「それでは、私は部屋に戻ります。」

「ありがとう。――シュタはどうする?」

「今のナルを一人になんてしとけねぇだろう。今日は俺もここにいてやる」

「えっ……」

「別に何もいたしません。それではお風呂の準備をして来ますのでごゆっくりしていてください。」

「なっ、そういう時だけ執事モードに戻って!お風呂、よろしくお願いします!!!」




正直有り難かった。――あんなことを聞いて暗い部屋で眠れる自信はない、だって……怖い。大切な人がいなくなるのは。シュタがそれを見抜いているかは分からなかったけれど一人にしないでくれたことが嬉しくて堪らなかったのだった。聖女様の容態はどうなんだろう、聖女様に会いたい。溢れ出る気持ちをどうにか落ち着かせ溜まった唾を飲む。焦っちゃダメだ。大丈夫。聖女様は大丈夫。そう自分自身に言い聞かせ目を閉じるのだった。




予約投稿されているでしょうか……。

お待たせいたしました。

更新してない中でも一定数の方の訪問があり

本当に嬉しく思います!


やっと話が動きそうです……(笑)

メッセージもありがとうございます!

またの更新で!

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