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能ある鷹は爪を見せてはくれない  作者: 町壁レタス
1章 "巻き込まれ体質"
4/10

私はナルーシェ。



似ていると言われるお兄様の顔は、私たち肉親からすれば違いがわかる。例えば、兄の方が目はつり上がっているし、口が大きい。それから目の下ホクロがある。…といってもそれは本当によく見ないと気がつかないほどだ。ただ私がお兄様の代わりに公務に出ていること知ってるのは極少数の者達は皆揃って、私の"声"の心配をするが、それも実はたいして問題ではなかったりする。何故かと言うと、それは公務の数々、パーティにしろ会議にしろお兄様の声を聞いてる人なんていないからだ。皆、バストレール国皇子、ニルギーシェ皇子に興味があるのだ。兄に関わる者の殆どが名声、地位を求め、ニルギーシェ皇子に気に入られることを第一優先事項とする。……こればっかしは、妹の私でも兄に同情してしまう。本当のお兄様を見てもらえないなんて、と。話はそれたが、とにかく声は少し低めに私が話せば済むわけだ。


さっきの話とは違うけど、私のすべきこと、第一優先事項は"ニルギーシェ皇子になること"それに今は全てを注がないといけない。


だがしかし、私だけの力ではそれはなし得ない。

……だからこそ私には強い味方がいるのだ。それは、怖い怖いあの人の存在である。




「ナルーシェ様!ご起床のお時間です!なにぐーたらしているんです。今日はナルーシェ様に甘いシュタさんもいないですからね!甘やかしませんよ!はい、起きて!」

「ん……んん……もう少しだけ……」

「……………………」

「………………………………」

「………………起きた!起きた!!だから無言はやめて!サナリア!」

「おはようございます」

「おはよう……ございます」



ぬくぬくと温かい布団の中で身体を丸めていると、いつもとは違う鋭い声が私を呼んでいた。この起こし方はシュタじゃないことは分かっていたけれど、まさか、サナリア直々に呼び起こしにくるなんて……。全世界、いや、ナルーシェ史上一二を争う恐怖対象、私の世話人兼、講師。いや…鬼のサナリアは怒らせてはまずいのだ。そんなサナリアが無言になったことで身の危険を感じ飛び起きる。朝一番のサナリアは、とてつもなく笑顔だ。笑顔。それが一番怖い……ぞ。


「ナルーシェ様、私がお話したいこと……お分かりですよねぇ」

「うんうんうん!」

「5分です。猶予は5分。すぐに布団から出て、お湯を浴びてくださいませ。いいですね、5分……ですよ」

「はいいいっ!」



パンッ!とサナリアが手を叩いたのを聞いて飛び起きる。そして大理石の床をぺちぺち言わせながら浴場まで急いだのだった。




◇◇◇




身体を完全に清め、食事をとり終えたらすぐにサナリアに呼ばれ化粧前につく。…とうとうやってきてしまったのだ…今日は、ニルギーシェ皇子になる日が。鏡の前で自分の顔に向かってガッツポーズを決めるとなんだか身が引き締まった気がした。私には、兄になるための強い味方、サナリアがいるのだ。




「ナルーシェ様、目を閉じてください」

「うん」

「次は、開けて」

「次は、横を少し向きましょうか」

「次はこちらを……」



どんどんと姿が変わっていく姿は圧巻であった。元々、似ているけれどそれを更に近付けさせ、ニルギーシェお兄様にするのはもはや芸術だ。顔が完成していくに連れて私の中の雰囲気もお兄様に近づいているのかもしれない。長年染み付いたものなのか無意識に膝を開いて座り、口調は変わっていたのだった。その頃にはサナリアも私のことをナルーシェとは呼ばない。



「ありがとう。サナリア」

「腕をお挙げください。包帯を巻きますので苦しかったら仰ってくださいませ」

「ああ。」

「できました。…それではニルギーシェ様、お召し物はこちらに」

「ああ。……サナリア、もう俺は大丈夫だ。それより、シュタ達の準備をみてきてくれないか?」

「かしこまりました」



お兄様の髪の毛そっくりの被り物を被って、シルクのような光沢を放つ服に袖を通し私は、ニルギーシェになっていくのだった。




◇◇◇



ニルギーシェお兄様の格好のまま城を歩くといつもなら仲良く話してくれる人達が揃って頭を下げる。違うよ、私だよ!ナルーシェだよ!と言いたいところだがそれをぐっと我慢して足早に廊下を歩き、自室…この場合お兄様の部屋に向かう。今の姿、これだけではまだ足りないのだ。



「失礼します。」

「あぁ、ナルーシェか。……やっぱりお前と俺はそっくりだな。ドッペルゲンガーかと思ったさ」

「ありがた迷惑よ」

「そういうなって、もう出発か?…なら!…これを渡しとかなきゃな」

「はあ。当たり前です。それがなかったらこの国の皇子だって証明できないから貰いにきたのよ」

「おーおー。腰につけとけ、よし、行ってこい」

「い、行ってこい…?……クソ兄貴………行ってきます…」

「いってらっしゃい」



どこまでこのお兄様は呑気なのか…話しているだけで燗にさわるのは何故なのか…私にも分からないがもう慣れた。お兄様からこの国の皇子である証の剣を借り、腰に指す。そして、お兄様に頭をさげて部屋をあとにした。とりあえず、私の部屋に行こうと向かっていたが私の部屋の前にはもう今日の公務のお供もしてくれる二人が出迎えてくれていたので私の部屋に入ることもなくイライラも消えてくれたのだった。



「シュタ!リュン!」

「おっは~!ナルちゃんっ!」

「おい、こら!リュン!今はニルギーシェ様だ。」

「いっけねぇ。おっは~ニルギーシェ様」

「おはよう、リュン。シュタも。……もう用意はできてるな」

「勿論でございます。」

「勿論。俺ら格好いいでしょう」




会って早々、テンションぶち上げのリュンは相変わらずの姿でなんだか安心した。剣士とはなんだとよく怒られるような性格をしているリュンはどこかちゃらんぽらんに見せているがいざ剣を握ると人が変わったようになる。…だけどいつもこんな感じだから人の懐に入るのも上手いし、人をとてもよく観察しているので剣士仲間から認められている存在だ。本当に人をよく見ているからこそ、私の変装(ニルギーシェ)もそうそうにバレてしまったというわけだ。……俺ら格好いいでしょう…か。確かに二人はカッコいいと思う。私より背の大きい二人にバレない様に下からゆっくりと二人を見上げた。


リュンは、茶色い髪の毛を少し遊ばせていて、瞳は真ん丸。一見、可愛い見た目に見えもするがそれなのに、腕や、肩には筋肉がちゃんとついていて手も男っぽい。剣士は各個人自分に合った剣を選べるがリュンが選んだ剣はかなり重いと聞いたこともあったが、それを扱うと言うのもこの体つきだから納得できる。


一方のシュタだが、いつも見慣れている服ではないからかなんだか新鮮で不思議な感じがした。少しのびた髪の毛を結っているのは変わりはないが外出するときの格好はどこか色っぽさも纏っている。切れ長の瞳、その瞳を囲うように長い睫毛はしっかりと主張している。薄い唇、それから首筋にはくっきりと筋が見えていた。



「見すぎ、ですよ。ニルギーシェ様」

「なっ……見てない!」

「はははは!なんだよなあ…俺だけ取り残されてる感じかよ」

「いいえ、ナルが破廉恥なだけです。」

「いやっ、ち、違う!」

「いやん、ナル様のエッチ!」

「……ん"んん!……お前ら!俺はニルギーシェだ!!!……早く荷物持て!馬車に乗るぞ!」

「はいはい、かしこまりました」

「バカにするな!」

「してませんしてません」

「くぅ~~~!!!!」

「ほらほら、二人とも!行きますよ!」



何だか無性にバカにされた感は否めないけれど、三人そろって、正門前に移動し、用意された馬車に乗り込んだ。手綱を握るのはリュンだ。



「二人とも喧嘩はしないでよ?」

「さあ、どうでしょうか。私はともかく……ニルギーシェ様が」

「クソ……っ!しないわよ!」

「ナルちゃん!それ、ナルちゃんでてるから」

「ああっ!すまない。」

「ククっ…………」

「んじゃあ、行きますか!セジブナル国へ」






評価有難うございます。精進いたします!

たくさんの方が読んでくださっているみたいで…なんとも恥ずかしいですね!

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