すべての始まりは
大きなアーモンド型の瞳に、栗色の艶のある綺麗な髪。これは私のもって生まれた良いところだといえるだろう。人は見た目から入ると言われているものだから、この見た目は外交に有利に働くと両親にも言われたものだ。…それは否定しない、王族に生まれ、容姿も悪くないとなれば恵まれていると言えるけれど…、この顔を持つのは私だけではないのだ。
「おい!ナルーシェ!」
「はい、何でしょうかお兄様。」
「3日後の公務だが…」
「嫌です!嫌!オイとか呼んでおいて、公務なんかでますか!」
「それは悪かった、謝るから3日後の公務に出てくれないか…!」
「また替え玉としてですか?」
「おいおい、そんな顔するなよ!替え玉ができるっていうのはいいことじゃないか!…俺とお前、顔が似てるのは幸せだな」
嘘を言え。不服そうな顔を浮かべてお兄様を睨むとじゃっと手を振り消えてしまったのだ。…この顔に生まれてよかったことは多いにあるけれど、それだけじゃないこともわかってほしい。
私とお兄様は、正真正銘の兄妹である。私たちを良く監察してない者にはパッと見では間違えることもあるだろう。…そうだ、それがいけない。…毎回毎回、お兄様と間違えられては剣の修行に巻き込まれたり、お兄様の就学の時間のはずなのに私が巻き込まれたり…散々なことばかりなのだ。何故ならば顔が似てるから。ほんの、数時間産まれるのが違った兄妹なのだ。
…それなのに、お兄様は生まれた時からお兄様でだった。この国の長の1番目の皇子としてトップになることは決まっていたし、それは望まれていたものであることに変わりはないし私もお兄様のことは好きだ。お兄様がこの国を守る皇子というなら…その変わりと言っては何なんだが私はお兄様の尻拭い担当と言うものだろうか。第一皇女ナルーシャという肩書きは所詮肩書きに過ぎないと言うわけである。
と、いっても何も不満ばかりがあるわけじゃない。お兄様と似た顔を持つことで得をしたこともある。例えば、お兄様の変わりに受けた講義のおかげで知識量は格段についたし、強い味方もできた。それがお兄様の変わりに受けた剣の稽古の相手だ。名をリュンと言うがこの男、お兄様そっくりの私を初見だというのに、私をナルーシャの方だと見抜いたのだ。それからと言うもの私がまた間違われ稽古に参加させられている時には私の相手にかって出てくれる剣士だ。腕もいいし、話もあう。そんな強い味方そうそういないと思うきっと、リュンが疑われる立場になったとしても私は疑うことをしない。これは王族の宿命と言えるが私達の住む場所は何があるかわからない。明日命を狙われるかもしれないし、口にいれるものには毒が入っているかもしれない、そんな風に幼いときから刷り込まれさらには権力争いに巻き込まれる両親を見ていれば自ずと皆を疑ってしまうのだ。居心地が悪いとまでは言わないけれど心休まる場所は少ない。お兄様のおかげで信頼できる者かと接触も図れるようになったと思える。
そんな剣士、リュンをはじめとしてその他にも少ないながら私の心許せる側人はいる。幼い頃からの世話人兼講師の、サナリヤ。それから執事のシュタ。どれも私の大切な人は達である。特に執事のシュタはほぼ毎日ように顔を合わせせ今じゃきっと家族よりも一緒に過ごす時間の長い人である。
とにかく今!私は、大変腹が立っているのだ。なんでいつもそんな風に強引に公務に行かされるのか…お兄様に押し付けられたのはほんの数分前だというのに、増え続けるお兄様の代わりの公務を思い出す度に私の腹の虫は居所をとても悪くしていたのであった。綺羅びやかにまとめられている廊下を皇女とは思えないほどに靴の底が当たるコツコツという足音を鳴らしながら歩く。もちろんすれ違う者はたくさんいたが私の形相をみるとみな声をかけてくることもない。そしてその足で重厚な扉の前に立ち背中の力から使うように体重をかけて扉の取っ手を押すとその反動にダァンッと煩い音がなり自室の扉が両方大きく開いた。
「…ナルーシェ様。私は何度、足音をたてない、扉を強く引かないと申しましたか。」
「あーはいはい。ねぇそれよりもシュタ!気持ち悪い!二人の時はその名で呼ばないで」
「それよりもッ!?…ったく、そんな子供みたいなことを言うな。…ナル。」
「だってー!」
「だってもへちまもないだろう。足音は鳴らして歩かない、それだけでも守れ」
「わかったよ…シュタ…」
「まあ、いいだろういい子だ。」
私が入ってすぐに背中に吹き荒れるブリザードを纏う執事のシュタのお小言を軽く受け流してベットに雪崩れ込む。身体を投げ出すとベットに深く抱かれているような気分であった。太陽の香りがしてすごく心地いいからベットに雪崩れ込む行為は大好きだ。まあ、本当だったらこんなことをしたらシュタにお召し物が汚れる~とか言われるだろうからシュタの目を盗んでやっていることだけど、流石に今日は注意されることはないらしい、きっとシュタは私のことをよく見てるから今回だけは目を瞑ってくれたようみたいだ。
シュタのついた大きなため息が聞こたあとシュタは私のベットの枕元の近くにあるシュタ専用の椅子に腰かけた。この椅子はシュタの定位置だ。腰をおとし恐らくこちらを見たのだろう。ゆっくりと赤子を撫でるようにベットに沈む私の後頭部を優しく撫でてくれるのだった。
「で、どうした?またあのバカ王子に公務でも押し付けられたか?」
「そうよ……今度は三日後よ三日後!信じられない。この国の皇子はお兄様だというのに!」
「まあ、そう言うな。三日後か…。」
「私にだって予定はあるのに…庭のお花だって摘みたいし、その日はサナリアの魔法についての講義だったのに。はあ…」
「あはは、そうだったか。まあ、魔法についてなら俺も少しは教えてあげられるだろうからそうへこむなへこむな。」
「シュタは優しいから嫌なの!」
「フラれたな」
「違うわよ!シュタ、この前だって私が少し薬草の成長速度をあげられただけで「今日はご馳走にしましょうね」とか言って誉め殺すじゃない!…もうそれは最早バカにしてるね!!」
「プククッ…バカになんてしてないけどな素直に受けとれないのか?魔法に関しては出来損ないのナルさんは」
「ちょっと…!?」
「怒るな怒るな…ククッ。ああ、そうだ、三日後の公務の事だが、三日後と言えばきっと隣国のパーティーじゃないか?」
「隣国?」
「そう。」
「ウチの友好同盟国の所?…セジブナル国かしら?」
「そうだ。流石、勉強しているだけあるな」
「まあね、お兄様のお陰でございますけど !…セジブナル国かあ、あそこは海からの商談を積極的に取り込んでいるから水産資源に豊んだところね。……私たちの国にはそれがない……それは勉強になるわね。」
「行ってきたらどうですか?まあ、半ば強制にバストレール国第一皇子、ニルギーシェ様として」
「嫌みなのね?嫌み!あんたのそれは絶対嫌み!」
「おや、そんなことはございませんよ?三日後は、私と、護衛としてリュンにも同行を頼みましょうか」
「はあ、そうしてくれる?」
「かしこまりました。」
なんで私がまたお兄様に成り代わらなくてはならないのか。いや、そもそも私が公務中お兄様は何をしているのか私は疑問で仕方がないのだった。
完全に自分の趣味全開です。お時間があるときにお読みください。早速、誤字でした…。そしてブクマありがとうございます!