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与えられた異能

 「皆さまにはこの世界に召喚された時点で特殊な異能を授かっているはずですわ。」


 「異能!?」


 佐藤が食いつく。本当、こいつはファンタジー世界が好きなんだな。俺も大概日本の高校生としての現実に絶望していたが、流石にファンタジー世界への憧れはなかったな。なんせ割と現実主義者なので。


 マリアの話は続く。


 「そう、異能ですわ。今私が手にしているのは特殊な紙ですわ。この紙にはその者が持つ異能が記されるようになっておりますの。」


 おぉ……


 と、どよめきがクラスメイトに広がる。

 誰でも異能という言葉には弱いのかもしれない。そして自分たちが知らないテクノロジー。


 というわけで、マリアの取り巻きのようなシナトラ教の信徒たちがその特殊な紙とやらを俺たちに手渡していく。


 「紙を手にしたら、こう唱えていただきたいですわ。「異能を示せ」と。」


 マリアの言葉に従い、皆「異能を示せ」と唱える。


 するとどうだろう。


 「紙に文字が浮かび上がってきた……」


 椎名は不思議そうにつぶやいた。


 「そう、それが皆さまに与えられた異能ですわ。異能は2文字で構成されておりますの。ただ、最初は大したことは行えませんわ。だから与えられた異能についてよく考え、よく使い、新たな可能性を見出し……そうして異能を成長させていくのですわ。」


 「異能を成長させるって、どういうことですか?」


 七星が質問した。


 「そうですわね。例えば私の異能は「神聖」というものですわ。言葉の意味は「尊くて、おかしがたいこと。清らかでけがれがないこと。」ということで、どのようなことができるのか分からないと思いますの。しかし、これがシナトラ教への穢れ無き信仰心とも言えると考えてからは、シナトラ教が得意とする光魔法や回復魔法が大幅に強化されましたの。」


 「えっと、つまり、言葉の額面通りに受け取らず、そこから何ができるかを想像・連想する……というような感じですか?」


 「はい。その通りですわ。ただ、想像・連想するだけではダメですわ。それが合っているかどうか練習を続けて確かめていかなければなりませんの。」


 「なるほど。異能が与えられてすぐに強力な力が得られる、というわけではないわけね。」


 「はい。そして、その異能の2文字は決して適当に与えられたものではありませんの。その人がこれまで培ってきた経験や素養・素質……そのようなものを勘案して神が授けられたものですわ。それを意識できるかどうかは人それぞれですけれど……皆さまの中には書かれた2文字を見て「ああ、なるほどな」と思われた方もいらっしゃると思いますわ。」


 なるほど、そういうことか……俺の紙に書かれた文字を見て薄々そんな気はしたのだが、合っていたようだ。


 俺の紙に書かれていた2文字……


 それは、


 【空気】


 だった。



 ◇◆◇



 「なぁ、クラス全員の異能を公表しないか?」


 そう提案してきたクラスメイトがいた。


 相馬 優斗(そうま ゆうと)という、金髪のイケメン。しかもサッカー部のレギュラーで校内でも人気の男子生徒。素行も外面はいい。


 「賛成~」

 「うん、それいいねっ!」


 それに賛同するのは相馬と同じサッカー部の面々。井川に葉山、それに萬屋。

 さらに女子の中でもサッカー部マネージャーの井口と剣先が賛同している。


 だが、特にそれに異論を挟む理由もないので、結局クラス全員で公表し合うことになった。


 「じゃあ、言い出しっぺの俺から言うね。俺の異能は【覇道】というものだ。どんな能力があるのかはこれからだな。」


 「相馬君……なんかすごい……」

 「うん、なんかこの世界の王になりそう……」


 井口と剣先の表情がうっとりとしているように見えるのは気のせいじゃないかもしれない。


 「俺は【統治】というものだった。魔王を倒すというには……何か役に立ちそうにない気がするんだ が……」


 委員長の相川は【統治】か。うん、どちらかというと政治家とかそっち系な気がする。


 「私は【閃光】……光っちゃう……のかな?」


 女委員長の七星は【閃光】。なんか光の速さで飛んでいきそうな異能だな。


 「私は【舞踏】だったよ。蝶のように舞い、蜂のように刺す! みたいな?」


 椎名は【舞踏】か。ちょっと戦闘ができそうなスキルだな。敵の攻撃を華麗に回避できそうだ。



 という感じで、一人ひとり異能を公表していく。


 「じゃあ、次は和田君だよ。」


 椎名が声をかけてくれた。そうか、ついに俺以外全員の異能が公表されたのか。


 「あ?ああ……おれは……【空気】だった。」

 「……」


 あれ? 場がシーンとしている。

 何かまずいことでも言っただろうか?


 「……ぷっ……ぷくく……」


 萬屋がものすごく笑いをこらえているのが見えた。


 「「「「「わはははははははははは」」」」」


 大爆笑が起きた。笑いを提供できた自分がちょっとうれしい……と思ったのも一瞬だった。


 「ホントお前にぴったりの2文字だな!」

 「空気の和田が空気になるとか……ごめん、ちょっと腹痛い」

 「そのまま消えてなくなるかもよ? あぁ~マジうける。」


 嘲笑というやつか。まぁ、こうなることは想像できたじゃないか。

 俺は急速に冷めていった。


 しかしなぁ……こんな奴らとこれから魔王とやらを倒しに一緒に旅をする? のか? ちょっと考えられない。別に異世界に来て楽しみ♪ とか思ったりはしないが、それでも異世界に来てまでこいつらと一緒にいなくちゃいけないとか……罰ゲームに思えてきた。



 ◇◆◇


 異能を与えられてから3日がたった。


 どうやら、クラスメイトたちはいくつかのグループに分かれてレベリングというか、異能の訓練を始めるらしい。


 俺を抜かせば29人だから、どう見ても素数。きれいに同じ数に割り切れない。

 にも関わらず、俺は誰からも声を掛けられなかった。


 ちょっと椎名あたりからは声を掛けられるんじゃないか? と期待したのだが……


 構成はこんな感じのようだ。


 相川グループ(学級委員長PT):男3 女2

 相馬グループ(サッカー部PT):男4 女2

 椎名グループ(スポーツ女子PT?):男1 女3

 森崎グループ(文学女子PT?):女5

 佐藤グループ(帰宅部PT):男3 女3

 久米島グループ(個性はPT?)男3


 そして俺


 だいたい、4~6で1つのPTを編成している。


 みな、ルマーニアン王国から提供された立派な装備に身を固めて王都周辺の森や草原で魔物を倒すんだそうだ。


 「この数日間でみんな変わったな。最初はあれほど戦ったりするのを嫌がっていたのに。」


 みな、何故かやる気にあふれていた。

 ただ、それはおそらく魔物を倒すとか魔王を倒すとか、そういう目的がためではなくて、異能という地球では得られなかった特殊な力を試してみたい一心なんだろうと思う。


 この数日間で異能を発展させた奴は結構いる。


 例えば、


 七尾は【閃光】の異能で矢を光速のスピードで放つことを覚えた。元々弓道部だったからか、狙いも確かだ。


 伏見という女子は【氷雪】の異能で相手を一瞬で凍らせることを覚えた。そういう意味で【氷雪】という異能は分りやすい。


 相馬の【覇道】は桁違いに優秀な異能だった。仲間の異能を使いこなす異能。まるでスキルテイク的な奴だ。「仲間」というのがミソではあるけども。


 それ以外にも、佐藤の【火炎】や能登(女)の【従魔】とかもいい異能だと思う。


 「それに引き換え、俺の【空気】ってやつは……」


 俺は一人途方に暮れていた。

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