冒険者も善良ではない
ロダン達が連れてこられた洞窟の最奥。そこにはロダン達を連れてきた5人の盗賊達とそのボスといわれる存在がいた。
男は金髪のやせ男で、銀縁の眼鏡をしている。ぱっと見、どこぞの貴族か商人のボンボン息子といわれても納得してしまう。
「へぇ。今日は大きな獲物がかかったかと思ったら……まさかこいつとはね。」
そうして、そのボスはロダン達3人を見やる。まだロダン達は気絶した状態で反応が無い。
「お知り合いですか?」
「知り合いというほどの知り合いでもないよ? でもレインの村で一緒に食事したことはあるかな。そうそう、ずいぶんと可愛い女の子を連れているものだと、軽く嫉妬したことはあったよ。」
「その可愛い女共もボスの物ですぜ?」
にやりと盗賊は笑う。
「とはいってもねぇ。僕にも僕の生活というか表の顔? ていうのがあるじゃない? だからやっぱりいつも通りかな。」
「へぇ。まぁいつもの通り王都の奴隷商人には連絡を入れてあります。」
「そうかい。ありがとう。」
狂牛盗賊団は手籠めにした人間を奴隷商人に売り払うことで高い利益を得ていた。勿論、その人間が持っていた私財もいただくわけだが、やはり奴隷商人に売り払う利益のほうが圧倒的にいい。
「ああ、そうだ。この3人を起こしてもらえる? せっかくだし、お別れの挨拶でもしておこうかな。」
「へい」
そうして盗賊達はロダン達3人の頬を叩く。
「おら! 起きろ!」
「ううっ……はっ! ここは?」
「私たちは確か捕まって……」
「ここはどこニャ?……」
覚醒した3人は周りが自分たちのいた森の中とは違うことにまず驚く。だが、瞬時に自分たちは盗賊に捕まったのだと悟った。
そして、そんな彼らを気持ちよく見下ろす盗賊達のボス。
「やぁ、まさか君たちが捕まるとは思ってもいなかったよ。気分はどうだい?」
「あなたは……ルイス!?」
エリーゼは驚いた。
何故なら、彼女がルイスと呼んだその青年はレインの村で活躍する唯一のB級冒険者だ。基本的にソロで活動し、その実力は確認されていないが、どのようなクエストでもこれまで難なく達成してきている優秀な冒険者といわれている。
冒険者ギルドとしても、いずれはAランクに到達するであろう人材と、高く評価していた。
「そう。そのルイスだよ? びっくりしたかい?」
ルイスは余裕の笑みを浮かべている。
「ルイスさん? よかった! すまないが俺たちのこの縄をほどいてくれないか? 次こそはそこにいる盗賊達を倒して見せる!」
ロダンは全く事情が分かっていないのか、ルイスに縄をほどくよう要求している。
だが、エリーゼとナタリーは薄々と状況が理解できてきた。
「ルイス……まさか、盗賊と繋がっているのかニャ?」
「なっ!? ナタリー? お前何を言って――――」
ロダンは何をバカなことを、という驚きの表情でナタリーを見たが、次のロイスの一言で訳が分からなくなった。
「そうだよ。」
さも当たり前のように認めるロイス。そこには罪悪感も悪びれる様子もない。
「……あなたの目的は何ですか?……」
エリーゼはキッとロイスをにらみつけて問いかける。
「目的ねぇ……強いて言うなら金のためかな? ほら、君たちのような健全な肉体を持つ人間なら高く売れるだろう? Bランク冒険者といってもね。冒険者としての報酬だけじゃあ心もとなくてね。それで盗賊団を部下において利益を稼いでもらっているわけさ。エリーゼとナタリーほど美しい女性ならさぞ高い値が付くだろうねぇ。」
「下衆な男ですね……」
エリーゼが吐き捨てるように言う。
「なっ、なぁ……ルイスさん? どうか俺たちを見逃してくれないか? 知らない仲じゃないだろう?」
ロダンがすがるような物言いでルイスに懇願するが、ルイスはそれを一蹴する。
「ははは。ロダン。僕と君たちの関係なんて、村でたまーに一緒に食事するくらいのものだろう? それに、僕がエリーゼやナタリーに話しかけたら君は凄い形相で僕をにらみつけていたじゃないか。まるで自分のオモチャがとられる子供みたいにさ。」
「そっ、それは……」
「別に構わないよ? だって君たち3人はそういう関係なんでしょ? 君だってそういう目的で彼女達を仲間に誘って所謂チーレム? のようなパーティーを作ったんだろうしね。理解はするよ。」
「何のことを言っているのか分かりませんね。ロダンと私はただの幼馴染です。それ以上でもそれ以下でもありません。」
「私もニャ。」
しかし、肝心のエリーゼとナタリーはロダンの心のうちは知らなかったのか、関係を否定する。
そしてルイスはそれを見て一層笑う。
「ははは。これは傑作だ。ロダン、どうやら君の片思いだったみたいだよ? あれれ? 君たちはそういう関係じゃなかったのか。」
「くっ……」
ロダンは悔しそうに押し黙った。
そんなロダンをしり目にルイスは話を続ける。
「まぁ、そんなことはどうでもいいさ。エリーゼとナタリー? 悪いが君たち二人は僕と盗賊達の相手をしてもらうよ? ロダンの前でね。本当は君たちがロダンのことを愛していたらもっと楽しい光景が見れたんだけど……それは残念。」
そういって、ルイスはベルトを外そうとしていた。既に目は欲望に血走っており、それを見た二人は顔が青ざめた。
「……私たちを凌辱すれば奴隷としての価値が下がりますよ?」
これはエリーゼの苦し紛れの脅しだ。
「ああ、それなら大丈夫だよ? ああ、そういえば君たちは僕の異能を知らないんだっけ?」
「……異能の持ち主だったのですか……」
「そうそう。それも【記憶】という異能だ。便利な能力でねぇ。触れた相手の記憶を改ざんすることができる。」
ルイスの異能、【記憶】。これは相当レアな異能だ。レアさ加減で言えば四郎の【空気】にも匹敵するだろう。そして同時に危険な異能でもある。人の記憶を操作する異能なんて、それを知られれば間違いなく危険人物とみなされる。ルイスがソロで活動を続けていた理由はそこにある。こんな異能、ひょいひょいと他人に見せられるものではない。
ルイスはこの異能を用いて、魔物は勿論のこと、人間すらも何匹も何人も殺してきた。方法は簡単だ。ただ記憶を消去してやればいい。それだけで相手は戦う術を失い、赤子の手をひねるかの如く簡単に殺すことができた。
「なっ!?」
「ニャンだってぇ?」
驚く二人をおいといて、ルイスの能力自慢話は続く。
「この異能のおかげで僕は敵なしさ。人間だって魔物だって記憶を完全に奪われればただの赤ん坊だからねぇ? 身動きが取れなくなった奴らを殺すのはたやすいことだ。奴隷候補に至っては、どんなに手荒なことをしても、その記憶を消し去り、代わりに私が命の恩人のような記憶を植え付ければ立ちどころに私に媚びる始末。笑っちゃうよね。」
ロダン達3人は青ざめた。一体この男は自分たちの記憶をどのように改ざんしようとしているのだろうか?……と。
「だから、君たちも散々凌辱した後でちゃんとその辛い記憶を消去してあげるよ。傷ついていたら治療もしてあげよう。なんたって大切な商品だ。値段が下がっちゃ僕としても本意ではないからね。あ、そうそう、ロダンとの記憶も消してあげるね? どうでもいいでしょ? こんなバカな男の記憶なんてさ。」
それを聞いて焦ったのはロダンだ。二人から自分の記憶が消える? そんなの許されることじゃない。
「ルイスさん! それだけは止めてくれ! 頼む!この通りだ!」
必死に懇願するロダンにルイスは冷ややかだ。
「ふふっ。それは、二人から自分の記憶が消されることで、二人を失うのが怖いからだよね? まったく、君はいつも自分のことばかりだね。奴隷になる時点で君の傍から離れていってしまうというのに。本当に君は周りが見えていない。」
「それは……」
図星をつかれたのか、ロダンは押し黙ってしまった。
「君たちを売ったら僕は王都に行く予定だよ。なぁに、王都でも僕は最強さ。これまで通り魔物を倒してAランク冒険者、いや、その先のSランク冒険者にもなれるね。そして気に入らない人間は片っ端から記憶をいじくってあげる。ああ、それならいずれ国王にもなれるかもしれないね。ふふふ。楽しみだ。」
事実、ルイスの能力ならそれも不可能ではないかもしれない。エリーゼはそう思った。
記憶を消去されるということは、それまで培ってきた戦闘技術をすべて奪われることと等しい。
いかに肉体や魔力を鍛えようとも、それに命令を下す脳が初期化のごとく記憶を消されては戦いようがない。身のこなしや魔法をすべて奪われて戦える人間なんていない。
だが、エリーゼはふと一人の少年の顔が脳裏をかすめた。
それは、瞬く間にFランクからDランクまで駆けあがった青年。
彼はどのような方法かは知らないが、自分たちを苦しめたオークたちをあっさりと無傷で殺し、自分たちを救ってくれた。
村では、いつもいないようでいる、という存在感希薄な存在。そんな彼をいつも目で追いかけているのだが中々捕捉できない。
そう、和田 四郎ならルイスを倒せるかもしれない――――
そして、どうやらそう覆ったのはエリーゼだけではなかったようだ。
「四郎だったらお前なんて目じゃないニャ。」
「四郎?……」
その言葉にルイスもピクリと眉を動かす。
「四郎は凄いやつニャ。私たちを襲ってきたオークだって無傷で倒したニャ。それに凄い勢いで冒険者ランクを上げているニャ。」
「ああ。彼のことは知っているよ? 生憎お話しする機会はなかったけどねぇ。でも、所詮低ランクの冒険者でしょ? 僕の敵じゃないねぇ。僕と剣を交えた瞬間に記憶を消されてサヨナラだよ。」
クククと笑うルイス。そこには強者としてのゆとりすらあった。
「大体、そんなに頼りにしてるんだったら彼も連れてこればよかったのに。そもそも、そこそこ名の知れた狂牛盗賊団の討伐にCランクの君たち3人で挑むなんて無謀もいいところだよ?」
ルイスはもっともな意見を口にした。そしてそれはエリーゼやナタリーさえも不思議に感じていたことだった。「何故3人で来たのか?」と言われれば、それはロダンの決断に他ならない。もっとも、エリーゼやナタリーもそこは強固に反対すべきだったが、彼女たちはロダンの決断に半ば押し切られた格好でここまで来た。
「それは……ロダン、どうしてですか? 最近のあなたは確かにおかしかった……」
「それは……」
エリーゼに問い詰められるロダンは視線を逸らした。そしてしどろもどろになり肝心の答えは返ってこなかった。
そんなロダンの心を見透かしたかのようにルイスが口を開いた。
「大方、その四郎というやつに嫉妬でもしていたんでしょ? 君の場合、彼女達二人に近づく男全てに警戒の目を向けていたからねぇ。というより、別に四郎じゃなくても他にも冒険者はいただろうから、彼らに声をかけるなりして人数揃えるのでもよかっただろうに。そうしなかったのは彼女達に対する独占欲みたいなもんだよね。あ~あ、見苦しいというかなんというか。自業自得だねぇ。」
ロダンはルイスの言葉を、頭を左右に振るいながら払いのけるものの、反論の言葉は出ない。
そして、それが逆にエリーゼやナタリーからすれば真実であると告げるようなものだった。
「ロダン……」
エリーゼとナタリーの哀れみとも蔑みともとれる目がロダンを見つめた。私たちはそんなくだらない理由でこの苦境にさらされているのか? と。
「あっはっはっ。まぁ、話はこれくらいにしておこうよ? どうせすぐにお互いのことなんて忘れて新しい人生が始まるわけだからさ? さて……それじゃあ、せっかくだからまず僕からいただくとしようかねぇ?」
ルイスは邪な視線をエリーゼとナタリーに向けると、ゆっくりと二人に近づいていく。
「やぁ……こっ、来ないで……」
「こんなのってないニャ……」
二人は何とか自由を得ようともがくが、彼女達の腕を縛る縄は強固で解ける気配すらない。
「クッ……エリーゼ……ナタリー……」
ロダンの悲哀とも懇願ともとれる言葉も空しく、ルイスは二人に近寄っていく。
そんな中、部屋に見張りをしている盗賊の声が鳴り響いた。
「てっ、敵襲~!!」
ルイスは勿論のこと、盗賊達は瞬時に扉に向けて驚きの表情を向けた。




