第5話
皆さん、久し振りの投稿です!
宿のマスターが「そろそろ夜飯の準備の時間だ」と言い残してカウンターの奥に消えたので、俺達は3階の自分達の部屋に向かった。
「暇だ...」
また何もする事が無い。地球に居た頃ならこういう時にゲームでも出来たのだが、異世界に電波なんて物は無い。一応オフラインでも出来るゲームはあるが、まだマリアにスマホを見せるつもりは無い。なので、とにかく暇なのだ。
「あぁ...そいえばマリア、なんか夜営道具を買ったって言ってたけど、どんな奴なんだ?」
共通の話題など知らないので、余り興味は無かったが異世界の夜営道具の事を聞いてみた。
「はい。まずはーー」
マリアは話しながら夜営道具をリュックから取り出してくれた。テント、ランタン、毛布等、どれも普通だ。本格的に夜営するなら他にも道具が必用そうだが、これはこれで持ち物を最低限にするという意味で良いと思う。それとも他の道具は俺の判断に任せるという事なのだろうか?。
「ーー毛布ですが、なるべく肌触りの良いものを選んだつもりですが、ご不満であれば...」
「いや、これで良いよ」
「......」
話を終わらせてしまった...だって仕方がないだろ?学校では誰かと話す事なんて殆どなかったし、話すとしても先生や学級委員とかの仕事で話してくる奴と最低限だけだ。親ともすれ違いで話す事は少なく、外出も殆どしないでゲームしてたんだ。そんな俺に何を望む?この結果は必然だ。
「......」
「......」
とはいえ何も話さないのは気まずい。何か話題を考えないといけない。話題...話題...。
少し考えてみたが話題が無い。まあ当たり前だ。異世界人と地球人、更に身分も違う。これでは文字通り話にならない。何か解決方は無いだろうか?。
「なあ、マリア...」
解決方はただ1つ、話す事だ。これはやった事は無いが、ギャルゲーみたいな感じだ。とにかく話したりイベントこなして好感度を上げ、打ち解ければ良いのだ。難易度は鬼だが...。
「なんでしょうか?」
「その、だな......あぁ、隣街のキルエツに着いたら何かやりたい事とか見たい物はあるか?」
「いえ、とくには...」
不味い、話が終わるっ!。
「本当か?例えば...」
ここで俺はミスを犯した。この世界の娯楽なんて全く知らないのだ。あぁ...ボロが出てしまった。
「......」
「ご主人様?」
「もういいや...マリア、俺の秘密を教える。俺は異界から召喚された勇者だ」
なんかもう面倒なので、俺はマリアに〝大体〟の事を話した。具体的には少し...そう、少し美化した。召喚され魔族と戦ったが、1人で広範囲の街を守りきる事は出来ず国は滅びた、という事にした。
因みに俺は戦いで気絶してしまい、気付いた時には崩れた城の瓦礫の中に居た、という設定にした。
「ご主人様が...あの勇者様なのですか?」
「あのが、どの勇者かは知らないけど、俺は勇者だよ...証拠になる物が無いけど...」
「...信じていない訳ではありませんが、今度どこかで鑑定の水晶を使ってみてはどうです?」
鑑定の水晶?ゲームみたいなステータスを見れるアイテムかな?自分でも俺みたいな奴が本当に勇者なのか怪しいし見てみたいな。
「ああ、是非やりたいけど、鑑定の水晶って何処にあるんだ?国の管轄か?」
「はい。鑑定の水晶は国が運営する冒険者ギルド、軍隊、騎士団、役所等にしかありません」
じゃあ駄目だ。そんな所で鑑定なんてしたら俺が勇者だと宣言する様なものだ。勇者宣言は切り札。実際に国を滅ぼした実績を持つ魔族が居る今、その魔族に対抗出来るだろう勇者はどの国だって欲しい筈だ。俺は1番強い国に着くのだ。
「国の管轄なら使えない、俺は勇者だと公表したくはないからな」
「左様ですか...」
特に理由は聞かないらしい。
「ああ。と、そろそろ飯の時間だな、行くか」
スマホは見てないので正確な時間は分からないが、たぶんそろそろ7時だと思うので、俺達はリュックを部屋に置いたまま1階へ向かった。
*
「おう、お前らか、飯なら出来てるぞ」
階段を降りると俺達に気付いたマスターが手招きしていたので、俺はマリアに軽く頷くとマリアも頷き返し、なんとなく〝カウンター席に座る~〟という事を共有すると一緒にカウンター席に向かった。
あと、それとは別に店の中には冒険者と思われる武装した者が沢山居た。集団のパーティーや1人のソロ、人間もそれ以外も様々な者が居り、目的は魔族だろうか?それとも街の防衛で雇われているのか?まあ、冒険者の目的なんてどうでも良いのだが。
「マスター、夜飯のメニューは?」
「ああ、今日はお前が払った金貨のお陰で、肉がゴロゴロ入ったシチューと柔らかい白パンだ。ちょっと待ってろ、いま持ってきてやる」
冒険者は耳が良いのだろう。俺とマスターの会話を聞いて、いつもより豪華な飯の理由が俺だと分かると歓声が上がった。「いいぞ!兄ちゃん!」とか「ありがとよ!」等と騒ぎ始めた。そのとき俺は単純にうるさいと思ったが、一応振り向かずに適当に手を振って答えておいた。
そして暫く待つとマスターが両手にトレーを乗せて料理を持ってきた。全く揺れないので普通に凄いと思った。俺には真似できない。
「へぇ、美味そうじゃん」
「美味そう、じゃなくて美味いんだよ。まずは一口食ってみろ」
言われた通りシチューを一口食うと美味かった。なんの肉かも、なんの野菜かも分からないが、見た目は俺の知るシチューと同じ、それは美味かった。
「確かに美味しいだな。マリアも食えよ」
「はい。いただきます...」
いただきますって言った。何故異世界に日本の文化が?と思ったが、きっと俺以外にも召喚された奴が居る可能性を考えると1人ぐらい日本人が紛れていれも不思議ではないのだろう。たぶん...。
そして特に何事もなく食事は終わり部屋に戻ろうとすると外から鐘を鳴らす音が聞こえてきた。2階に上がりかけてた俺達は階段に佇んで周りの会話から情報を集めようと聞き耳を立てていると、魔族関連の話が聞こえた。戦争が始まるのか?。
「ご主人様...」
「あぁ、そうだな...とりあえず荷物だ」
俺は冷静だ。だって勇者が魔王でもなく魔族に倒されるイメージが湧かないのだ。マリアの命以外の事は特に何も心配はしていない。
*
とりあえず部屋まで戻り荷物を取ると俺達は直ぐに1階に戻った。だが冒険者達は既に居らずマスターだけが残っていた。
「なあマスター、外で何が起きてるんだ?」
「あぁ...とうとうこの街にも魔族が来たらしい」
やはり魔族らしい。
「...じゃあ、俺達は行くけどマスターは逃げなくても良いのか?前にも聞いたし、お節介かもしれないけど逃げた方が死ぬより良いんじゃないか?」
一応お世話になった訳だし忠告ぐらいはしようと思う。俺だって鬼ではない。
「そうだな...死、終わりより良いかもしれないが待っているのは地獄だろう...」
まあそうだよな...でも見殺しにするのは...。
「......」
「俺の事は良いんだよ、お前は何も悪くないからな...さっさと行っちまえ」
「マスター!」
「んっ!?なっ、なんだよ?」
「俺達の料理人にならないか?」
これが最善だと俺は思った。たぶんマリアも料理はできそうだが危ない所には連れていけない。なので俺が冒険者になった時に荷物持ち兼、料理人として連れていけるだろう。1人ぐらいは守れる自信はある。勿論嫌なら新しい奴隷でも買うが...。
「俺がお前の料理人にか?金はある様だが大丈夫なのか?無事逃げられるかも分からないんだぞ?」
ここは切り札を使う。
「俺は勇者だ、たぶん問題ない」
効果は...
「お前が勇者?そんなのあり得ーー」
その時、ドゴオォォンッ!と大きな音を立てて天井が破壊され何かが降ってきた。よく見ると魔族だ。もう戦闘が始まっていたのは驚きだが、きっと対空砲火でも浴びて堕ちてきたのだろう。ローブ姿の服はズタズタだが肌には傷1つ無いのも凄い。
因みに天井から降ってきたと表現したが、正確には2階の壁から斜めに建物を破壊して侵入してきた。天井からは外の光が射し込んでいる。固すぎだろ。
「くっ、おのれぇ...」
魔族が立ち上がろうとしている。だが俺は態々フェアな対決なんてしない。俺は立ち上がろうとしている魔族に駆け寄ると躊躇なく全力で頭部を床に踏みつけると、その衝撃で床に穴が開き、魔族の頭が埋まった。が魔族は生きている。
「タフだな...」
普通気絶ぐらいしても良いと思う。
「ぐっ、貴様...」
「うるせえよ」
普通に剣を抜いて力業で切り飛ばした。いや正確には切り飛ばしちゃっただ。魔族は思ったより弱かった。でも魔法特化型の種族、と考えれば仕方のない事だったのかもしれない。種族名に魔が付くぐらいだから、きっとそうだろ。
「はぁ...で?俺が勇者だって納得できた?」
「あっ、ああ、わかった」
「はい...」
俺が勇者だとマスターと、次いでにマリアも納得できた様だ。この魔族には感謝だな。
そしてこの後マスターに持っていく物を準備する様に指示を出し、俺は魔族にも魔石があるのか解体してみようかと思ったが、流石に殆ど人間と変わらない人形生物を解体するのはなぁ...と思い止まり、マリアと黙って待つ事にした。
*
「おい、準備できたぞ」
「ん?思ったより少ないんだな」
マスターの荷物は少なかった。まあ少ないといってもリュックは背負ってるし腰にはポーチが付いているが、なんかもっとこう...1人じゃ持てないぐらい凄い量の荷物を持ってくるものだと思っていた。
「あ?あぁ、お前は知らないのか。荷物ならこのアイテムポーチっていう魔道具に入ってる」
へぇ、良いなあれ、俺も欲しいわ。
説明なんて要らないだろうが、あれは小説やゲームでよく見る〝物が沢山入るポーチ〟なのだろう。
「それ良いな、どのぐらい物が入るんだ?」
「あぁ...そうだな...大体俺が背負ってるリュック5個分ぐらいか?まあ、けっこう入るぞ。あと因みにだが、ポーチの口より大きな物は入らないから、余り大きな物が入らないのが難点だな」
いや、それでも超有能だろ。
「ご主人様、そろそろ」
「ん?あぁ」
早く逃げましょうって事だろう。
「ふぅ...じゃあ行くか」
俺達は宿から外に出た。うん、戦場だ。しかも今回は魔族だけではなく魔物も参戦してる様だ。目の前で冒険者がオーガと思われる赤鬼みたいな奴と戦っている。が、俺達は無視して街の外を目指す。
「おい!助けなくて良いのか?」
「そんな暇ねぇよ!それに、その間お前ら守りきれるかわかんねぇだろ!増援来たらどうする!」
俺だって馬鹿ではない...いや、うん赤点ギリギリの馬鹿だけどアホでは無い。流石の勇者様でも囲まれたら仲間を守るのは無理だ。なので、あの冒険者には囮になってもらう。救う気など無い。
「おっ!門が見えたぞ!あぁ...」
門は見えた。次いでに大量の魔物も。
「おい...どうするんだ?」
「...俺が倒してくるしか無いだろ」
「...だが、あの量の魔物を倒せるのか?」
「なんとかなるだろ、俺は勇者だぞ?」
そう、俺は勇者だ。対魔王兵器がたかがゴブリンやオーガの集団に負ける筈が無いのだ。きっとあの程度なら腕伸ばしてぐるぐる回ってるだけでミンチにできるだろう。そんな事しないが...。
「じゃあ行ってくる。その辺に隠れててくれ」
「ご主人様...お気をつけて」
「おう!」
*
俺は剣を両手に持ち走り出した。勇者補正のお陰か凄まじいスピードで走れるが、その速さをもってしても先手は取れず、先に気付いた魔物側から魔法が飛んできた。勿論避けたが、そんな事はどうでも良く、ゴブリンが魔法を撃った事に驚いた。
「ふふっ、頭悪そうなのに魔法使えんのかよ」
それは恐らく俺にも使えるという事だ。ゴブリンが出来るのだ、俺にも出来る筈。
という考えの元、俺は魔力をどんどん放出して、よくやっていたファンタジー系のネトゲに出てきた魔法を唱えてみる事にした。どうせ魔法なんて適当に魔力出して詠唱すれば使えんだろ、たぶん。
「試してみるか...えっと、爆ぜよ炎!我が魔力を礎にし、その力を解きはにゃ......噛んじゃった...あぁ、いいや!エクスプロージョンッ!!」
ドバァァァン!とゲームの様な魔法陣やキラキラしたエフェクト等は無く、普通に大爆発した。まあ、たぶんその原因は俺が爆発だけをイメージしたからかもしれない。
そして上手く詠唱出来なかったが魔法は使えた。噛んでも魔法が使えるという事は、この世界の魔法の発動条件に詠唱なんて必要無く、イメージと魔力で魔法は使えるということだろう。いや、詠唱にもなんらかの意味はあってゲームの詠唱が無意味なだけかもしれないが...まあ、少なくとも俺にも使えるという事だけは分かった。
「魔法強すぎ...あの門も邪魔だし壊すか...」
魔物は消えたが街から出るには門が邪魔だ。壊す他にも開ける方法はあったのかもしれないが、既に門は大破して変形してしまっており、直すか壊すしか方法が無いのだ。勿論直し方なんて知らないし直すつもりも無いが...。
「...まあ良いや。とりあえず魔力を出し...ん?いや、実験としてさっきより魔力を増やして威力の増減も調べるか......ふぅ...エクスプロージョン!」
十分に魔力を貯めた後、俺は必要なのか良く分からない詠唱、エクスプロージョンッ!をなんとなく気分で唱えると先程より大きな爆発が起こった。
その結果、門を街の外に吹き飛ばした。それだけなら良かったのだが街からの出口が瓦礫で塞がった。いや、正確には塞がっはなく登れば良いのだが大きな門が収まる高さ×分厚い壁の瓦礫が崩れたのだ、けっこう高い。
「......もう1っ発だな」
俺は追加でエクスプロージョンを唱え、瓦礫の大部分を吹き飛ばすと、隠れているマリアとマスターを呼んでこっそりと逃げる様に街を後にした。まあ大爆発を起こしたしこっそりも糞も無いのだが...。
感想とか待ってま~す
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