第4話
マリアを買って奴隷商を出た後、最初は適当に歩いたのだが特に行きたい所も無かったので、まずは宿に2人部屋を用意してもらう為に向かって行った。
「......」
「......」
気まずい。何も話す事が無い。マリアも同じ気持ちなのか落ち着かずそわそわしている。それはそれで可愛い、この空気も良いかもしれない。
「ご主人様、どちらに向かわれているので?」
マリアが先手を切った。俺も乗ってやる。
「あぁ、俺が泊まってる宿に向かってるんだよ、1人部屋じゃマリアが寝る場所が無いから2人部屋を用意しないといけないからな」
「左様ですか...ですが奴隷の私など床でも...」
奴隷らしい事を言うんだな、躾られてるのか?。
「いや大丈夫だ、金ならあるし問題ない」
「分かりました...」
納得してない様だが別に良い。時間を掛けて考えを変えさせて行けば良いのだ、具体的には俺が更に金持ちになって普段の出費など些細な物と思わせれば良い。仕事しないとなぁ...。
暫くして宿に到着した。扉を開け、俺とマリアは中に入るとカウンターへ進んで行った。
「ん?お前か...そいつは奴隷か?」
「へぇ、よく分かりましたね」
「その首輪みれば誰だって分かる。でっ?用件は1部屋から2人部屋にしてくれか?」
「はい、そうですけど出来ますか?追加料金でも日数減らして2人部屋でも何でも良いですが...」
「...店としては追加料金が嬉しいが、あんたは金貨を払ったお得意さんだ。それに50日なんてそんなに宿には居ないだろ?サービスだ、25日2人部屋、他の条件は同じにしてやるよ。ほら、これが鍵だ」
マスター怖そうだったけど意外と優しいらしい。
「ありがとうございます」
「ふっ、部屋は303号室だ、元の部屋に荷物あるなら片付けて前の鍵は後で持ってこい。あとランタンはそのまま使え。最後に夜飯は7時だ」
「はい、分かりました」
このあと俺達は前の部屋に行って置いておいたランタンを回収すると新しい303号室に行き、ランタンを置くと特に何もせずにマスターの所に戻り、前の鍵を渡すと暇なので宿を出た。
*
「暇だな」
「はい、ご主人様」
俺達は暇だった。とりあえず夜飯の7時まで暇だ。こっそりスマホを確認すると今は午後4時だ。3時間何もせずに宿に居ても別に良いのだが何もする事が無い、それにお通夜みたいになる。
「ん?なんだあれ?」
武装した集団が出入りする店を見付けた。冒険者ギルドという奴だろうか?武装はバラバラで武器も様々だ。恐らく兵士ではないだろう。
「ご主人様、あれは冒険者です」
予想通りだった様だ。俺も冒険者になりたいとは思うが、まだ今後を考えていない状況で冒険者になるのは間違っているだろう。
「今後か...」
「何かごさいましたか?」
「いや、何でもない」
一応宿という拠点も手に入れた事だし、そろそろ今後も考えた方が良いかもしれない。勇者補整、神の加護があれば力技で何でも出来るだろう。1国の王、貴族、最高位冒険者、勇者、そして魔王まで、全て気分次第で出来る。何でもありだ。
しかし王や貴族は責任が面倒くさそうだし、冒険者と勇者は期待されるのが嫌だ、最後に魔王だが別にやりたいと思わない。でも異世界に来ていきなりスローライフを送りたいとも思わないし、何か大きな事をしたい。それが思い付かないが...。
「マリア、なんかやりたい事とかあるか?」
「私ですか?いえ、特に...」
遠慮しているのか、本当に無いのか。真意は不明だがマリアにやりたい事は無いらしい。
「決めた、服を買いに行こう」
とっさに思い付いた。デートとかって服買ったり美味しい物とか食べたりしそうだな~と思ったからだ。あっ、いや、別にそういう風に意識してるとかじゃないしっ!年齢=彼女居ない歴だからって...それにちゃんとした理由だってあって、マリアの服装は奴隷っぽい。別に汚い訳ではないが、恐らく逃げた時に直ぐ奴隷だと分かる様にしていたのだろう。なので新しい服が必用だと思ったのだ。
「服...ですか?」
「ああ、俺とマリアの分をな」
*
マリアに看板の文字を読んでもらい、とりあえず服屋には到着した。あの後マリアとひと悶着あったが「主人は服も買えないのか?と思われるだろ?」という理由でなんとかマリアを納得させた。
「じゃあ入ろっか」(デート意識中)
「はい...」
店に入ると大量の服が目に入った。殆どの物が木製のハンガーに掛けられ所狭しと並べられ、右側が女物、左側が男物に分けられ陳列されていていた。
「好きな服選んで良いからな?」
「分かりました...」
俺達は自然と左右に別れて服を物色し始めた。
「へぇ、なんか思った通りだな」
なんと言うか村人みたいな奴しか無い。まあ別に何でもかまわないのだが、マリアにダサいとか思われたくはない。ファッションなんて全く分からないが、ここは本気で選ぶべきだろう。
「ザ、村人だな...」
結果として俺にファッションセンスが無い事がわかった。でも仕方がない、中学時代は学校のジャージで、高校は友達も居ないし家でゲームするだけの日々だったから、毎日寝間着みたいな服装をしていたのだ。俺には無理があったんだ...。
そして村人の中でも地味な服装が完成した。これなら常に制服着ていた方が良い。
「酷いな...」
もっとカッコいいのを着たい!異世界なんだしあるだろ、ウィザードみたいな漆黒のローブとかアサシンなんとかみたいな奴!コスプレだ!コスプレ。
だがそんな物は売ってはいなかった。まあ普通の店でそんな物は取り扱ってはいないだろうが...。
「はぁ...俺のは今度だな、マリアは...」
反対側にいるマリアは女の子してた。そう、奴隷ではなく普通の女の子の様に服を楽しそうに選んでいる。可愛い。どんな服を選んだのだろうか?。
「どうだ?そっちは決まったか?」
「あっ!ご主人様、はい一応は...」
マリアが持ってる服は...なんというか機動性重視?の様なズボンと上着だった。さっきまで楽しそうに選んでいたのは何だったんだ?。
「ん?なんだ...これが欲しかったのか?」
ハンガーラックに掛かった服の列に飛び出してる服が数着あった。恐らくマリアが戻したのだろう。遠慮しなくて良いのに...。
「はい...その、すみません...」
「いや、別に謝る様な事じゃないよ。それにこれの方が可愛いじゃん、黒のワンピース」
「......」
何処まで躾られてるんだか...。
「じゃあ、こうしよう。マリアに大銀貨1枚を渡すから好きな服を買ってこい、これは命令だ」
そうだ、最初から命令すれば良かったんだ。
「分かりました...」
命令には逆らえない様だ。俺はリュックから大銀貨を取り出してマリアに渡した。
「ありがとうございます...」
「ああ、俺は宿で待ってるから好きな店を回ってくれ。その金はもうマリアの物だから遠慮なく使え、あと次いでにリュックとかブーツも買っておけ、近い内にこの街を出る予定だからな」
「そうなのですか?」
「ああ、ある程度の情報を集めたら行く」
いま決めた。特に理由は無いが、強いて言うなら魔族から離れる為だろうか?あとは留まっても良いことが無さそうとかだな。残っても暇だし。
そのあと俺は7時までには宿に戻る様にマリアに伝えると、1人で先に宿に戻って行った。
*
宿に戻ると部屋には行かずに酒場のカウンターに座った。理由はマスターから種々情報を仕入れる為で、酒を飲みに来た訳ではない。
「マスター、情報を売ってくれないか?」
「直球だな...何が知りたい?」
「魔族の情報とか、かな?」
「いや、そんなの知らねぇよ...」
「はぁ?」
知らない...だと?。駄目じゃん。
「じゃあ...宝石とかアクセサリーなんかを高く買い取ってくれる店とかは?」
「それなら知ってるが、隣街まで行かないとやってねえぜ。金持ちは逃げちまったからな」
まあ、いつ魔族に襲われるか分からない所だ。誰が逃げようが仕方がない事だろ。
「マスターは逃げなくても良いの?」
「あっ?俺には店があるからな...この店を捨てて再出発するほどの蓄えはねえよ」
「何事も無いと良いですけどね...」
別に俺には関係ない話だ。相手はだだの優しいおっさんだ。これが美少女なら手を貸しただろうが。
「...それで?買い取ってくれる店の話だけど、何処の街にあります?ちょうど地図があるんで教えてくれませんか?報酬は銀貨1枚で」
俺はリュックを開けて、地図、ボールペン、ノートの3品と銀貨を全て取り出した。
「お前、変わったもん持ってんだな」
「ああ、これはボールペンっていう物ですよ」
やっぱり珍しいのだろうか?。
「へぇ...まあ良い」
興味は無いらしい...。
「...じゃあ、お願いします」
俺は銀貨をマスターに渡すと情報収集を始めた。まずは宝石等を買い取ってくれる店、これはこの街から東に5日ぐらいの距離にある〝キルエツという街〟にあるらしい。そして銀貨を追加で払うと、次いでに俺が持ってる地図の日本語化も行った。
読み書きが出来るマリアを待てば良かったのだろうが、金ならあるし良いか?という気持ちでやった。
その結果として分かった事は、地図には3個の国が書き込まれており、まず今いる国がコーネリア王国、左がルバイン王国で、2か国の下に昨日魔族に滅ぼされたリタリオ王国があり、この3か国の周りには海がある。そして地図はそこで途切れているがコーネリアとルバインの上には更に陸が続き、大国のハイドニア帝国があるらしい。
「これで終わりか?他にも知りたい事があれば教えるぞ?まあ有料だがな」
「お得意さんにサービスは無いのかよ?」
「もうやっただろ?それに、お得意さんってのは金を落とすからお得意さんって呼ばれるんだよ」
「それ、ただのカモだろ...」
マスターあんまり優しくないらしい。
そのあと暫くどうでもいい話をしていると、パンパンのリュックを持った、衣装チェンジしたマリアが戻って来た。まず目に入ったのは俺も欲しいと思った白い半袖のYシャツの様な奴、後で何処で売ってるか聞こう。次に黒とグレーのロングスカートだ、2箇所が左右均等に切れておりロングスカートでありながら機動性も重視している。そしてその切れ目から覗く黒のニーソックスと、軍隊が履いてそうな黒いブーツ。最後にコルセット?という奴だろうか?黒い革製のコルセットは服と同化して目立たないが仕事はきっちりこなし、ウエストを引き締め、追加効果で胸が強調されている。小さ過ぎず、大き過ぎず、ちょうどいいサイズの胸だ。ふつくしい。
「只今戻りました、ご主人様」
「ああ、お帰り、いろいろ買ったみたいだな」
「はい、近い内に街を出るとの事ですので、勝手ながら旅支度も少し進めておきました」
「そうか、俺も今度買わないといけないから、その時は案内してくれ」
「畏まりました、ご主人様」
旅支度か...何を買うかな、と考えているとマスターが「そろそろ夜飯の準備の時間だ」と言い残してカウンターの奥に消えていったので、俺達は夜飯が出来るまで自分達の部屋に居る事にした。