その67 桎梏
まあ、外に出るのは避けたいんだが、ここの現状の把握のためにもさっき倒したあいつはどのように仕留めたとしても殺した後、直接出ていって体を確認しなくてはならない。室内に引きこもりるのは無理そうだ。
風を起こしてやれば雨を浴びることもないはずだから、大丈夫だろ。外に出ただけで何らかの影響を受けるのは、さすがに笑えない。
んじゃ、風を発生させて、と。建物の外に出る。何も感じない。そこで数秒立ち止まってみる。・・・大丈夫か。じゃあ、しっかり止めを刺しましょうかね。
そして、武器を振り上げて・・・
ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・
んぉ?何だこの音。まあ明らかに下から来てるからあの半死体なんだろうが。うーんうっすらと光ってるな。そして光はだんだんと強くなっていって半死体の体の細部が見えなくなっていく。最終的にはシルエットのようになっていった。
そして光が収まっていって、最後に残ったのは、人間の男だった。裸の。誰得やねん。
とりま回収。屋内に連れ込む。それにしても運んでる間に気が付いたんだが、体の外傷が一切消え去ってる。不思議なもんだ。
ほかのみんなが非常に不思議そうな顔をしているが、まったくの同感だ。まあ今は適当な布をかぶせて、起きるまでカット。
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「ん、ここは?私は何を?」
「ここは漁村シーベルの中のどこぞのぼろ小屋。お前はさっきまで獣の姿をしていて俺たちを襲っていた。」
「ファッ!?・・・・・・それは、すみませんでした。でも、記憶が全くないんです。ずっと昔に自分の意識が完全に消失して自分が世界とともに動かなくなって静止して。でも最近になって体がまた動き出したような、そんな感じがするんです。」
「ふむ、何も覚えてないようだな。ならば質問に答えてくれ。1なる魔王が世界中を恐怖に陥れたのはいつだ?」
「大体500年前です。とてつもない大戦だったと聞いています。このシーベルもその時の復興事業の一環として作られた村が漁業で発展したものらしいです。」
「セレネ様、以前対戦は数千年前にあったと言っていましたが、具体的にはいつごろかわかりますか?」
「大体3500年前じゃな。つまりこの漁村は3000年の間閉ざされておったことになるの。我が眠っておった間に世界は変わったものじゃな。」
「そうですね。俺も来たばかりであまり言えませんが。では、次の質問だ。この漁村で、何が起こった?」
「どこから話しましょうか、ある日、太陽が昇らず、月が空にとどまり続けたのです。それ以降、ずっと雨が降り続け、人々はおかしくなり、私もその時に意識を失ったようです。最後まで、この村に住んでいた神父が正気を失わず戦い続けていた記憶があります。申し訳ないことをしてしまいました・・・それにしても、未だに雨は降り続けているのですね。浴びないように気を付けてください。あれを浴びた人は忽ち正気を失ってしまいます。」
「了解だ。まあ知ってることは大体あの語り部と一緒だな。当の語り部はさっきから何も喋らず動かずになってしまったが。新しい情報は神父のことぐらいか。では、最後の質問だ。お前が意識を失った時点での数でいい、この漁村には何人いた?そして、太陽が昇らず雨が降り続けた範囲は大体どこまでだ?」
「残ったのは大体5人くらいですね。みんな逃げようと必死で村を続々と去って行ってしまいましたから。そして範囲ですが、この村の上空のみのようです。隣町やそこに至る街路は問題なかったという話は聞きましたから。」
「あと約4人か。まあ殺しても人間として復活するだろうから、気楽に殺していこうか。」
「殺すのは構いません。手段は問わないのでどうか私の村の仲間をこの狂気の雨からお救いください。我々だって自ら獣となってあなたを襲っているわけではないのです。すべては月の涙に強制的にさせられていること。どうか、よろしくお願いします。」