その6 ご褒美
『俺はここまで、ここから先はお前1人で行け。この巣で生まれた赤ん坊には女王より幾つかのものが授けられる。お前も何か貰ってこい。何、緊張することはない。他の巣では違うこともあるらしいがうちでは女王に会うのに礼儀も作法も必要ない。俺はここで待ってるから終わったら声を掛けてくれ。じゃあ、行ってこい。』
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ガズラを入口のところに置いて奥に進んでいく。そして、クイーンから10メートルといったところで一回立ち止まって、改めてクイーンの全貌を眺めてみる。
改めてみるとそのとてつもない巨大さを実感する。
あいつをみてくれ、どう思う?
・・・すごく・・・大きいです・・・。
なんてやりとりが眼に浮かぶ。
まあ、冗談はさておき、どうやって会話すればいいんだ?俺念話とかそういうスキル持ってないんだが。もしかして普通に話しかけていい感じ?ガズラの方をチラッとみてみると腕を組んで目を反らして完全に知らんぷりの姿勢だ。自分で何とかしろって事だろう。
そして、目を再びクイーンに戻すととんでもないものを目撃してしまった。なんとクイーンのてっぺんについてた人間の体のようなものが下のスライム部分から出た触手のようなものに支えられて下まで降りてきたのだ。
上にいたときは上半身だけ突き出てて、下半身はスライム部分に溶け込んでるような見た目だったんだが、出てくるにつれてなかったはずの下半身がスライム部分で生成されていったように見えた。出てきた後のクイーンも体は半透明で薄い青色だ。身長は・・・1メートル90くらいはありそうだな。
『あなたがカイですか?』
『え・・・あ、はい。』
『話はあなたの父親からある程度聞いているかもしれませんが私からも改めて説明します。質問は私がいいと言った時に纏めてお願いしますね。』
『では先ずこの国のことから話しましょう。私も先代のクイーンからクイーンの座を譲り受けて2年程度しか経っていないので完全に把握しているわけではないのですが、わかっている分だけ話しましょう。ここは、キメラの国とでも呼びましょうか。正式名称はありません。私は先ほども言った通り、このキメラの国の女王です。この国はある島の地下に造られています。元々は地上も我々の生活領域だったのですが、地上にとある龍が現れてから、我々はなすすべ無くその龍に地下に追いやられてしまいました。幸い、洞窟の入り口は狭く、その龍は入って来ることができず、何とか振り切ることができたそうです。掘れば入ってこれるのでしょうけどなぜか入ってこようとしないので、おそらくここは安全でしょう。しかし、地上にはまだその龍がおり、未だにここから出ることは叶いません。これが、およそ15年前の話です。ここまでで質問はありませんか?』
『ああ。まず、地表部分と地下の生活圏の面積はそれぞれどれくらい?』
『地中の生活圏の面積はさっきあなたが見た分と小さな部屋がいくつかで全てです。地表はおよそ・・・あなたに分かりやすく言うと、九州1つ分くらい、ですね。ふふ、そんなに驚かないでください。私くらいの地位になれば国民の記憶を読むくらい造作もないのですよ。ここに来る前は大変な目にあったみたいですね。』
記憶を読まれてる!?...さすがクイーン恐るべし。このサイズの巣を管理するくらいになるとその程度できるようになるのか・・・。
さて、次の質問をしよう。
『クイーンは俺の母親?』
『ふむ・・・いえ、違いますね。大方ガズラに母親に会いに行くとか言われたのでしょうけど、彼が言っていたのは私のことではなく下にあるスライム体のことです。スライム体は巣の中の生命全ての母親ですが、私の役割はただそれを維持管理することです。なので、正確にいえばあなたの母親ではありません。むしろ、感覚としては同年代の友達のような認識じゃないですか?』
『巣のクイーンと友達って・・・それ大丈夫なの。俺の認識が正しければ、一国の女王でしょ?』
『確かにそうですけど、みんな肩書を気にしすぎなんです。他人行儀にしちゃって。なので・・・これからは、友達でいいでしょうか?』
女王ってことで割と身構えたりしてたんだが、気さくで、結構こんな感じの人は好きだ。友達になれるなんて、願ってもない機会だ。
『・・・ああ、全然問題ない。』
『やった!これで、二人目ですね。ふふふ、ここ最近で友達が増えすぎちゃって困っちゃいますよ。』
・・・かわいい。
『あー、かなり話がそれちゃいましたね。真面目な話に戻しましょう。普通のお話がしたくなったらまた今度になっちゃいますけど、いつでも来てください。それで、他に質問はありますか?』
『えっとじゃあ、さっき言ってた龍ってのは何?』
『星龍、まだ幼体ですが、それでも、とてつも無く強かったそうです。キメラの国が誇る精鋭たちがまるで歯が立たなかったと聞きます。私がクイーンになった時に先代から譲り受けた知識や記憶の中にはその時の恐怖もとても強烈に残っていました。』
『龍について、詳しく教えて。』
『やはり気になりますか。あなたはロマンというものをとても大事にする人のようですね。教えましょう。星龍は龍種の内の一匹です。まあ、「種」とついているものの、数は確認されているもので世界に100程度でしょう。確認されていないものも含めても150は超えないでしょう。それほど少ないのに種として数えられるほど強い生物なのだと思ってください。あ、ついでに星龍についてちょっと調べちゃいましょう。』
そういうと、クイーンは手を顎にあてて、考えるような仕草をしながらうんうん悩み始めた。そして、1分くらいそうした後。
『はい、わかりました。星龍は固有魔法、星魔法を操るようですね。魔法の効果としては主に、隕石などによる大量破壊です。身体能力はそれほど高くないのですが空を飛べるので、空中から隕石を落とされたら基本的にどうしようもありません。星魔法は属性としては火と土の複合です。倒すためにはこの隕石を何とかしなくてはなりませんが、逆にいうとこの隕石を何とかすれば勝てそうですね。』
『では、話を進めましょうか。次はあなたについてです。現在この巣にはあなたを含めて2人の珍しい型のキメラがいます。あなた方はは非常に珍しい存在です。もう一人は吸血鬼型のキメラと言って、魔法の行使と血の操作に特化しています。あなたはまだどの型かはわかりませんがこのスライム体に巣の一員が触れれば私がその人の情報を把握できるようになっています。今から確認しましょう。こちらに来て、ここに触れてください。』
言われたように前に出て、部屋の奥にある巨大なスライム体に触れる。
『・・・・・・んっ。ちょっと接触面積が少なくて正確に読み取れませんね。もっと奥まで手を差し込んでください。』
『ああ。』
ずぶずぶずぶ・・・
何だこれ・・・ひんやりとしてて、手を包み込んで、ずっと触っていたいような気持ちよさがある・・・。
『んひぃ!?ち、ちょっと待ってください・・・そんないきなり入れられると・・・んうっ!』
すごい。こうやって中で手を動かすと絶妙な反発具合がとてつもなく気持ちいい。なんだろう、ウォーターベッドのように、ただひたすら沈み込んでいきたい。
『あぁん!駄目ですそんなにかき混ぜたら!はぁ、はぁ・・・これ以上は、もう・・・。』
・・・・・・あっ。
『ごめんなさいごめんなさい!!感覚が繋がってると気づかずにさっきからずっと・・・。』
『い、いえ、大丈夫です。気づかなかったなら仕方ありません。でも、ここでやめられるとむしろ生殺し・・・いや!なんでもありません!とにかく、判定はできました!えーっと、あなたは、悪魔型のキメラですね!おめでとうございます!』
うーん、すごく気持ちよかったしまた触りたいものなんだがこの様子だと流石に無理かな?まあ仕方ないか。
『とにかく!話を戻しますよ。悪魔型のキメラの特徴としては特化しているような能力はないものの、全ての能力がとても高く纏まっていますね。今は結構能力が偏っているようですが、これは後で1つの値に収束していくらしいです。また、周りの種族に影響を受けやすく、他の生物の能力を吸収したり、見たものをスキルとして再現して発現できるそうです。』
『へー。なかなか凄そうな能力だな。』
『そうです。悪魔型や吸血鬼型のような凄い型が2人以上同じ世代に生まれるのはとても珍しいことなのです。きっとこの先、これ以上の戦力は望めないでしょう。よって私は、この世代で地上を星龍から取り戻したいと思っています。その時の戦力として期待してますよ。・・・えーっと、何か聞きたそうですね。どうぞ。』
『その、吸血鬼型の人はどんな感じの人なの?』
『ああ、あの子ですか。つい一昨日生まれたのですが、とても可愛い子ですよ。あなたの言葉で言うところのツンデレというやつでしょうか。』
『・・・・・・それ本人に言ったら絶対怒るでしょ。』
『・・・この話はこれくらいにしておきましょう。最後に、生まれてきたあなたにご褒美を上げましょう。通常は2つ程度なのですが、あなたはこの先待ち受ける星龍戦で戦ってもらう予定なのでこれから星龍に勝つためのトレーニングをしてもらいます。よって、私の申し訳なさと、激励の意味も込めて、5です。あなたのご褒美は5つにしてあげます。では、どうぞ選んでください。』
『そうだな...じゃあ、1.魔法を習いたい。2.鍛治を習いたい。3.魔結晶・虹励起が欲しい。4.スキル発動を補助したり、演算能力を高めてくれたりするスキルがあれば教えて欲しい。5.最後に、いつでもこのスライム体のフカフカプニプニを味わいに来れる許可が欲しい。この5つでいいかな?』
こんな感じだ。5個目については俺がもうあの感覚の虜になってしまったということで。クイーンには申し訳ないけど俺の癒しのために犠牲になっていただきたい。
『先ずは1ですね。魔法は、【魔素感知】【魔素操作】【魔力変換】そして魔法スキルがあれば使える筈です。先の3つについては大サービスです。私があなたにあげましょう。ただし、魔法スキルは自分で入手してください。進化するたびに1つ手に入る筈ですので。魔法スキルが手に入ったら、また、私の元に来てください。良い師を紹介しましょう。それでは魔法はこれくらいにして、次です。2つ目の鍛治は、この国の鍛冶師に習うといいでしょう。彼は酒に目がないので後であなたに渡す酒を彼に渡せば、教えてくれるでしょう。3つ目の魔結晶・虹励起については、いつでもこの部屋に来て採っていく許可を与えましょう。ただし、魔結晶・虹励起は取得難易度がとても高く、全属性の同時操作ができなければ回収はできないので、まあ、当分先にはなるでしょうけど、頑張ってください。4つ目については、7大罪、7美徳などの系統のスキルがそれに当たります。ただ、スキルの取得難易度がかなり高いです。かつてこの系統を手にした者はかなり少ないらしいですが、あなたならできることでしょう。えーっと、それで・・・5つ目についてなんですが、私がとても恥ずかしいというか、その・・・やっぱりああいうことは親密な仲の人とかがやると思うんです!なので、その、今の私たちにはまだ早いというか・・・すみません、願いを聞けなくて。』
『いや、いい。でも、もっと親密になればいいんだよね?』
『・・・え、はい、そうです。』
『じゃあ、これからもちょくちょく来るよ。』
『・・・私はこういう事が初めてなのでよくわからないのですが、あなたとは、これからとてもいい関係が築けると思います。これからもよろしくおねがいします。えっと、今日のところはこんな感じでしょうか?では、最後に酒とスキルですね。こちらをどうぞ。』
そう言ってクイーンは、スライム体に生えた触手で酒瓶を俺に渡し、さらに、透明な瓶にスライム体の一部を入れて、それを俺に渡した。
『先に渡した液体が酒です。それで鍛治を習ってください。後に渡した液体が魔法の行使に必要な3つのスキルが付与された巣のスライム体の一部です。家に着いたら飲んでみてください。スキルが手に入るはずです。それでは、さようなら。』
さようなら、そう言って俺はガズラとクイーンの部屋を後にした。
入れ違いに入ってきた女の子の
「ねーあれ誰?見た事ない顔、なんか気になるわ。」
という声を聞きながら。