その57 独占欲
「セレネ様、あそこから無事に出れたんですか?てか、どうやって?」
「貴様が四次元干渉を使って脱出してくれたおかげで空間に幽かな歪みが残っておったのじゃ。しかも、何やら外部の者がその歪みを大きくして、我が何とか通れる程度の穴にしておったのじゃ。いくら強力な封印とは言えど、そこまでお膳立てをされてしまっては脱出をしないわけにはいかんだろう。」
「それは、すごいですね。でも、全く気付きませんでした。それに、今は実体がありますし、封印の空間の中では姿も見えなかったのに。」
俺がそこまで言うと、セレネ様ははっとしたような顔をして手をポンと叩くと、
「確かにまだ何も説明しておらんかったの。では今から順を追って説明しようかの。まず、さっきも言った通り誰かが作った穴から脱出したのじゃ。この時点で実体はないから、透明状態じゃ。その間に貴様らが成したことも全て見ておったぞ。正直あの短期間で天使を倒せるようになるのは予想外じゃった。あっぱれじゃ。それで、貴様ら2人に褒美をやらねばならんと思うてな、外の龍を倒すことにしたのじゃ。長い間困っておったようじゃしの。じゃが、長年封印されておった上に実体がないせいで全く力が出らんかったのじゃ。じゃから、この巨人を呼んでの、倒してもらったのじゃ。」
さっきから龍と壮絶な殴り合いを繰り広げてる赤い巨人を指さしながらセレネ様は言う。
「えーと、その巨人さんは誰ですか?それと、今は実体があるようですが、いつ手に入れたのですか?まさかこんなにすぐにセレネ様が出てこれるとは思っていませんでした。」
「この巨人は我が全盛期に作った人形じゃ。弱い龍なら簡単に屠れる力を持っておる。おそらくこの龍もあと少しで片づけてしまうじゃろう。しかしこいつ、燃料は魔素なのじゃが今は補給手段がないのじゃ。だから基本的には動かさないようにする故、戦力としては期待せんことじゃな。今回は特別じゃぞ?それと実体がないことに関しては説明が足りんかったの。今も実体はないのじゃ。この巨人から少々魔力を拝借して実体に見えるものを作っておるだけじゃ。しかしその言い方じゃとまるで・・・我に出てきて欲しくなかったようじゃの?」
「ぅえ!?い、いえ、そんな事は・・・。」
「ふふ、そう焦るでない。からかっておるだけじゃ。わかりやすく慌ておって、愛い奴め。じゃが忘れるでないぞ、貴様は我が加護を与えた唯一の者なのじゃ。貴様は、我の物じゃ。誰にも渡さぬ。良いかの?」
セレネ様が、俺の頬をその可愛らしく小さな手で撫でながら蠱惑的な表情で言ってくる。こんなの、抵抗できるわけないじゃないか。
「は、はい。」
「良い返事じゃ。」
だがその時。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!カイは私のものよ。勝手に取るんじゃないわ!」
・・・ルナ?
「ほう、魔王である我の所有物を取ると言うのか?良い度胸じゃ。身の程を知らせてあげねばならんようじゃの。」
「できるものならやってみなさいよ。わ、私はカイと一緒にハグしながら寝たことあるんだから!」
「な・・・ん・・・じゃと・・・!くっ、カイ!貴様は我の所有物なのじゃぞ!!今晩は我の抱き枕をせよ!異存は認めぬ!我の匂いをたっぷりと染み込ませて我の体の感触をその体に覚えこませて身も心も我の、我の虜にしてやるのじゃぁ!」
「そ、それなら私だって!今夜は絶対に離さないんだからね!カイは私のものよ!」
何だろうこの状況、嬉しいはずなのに素直に喜べないぞ。神よ、なぜあなたは女というものをこんなに怖く作ってしまったのですか?
(儂は尻に敷かれる方が好きじゃからな。ほっほっほ!)なんて声がお空の上から聞こえてきた気がした。お前の趣味かよ。