その51 破聖の燚焱
てなわけですでに生成しておいた分の魔力結晶槍を復讐ノ天使に向かって全部投げて、さらに闇属性の魔力結晶槍を悪魔の魔法棘を使って一気に何本も生成していく。追加で作った分も作ったそばから復讐ノ天使に向かって投げていく。
幸い復讐ノ天使の意識がある程度ルナに向かってたおかげで翼弾によるダメージは切り傷数か所で済んだ。
「おいクソ天使、俺のルナに触れるんじゃねぇ!こっちを見やがれ!」
俺が生成した魔力結晶槍はその滑らかな形状のおかげか、かなりのスピードで飛んでいき、復讐ノ天使にぶつかる。だがやはり復讐ノ天使の防御力はなかなかのもので、槍が刺さってくれる様子は無い。だがしかし、これで問題ない。
おそらくあいつは俺が将軍に対して使ったような周囲を槍で囲むようなことをすると予想しているだろう。だからそれだけは避けてくるはずだ。だが逆に言うと、それ以外に対しては無警戒になっているはずだ。そこを逆手に取る。
刺さらずにぶつかった魔力結晶槍ぶつかった衝撃で亀裂が入ったり折れたりして、そこを起点にして猛烈な勢いで崩壊を起こし、周囲に大量の闇属性の魔力を撒き散らす。
復讐ノ天使はおそらく完全に光属性の存在だろうから、自分の周囲に大量の闇属性のエネルギーが漂っているというのは好ましくない状況の筈だ。
案の定、復讐ノ天使は目に見えて苦しみ始め、数秒間何が起こったのかわからないといった様子でもがいた後、やっと何が起こってるのかがわかったようで、大量の闇属性の魔力を中和するために翼弾を止めて自分の周囲に光属性の魔力を放出し始めた。
そうだな。俺はとても優しいから、中和を手伝ってやるとしよう。
翼弾が止んだらすぐに斥力場を消して、復讐ノ天使のところに一気に駆けていく。
と、ここでルナがアイコンタクトをくれる。大技の準備が終わったようだ。なら俺は、しっかりとあいつに大きな隙を生むだけだ。
復讐ノ天使の元に駆け寄りながら、自分の爪を核にしてしてそこに闇属性の魔力を集めて魔力爪を作っていく。復讐ノ天使のもとに到着したところでちょうど魔力爪の生成が終わる。
さて、繰り返しになるけど俺はとても、とーっても優しいからな。復讐ノ天使の周囲の魔力の中和を手伝うために周囲に漂ってる闇属性の魔力を回収してあげる。なんてやさしいんだ。
回収した魔力は?もちろん、魔力爪に収束させていくに決まってる。中和は半分くらい終わってみたいだけどそれでも十分すぎる量の魔力が回収できた。
これだけの量の魔力を込めた魔力爪は見たことのないほどドス黒い、漆黒のオーラを放っている。
この魔力爪を一気に魔爪槍に変換。さらに匠さん・女王を倒した時と同じようなギミックを仕込んでおく。
さて、あまりにも慌てていて俺の接近に気付かなかった復讐ノ天使は俺はいきなり現れて周囲の魔力を回収したことに驚いて、間の抜けた顔を晒している。
そうそう、そういうのが欲しかったんだ。強者ぶりやがって。
「さぁて、戦闘も長引いてきたし腹も減ってきたんじゃないか?俺は結構減ってきたぞ。それでだ、ちょうどここにうまそうな魔力の槍が2本あるんだ。まあ、俺が食ってもいいんだが、お前にやるよ。俺は優しいからな。感謝しろよ?」
ズドンッ、ズドンッ!!
口と喉笛にそれぞれ1本ずつ、突き刺して完全に貫通させる。血が飛び散りまくって汚いったらありゃしない。
でも、へぇ、多少色が濃いような気もするが天使だって血は赤いんだな。初めて知った。どうでもいいけど。
さて、もう少しで時間切れだな。復讐ノ天使は俺を睨みつけて最後の足掻きとばかりに槍を滅茶苦茶に振り回すが、体に巨大な槍が2本刺さってて体も満足に動かせない状態の乱雑な攻撃なんか、後ろにちょっと下がるだけで簡単に避けきれる。
そしてそのまま時間は過ぎていき、迎える時間切れ。
ズパパンッ!!
魔爪槍のギミックが発動して、大量の血飛沫をまき散らしながら頭部が弾け飛ぶ。これだけで完全に殺しきれたような気もするが、相手は天使。念のためにもう一撃加える。
「よしルナ今だ!頭を殺れ!」
「了解!いくわよ!」
ルナだそう叫んだ瞬間、ルナがこれまでの間ずっと収束させていた圧倒的な量の火属性と闇属性の魔力が解放されて嵐のように吹き荒れる。
ルナが右腕を振ると吹き荒れていた火属性の魔力が一気に物質化して超高温の火炎になる。この時点で壁面が赤熱して溶け始めてることからこの炎がいかに高温なのかがわかる。
そしてルナが左腕を振り下ろすと未だ渦巻き吹き荒れ続けている闇属性の魔力が一気に炎に溶け込んでいき、そこに生まれたのは、空間に穴が空いたのではないかと錯覚するほど深い黒を湛えた、むしろ光を吸収しているようにすら見える炎だ。
「さて、これで終わりよ。暗黒の炎よ、神聖を飲み込み燃やし尽くせ!『破聖の燚焱!』」
その言葉とともに、漆黒の炎が猛烈な勢いで復讐ノ天使の頭を飲み込み、そのまま壁に打ち付ける!
その後、たっぷりと5秒間くらいゴォォォォという轟音とともに復讐ノ天使の頭を壁に縫い付けたまま燃やし続けた後、ルナの破聖の燚焱は空間に溶け込むようにして消え去った。
残ったのは、赤熱しドロドロになった壁に空いた直径約1.5メートル、深さ約3メートルの大穴と、その最奥のマグマだまりのような部分に残った、復讐ノ天使の頭蓋骨だった。あとめっちゃ熱い。
・・・いやいや、ルナの破聖の燚焱もヤバかったけどさ、それを耐えきった復讐ノ天使の頭蓋骨もすごいな。後で回収して何かに利用できないだろうか?
【経験値が一定に達しました】
【レベルが8に上がりました】
【レベル上昇により熟練度を獲得しました】
【肉体変質のレベルがカンストしました】
【肉体変質が肉体換装に進化しました】
【肉体換装を獲得したことにより換装空間、換装セットを獲得しました】
【神格保持者:復讐ノ天使の討伐を確認しました】
【神蝕の効果により神格が吸収されます】
【神格上昇、魂容量増加のレベルが2に上がりました】
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私たちは目を見開き、言葉を失っていた。
将軍は間違いなく天使の血の効果を利用して肉体を強化した。将軍はとても強くなっていた。だが、男の方は将軍と渡り合っていた。それどころか将軍に対して結界術のようなものを使ってみせた。そしてその間に2体の魔獣人形が女の方にやられてしまった。
運のいいことに魔獣人形のうち1体がかろうじて生きていたため、その目を通して戦闘の様子を見ていたが、自分の目を信じることは誰もできないだろう。私と同じものを見ていたのなら。
劣勢になった将軍は予定通り復讐ノ天使を自分の肉体と魂を代償に召喚し、そこからは戦闘も優勢であるかのように見えていた。
だが、男の方が謎の槍を呼び出した時点でまたもや戦局が変わってしまった。
槍が放たれた途端復讐ノ天使が苦しみだしたのだ。
そして男の方が復讐ノ天使に向かって走っていくと同時に女の方とアイコンタクトを取った時点で気づいた。気づいてしまった。
女の方に通常では考えられないような量の魔力が収束しているのだ。
その量はあまりにも膨大で、男の方が何かをして復讐ノ天使の頭を吹き飛ばした後にその魔力が解放された時には、洞窟の外にいるはずの私たち、その中でも特に魔力を感知することや操ることに長けていないものですら放たれた解放された魔力の余波を感じ取れたのだ。
その後発生した炎の高温により魔獣人形の観測機器が壊れてしまい、中の状況は確認できなくなってしまったが、おそらく復讐ノ天使は負けたのだろう。あの攻撃を耐えきれるとは思わない。
ああ、私たちは戦ってはならないものに喧嘩を売ってしまったのではないか?相手は下級天使をも殺めてしまう存在、本当に星龍の力があれば勝てるのか?いくら龍とはいえ自我の薄い状態の幼龍なのだぞ?
私は答えなど出すことの叶わない自問自答を繰り返す。きっと我らが神でも私の不安を払拭することは出来ないのだろう。私と一緒に居る者の中には我らが神の紋章を手に握って祈る者もいたが、私と同じ疑問に至ってしまったようで、神に祈る姿勢のまま、目の焦点が定まらないまま、自問自答の思考の渦に飲み込まれてしまって、動かなくなってしまった。
まあ無理はない。とても恐ろしいものを見てしまったのだから。
だが、それでも。いや、なおさら私は神に願う。今私にできる事がそれしかないからだ。固まっている暇があるのなら神に救いを求めよ。幼少期からそのように教えられてきた。だから私は跪き、神に乞う。
おお、我らが神よ。我々に慈悲をください。どうか、この言葉をお聞きになっているのなら、我々を、勝利へと導いてください。我々を、お救いください。
私は顔を上げ、洞窟の入り口を見る。星龍は洞窟に入ることは出来ない。よって自ら決戦の場はここ、そして決戦の時は奴らがあの入り口から現れた時だ。
心の準備はできた。覚悟はできた。神に私の願いを聞いていただいた。もう何も恐れることは無い。いつでもかかってくるといい。私は、私たちは、絶対に負けない!神に見守られた私たちはお前たち魔物になんか負けやしない!!