その46 侮辱
ついさっき、魔獣人形がやられた。
もともと、あの魔獣人形は通路の護衛という意味だけでなく通ろうとする敵の力量の測定、さらに洞窟内における我々の目と耳という役割まで与えてあった。
敵の力量の測定は十分とは言えないがある程度できたから良しとしよう。しかし、洞窟何の目と耳を失ったのは痛い。魔獣人形を盾にして時間を稼ぐ間に、洞窟の出口で完璧な対策を立てようという作戦だったのだが。本隊とは関係ない、ランダムな2体にやられてしまったとなると本隊の奴らがいつ、どのように攻めてくるのかが把握できない。
魔獣人形自体ならあと数体は国から支給されていて、まだ無傷の状態で残っているが問題は再設置。多少はわかったとはいえ戦力の把握も完全じゃない相手に我々の精鋭をぶつけて消費するわけにはいかない。今は弱兵を小出しにして時間を稼がせているが、これもいつまでもつかはわからない。どうしたものか・・・。
こうなっては仕方がない。いくら相手も魔獣人形をたった2人で撃退するほどの手練れとはいえ、私が一気に仕掛ければ屠るのも可能だろう。天使の力も味方につけているのだからな。
「私が行く。」
「将軍殿?」
「私が行くと言っている。私自ら出向いてあの2匹に引導を渡してくれる。」
「ですが・・・将軍殿、魔獣人形の再設置とあらわれた敵の殲滅をやってくれるのならこちらとしても敵の様子を窺いやすくなり、ありがたいことはこの上ないのですが、今この時期に大事な戦力を失うわけにはいかないのです。敵の戦力は未知数で・・・。」
「くどいぞ、ロドルフ。この私がそう易々と負けるわけがなかろう。そこまで私の身が心配だというのなら魔獣人形を2体ほど護衛として連れていくという事で妥協してもらわねばならんな。なに、心配はいらない。私がこの任務、確実に遂行して見せよう。」
「はぁ・・・これは言ったところで無駄のようですね。では、よろしくお願いします。死なずに戻ってきてくださいね。あなたはこれからも将軍として、我々の国における直接戦闘部隊の最強の人間として君臨し続けてもらわなければならないのですから。」
「当然だ。では、もう行くぞ。」
「御武運を。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
洞窟の中までやってきた。私の傍には2体の魔獣人形が控えている。こいつら単体ではあの2匹とは渡り合えないが、私と組み合わせれば申し分ない戦力だろう。だが相手は魔獣人形を簡単に倒すような奴ら。油断はできない。
時間稼ぎに使っていた弱兵は私が行くと言った時点で止めた。完全に私一人だ。まあ魔獣人形も2体いるがこいつらを頭数に数えるのもおかしな話だからな。時間稼ぎもいなくなったから、もうじきあの2匹の生物との邂逅も果たせるだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は目の前に展開される光景に、言葉を失った。
さっき我々の魔獣人形を軽々と打ち倒した2匹の生物、いや、化け物といわせていただこう。あの化け物どもが、我々の同士を、命を賭してまで我々のために時間を稼ごうとした同士を・・・無残な姿で地面に転がし、貪り喰っていたのだ・・・。しかも、私の同士の死体を喰らいながら談笑しているではないか。
・・・許せない。
攻め込んだのは我々だ。抵抗の意思を示されるのは当然だと思っている。むしろ示さないほうがおかしい。そしてその過程において死者が出てしまうことも覚悟していた。それが戦の常というもので、それに抗うことができるのはほんの一握りの傑物たちのみだ。
だが、これは何だ?
自らの命を懸けて挑んできた敵兵を喰らうなど、相手に対する侮辱に他ならない。戦士としての誇りを知らぬ化け物どもめ。私の同士がどのような想いで挑んだのかも、考えていなかったのだろう!これでは散っていった私の同士の死が報われない・・・。
絶対に、殺してやる。このような化け物に殺されてしまった、私の同士のためにな。手始めにお前らを殺し、そのまま攻め込んでお前らの家族も殺してやる。くっくっく・・・そのままお前らの肉体も私が喰らい尽くしてやろう。ああ・・・実に爽快な気分だ。お前らを喰うのが楽しみで仕方がないなぁ。
【スキル、復讐者を獲得しました】
【復讐者と下級天使の血を確認しました】
【復讐者の意思により所有者の肉体と下級天使の血の統合が行われます】
「お前ら、そこまでにして頂こうか。」