その44 レベリング‐2
確かに、家に帰れたせいで気が抜けてあまり気にしてなかったけど、六感強化に弱い反応があるな。たくさん。集中しなければ気づけないような弱い反応だが、距離はそこまで遠くは無く、普通だったら明瞭に感知できる距離だ。何かしら気配を遮断するようなスキルでも持っているのだろうか?
ちなみに狼の数は具体的に言うと合計13体の反応。さらに具体的に言うと前方に5体。後方に8体だ。
「ルナ。前に5体、後ろに8体だ。」
「ええ。了解したわ。」
「なら話は早いな。俺が後ろの8体をやるから、前の敵は任せた。幸い相手さんはこっちがあっちに気づいてることはまだ分かってないようだ。」
「・・・やーだ。」
「・・・はぇ?」
「両方とも、私に任せなさい。」
「早速この武器の試運転と行こうかしら。炎よ、球となり敵の身を燃やし尽くせ。『五連装、火炎球!』」
ルナのそんな掛け声とともに、ルナとその周囲を浮遊する三魔法球から出てきた真っ赤な炎がルナの頭上に収束していって、5つの炎でできた球を形成した。しかし、球が形成された後も炎は生成と収斂をやめない。
「あ、あれ?なんかいつもよりいっぱい力が出ちゃう・・・。あれれ?あぁ、オオカミさんごめんなさい・・・。」
ルナの謝罪とは裏腹に、火炎球は無慈悲にも放たれる。やはり狼たちは自分たちが気づかれていると知らなかったようで、飛んで行った火炎球を避ける事も無く直撃を食らった。
火炎が消え去って、何が起こったのかが見えるようになった頃には、そこに残っていたのはぐつぐつと煮えたぎる真っ赤な血が割れ目からあふれ出てくる真っ黒な炭の塊だ。
「まーいっか。それじゃ後ろの8体もいきましょ。大地よ、せり上がり敵を貫け。『針絨毯!』」
ルナがそう唱えるのと同時に、地面から無数の針がせり上がって来る。針1本1本は直径5センチ、長さ50センチくらいで、この魔法が発動した後の地面はまさに針の絨毯と呼ぶに相応しい。この攻撃を本能的に予測していたらしい狼たちは魔法が発動すると同時に大きくジャンプすることで回避していたが、ルナの魔法はその程度で避けれる程度の物じゃない。狼たちが空中に居る間にルナはすでに次の手を打っている。
狼の着地地点を予測すると、そこに特大の針を発生させる。空中で方向転換する術を持たない狼たちは予定調和のようにして発生した針に突っ込み、串刺しにされていく。数体は心臓や脳を貫かれ、瞬間的に死んでいた。残りは血をドクドクと流しながら、もがき苦しんでいる。
「うっ、ごめんなさい・・・。別に動物を苦しめて楽しむ趣味は無いし、すぐに楽にしてあげるね。潰れよ。『重力場。』」
ルナがそう言って、魔法を発動させた瞬間、すでに死んでいたデスウルフも、ずっともがき苦しんでいたデスウルフも、下に引っ張られるようにして地面に押し付けられていき、バリバリと骨が砕けるような音をたてながら、最終的には皆平等に紅いシミと成り果てた。
「おぉ・・・すごいな。前2つは、まあわかるが、最後のやつはどんな魔法なんだ?」
「浮遊魔法の応用よ。相手を強い力で地面に向かって浮遊させたらあんな感じになるわ。いっぱい集中しないとうまく殺せないからいったん相手の動きを止めないといけないのよ。相手が動ける状態で発動してもよけられて、魔力の無駄になるだけだもの。すごく大変なのよ。すごいでしょ?・・・ほ、褒めても、いいのよ?」
「おう、すごいぞ。あんな魔法を見たのは初めてだ。俺がいなかった間ずっとがんばってたんだろう?それが実ったんだな。」
「ちょっ、何普通に褒めてるのよ!あんたに恥じらいってものはないの!?わ、私のほうが照れるじゃないの・・・。」
かわいい。・・・って、あっさりスルーした感じになったけど、あの重力場って魔法、嘘だろ?強い力で地面に押し付けたなんてもんじゃないぞ。いったいどんな出力で魔法を発動させたらあんなことができるんだ?うーん、これが魔法特化の力か。さすがルナは末恐ろしいぜ。
「さっきも言ったが、かなりすごいな。だが、まだいけるな。生活領域に戻ったら使える魔法とその効果を一通り教えてくれ。俺も俺が知ってる魔法を教えてやる。俺たちが協力すればかなり面白い魔法ができるはずだ。」
「もちろんよ!クイーンも一緒にね?」
「当然だ。じゃあレべリングを続けようか。俺もちょっと体を動かしたい。」
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【昔、聖国内某所】
「あの国に関して、どうするかは決まったか?」
「ええ、あの国は将来、我々の障害となり得る国。芽は、出る前に潰しておくのが一番ですからね。龍種を1体、送ってあります。これで何とかできるでしょう。あの国の奴らは突然変異が恐ろしいですが、今のところそのような個体は報告されてないので、龍種1体で問題ないでしょう。」
「なるほど。して、龍種の制御はどのようにして行っただ?そのようなことが可能な道具は数えるほどしか思い浮かばないが。」
「操魔の宝珠です。通常、龍種のような強力な生命体に対しては効果はあまり無いのはすでにご存じだとはが、あの龍種は幼体だったので、操魔の宝珠の効果が出てくれました。今頃、あの国の奴らに殺戮の限りを尽くしている頃ではないでしょうか。」
「ふむ・・・その龍種が幼体だったといったな。あいつらをは幼いうちは遊びすぎる傾向がある。本当に大丈夫なのか?」
「ははっ、心配性ですね。もちろん、そこも問題ありません。」
「ほう?説明してみろ。」
「はい。実は、操魔の宝珠には操った相手の精神を大きく安定させる効果があるというのはあなた自身が確認された効果ですよね?それです。あの効果は龍種に対しても発揮されるようです。まあ、普通は操った対象の精神状態をわざわざ確認しようという変人はいませんからね。よく確認されたものです。」
「ふっ、遠回しに私のことを変人だと言ったな?まあよかろう。では、もう行っていいぞ。何か状況に進展があれば私に報告するようにな。」
「はい。それでは、失礼します。」
ガチャッ・・・
「もう行ったか。さて、一旦はあの国も何とかなるだろうが、残党狩りも考えねばな。将軍辺りを送れば良いか。試しにあれも持たせておくとしよう。ふっふっふ・・・実に結果が楽しみだ。天使の血・・・あいつもなかなか面白いものを見つけて来おったなぁ。後で褒美を与えておくとしよう。ふふ、実に愉快だ。」