その4 初食事
俺が気絶してた間に何もされなかったところをみると、俺の事を傷つけようという意志は無いんだろうと思うが、確実だと言い切ることはできない。
うーん、もちろん見た目が怖いだけで優しいという可能性だって十分ある。クトゥルフ神話から出てくるような見た目をしていても、他人のことは見た目で判断しちゃいけない。
今も部屋の端っこで同族の死体と思しきものを手に持ったまま俺のことをその爛々と輝く目で見つめているが、別に俺のことをとって食おうと思っているわけではない。・・・と、信じたい。
きっと俺が鑑定さんを発見して自分の世界に閉じこもってしまったせいで話しかける機会を逃してしまったんではなかろうか。そして、今は話しかける機会を全力で窺っている、とか。うん、そうと決まれば話しかけてみよう。こっちからコミュニケーションをとる姿勢を見せれば相手もちゃんと応じてくれるはずだ。
えーっと、何と言ったものか・・・。
『おい、息子。』
え、あれ?俺今話しかけられた?
『おい息子、聞こえているのか?』
ガズラはまだ俺のことをじっと見ている。触手に覆われていてかなりわかりにくいが口を動かしていたような様子はなかった。まさか、念話のようなもの?
『あ、え・・・えーっと、何?』
頭の中で言葉を返してみる。これでちゃんと声が届いたかはわからない。
『ふむ、この年で言語を操るか。あいつに続き2人目。クイーンに報告せねばならんが・・・まあ今はまだ良い。とにかくこれを喰え。』
そう言いながらこっちに歩いてきて、差し出された手の中にはさっきからガズラが持っていた同族の死体らしきもの。
・・・は?その手の中のそれを食えと申すか。そうですか。
『マジで?本当にそれ食うの?』
『本当にこれ食うの。』
『マジで?』
『マジで。』
『・・・ちなみに誰?』
『・・・お前の弟だ。さっさと食え。』
『・・・・・・。』
マジかよ。うぅ、不本意だが食うしかないようだ。ここでつべこべ言ってもしょうがないので、いざ実食。なんで弟が死んでるのかとか、何で俺が食わなくちゃならないのかとかは考えないようにする。まあ、弟とはいってもさっき初めて見た、ある意味赤の他人なんだが。
弟が俺の目の前にべちゃりと置かれる。ガズラとの共通点は主に頭部か。ヤギのような形で、前に授業で宗教について調べてた時に見た悪魔を彷彿とさせる。
腕は両方とも熊のそれのような形状だ。かなり大きく、体に対してアンバランスな印象を与える。そして、動物的な外見の頭や腕とは打って変わって、胴体はほぼ人間みたいなものだ。割と細身の。下半身は馬のような感じだな。ケンタウロスみたいな感じじゃなくて胴体の下に馬の後ろ足が直接くっついてる感じだ。
さて、どこから食おうか。心の中でそう言いながら弟を眺めやる。
よし、まずはこの馬のような足から食うとしよう。馬ならまだ抵抗は少ない。前世では馬刺しが大好きだったんだ。こっちも一緒のようなもんだろ。むしろ、俺の弟という事はほぼ生まれたて。かなり肉質が柔らかいはずだ。
でも、このままじゃ食べにくいので足をぐいっと引きちぎる。
ぐっ・・・ぐっ、ぐっ・・・ちぎれねぇ・・・。
『・・・俺が千切ろう。』
ブチっ!ブチっ!
おぉ・・・ありがてぇ、ありがてぇ。
さて、じゃあ食べましょうかね。がぶっと、思いっきりかぶりつく。
・・・うまい。そこまでうまいものは期待してなかったんだが、当然血抜きはされてなかったから多少の血生臭さはあるものの、生肉としてはかなり美味しい部類だろう。まあ、前世で食べた高級馬刺しには遠く及ばないがな。
そして、最後の一口を腹に収めたとき、
【熟練度が一定に達しました】
【他者吸収の効果により脚力を入手しました】
【また、吸収強化の効果により脚力のレベルが2に上がりました】
【熟練度が一定に達しました】
【同族喰らい、外道の称号を入手しました】
【同族喰らいにより胃強化、同族殺し、外道により敵痛覚強化、死体冒涜を入手しました】
そんな声が聞こえた。
うむ、このメッセージには非常に興味をそそられるが、まだ食事中だ。また後で確認するとしよう。気をとりなおして、食事を再開しようか。
次は・・・熊のような腕あたりを食ってみようか。というわけでさっきと同じように腕を引きちぎろうとする。・・・まあ無理よな。
今度は俺が何もアピールせずともガズラがやってくれた。うれしいし、非常に助かるんだが、その真っ赤な目にほほえましさのようなものが宿っているのは俺の気のせいなのだろうか。そういう目で見られるととても恥ずかしい。
あと、千切るときに大量に返り血を浴びててとても怖い。
まあ、元がかなり怖いからあまり差がないと言えば差はないのかな?。とにかく気を取り直して、食べましょう。
うわぁ・・・。馬の時はまだマシだったんだが、毛が酷い。馬の脚は毛皮ごと剥ぎ取ればよかったんだが、こっちはかなりの剛毛だし、毛皮を剥いでる時に抜けた毛が肉につかないようにするのにかなり気を遣う。
何はともあれ無事完食。まあ、肉は多少は美味しかったよ。労力には見合わないけど。
【熟練度が一定に達しました】
【他者吸収の効果により腕力を入手しました】
【また、吸収強化の効果により腕力のレベルが2に上がりました。】
うむ、よろしい。
じゃあ次は頭かな。完全にヤギみたいだ。皮を剥いだらあんまり残ろなそうだけど、骨とか脳とかは食えそうだ。脳は、少し抵抗があるな・・・。
あ、今更かもだけど、骨まで食ってる。うまいよ?骨って硬そうなんだけどなんでかボリボリ行けるんだよね。何かのスキルの効果かな?
というわけで、肉ムシャムシャ、骨ボリボリ。骨はもうポテチみたいな感じだ。骨髄もスープみたいな。うまい。
さて、ここまでは多少食べにくさはあれど、割と美味しい部分がほとんどだった。だが、このままいくと必ず最後に残る部位が存在する。そう、脳である。・・・あぁ、食いたくねぇ。
嫌な気持ちを無理矢理押さえ込んで食らいつく。うぇぇ、食感が酷い。まるで可塑性の深淵に堕ちた豆腐のようだ。
そしてなんやかんやで完食。ふう、乗り切ったぜ。
【熟練度が一定に達しました】
【他者吸収の効果により視覚強化、味覚強化、聴覚強化、嗅覚強化を獲得しました】
【肉体変質の効果により形態:角、脳を獲得しました】
【また、吸収強化の効果により視覚強化のレベルが2に、味覚強化のレベルが2に、聴覚強化のレベルが2に、嗅覚強化のレベルが2に、形態:角のレベルが2に、形態:脳のレベルが2に上がりました】
【熟練度が一定に達しました】
【他者吸収のレベルが2に、吸収強化のレベルが2に、鑑定のレベルが2に上がりました】
【熟練度が一定に達しました】
【称号:悪食を獲得しました】
【悪食により胃強化、解毒を獲得しました】
【胃強化を既に獲得しているため、新たに獲得した胃強化は熟練度に還元されます】
【熟練度を獲得しました】
【熟練度が一定に達しました】
【胃強化のレベルが2に上昇しました】
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
なんかすごい量の声が頭の中を通って行った。
・・・後で確認しとかないとな。それより今は人間のような胴体部分を完食しよう。
・・・・・・・・・・・・
というわけで完食しました。普通にうまかったです。
スキルとかそういうの何も無しか。やっぱり人間はほかの生物と比べると弱くて食べても得るものが少ないのかな?
まあいいや。レベルも上がったことだしステータスを確認してみようか。オープン。
【名前】カイ
【種族】リトルクソザコナメクジキメラ・弱小種
【性別】男
【年齢】0
【レベル】1
【ランク】G-
【体力・回復力】13
【魔力】8
【攻撃力】3
【防御力】3
【敏捷性】9
【称号】クソザコナメクジ 転生者 運命の赤い糸
【加護】転生神の加護 同族喰らい 外道 悪食
【スキル】
・通常:女運1 絶倫1 脚力2 腕力2 視覚強化2 味覚強化2 聴覚強化2 嗅覚強化2
・称号:臆病1 危機察知1 獲得経験値上昇1 獲得スキル経験値上昇1 運命の赤い糸1 胃強化2 同族殺し1 敵痛覚強化1 死体冒涜1 解毒1
・加護:神託1 神格上昇1 魂容量増加1
・ユニーク:鑑定2
・種族特性:肉体変質1 他者吸収2 吸収強化2
【魔法】
【形態】角2 脳2
おぉ!スキルの数が非常に増えてる。よくわからないけどスキルが増えるのはきっと良いことだ。
でも魔法のところがまだ空欄なんだよな。やはりロマンに憧れる現代人としては魔法は是非とも使ってみたい。
一体どうやったら手に入るんだろうか・・・?