その32 試練
目が覚める。
俺の記憶が正しければ俺は大爆発に巻き込まれてしまったはずなんだが・・・不思議と体はどこも痛くない。
爆発した女王はともかく、他の匠さんたちはどうなったんだ?うーん、周りが暗くて何も見えないな。
・・・ああ、そう言えば周囲を土壁で覆っていたのか。なら周囲が見えなくて当然だし、体がどこも痛くないのも納得がいく。じゃあ土壁を消すか。
・・・おかしいな。周囲に対して土壁を消そうと魔力を送っても何も反応がない。もしかして魔法は対象をしっかりと認識してないと撃てないのか。じゃあ、土壁を触って・・・無いな。俺の周囲に作ったはずの土壁がない。
腕を大きく動かして周囲を探ろうとするが、どこにも土壁はない。ましてや、何もない。触って確認できるのは、俺自身の体と、地面だけだ。
じゃあ一体、この暗闇は何なんだ?土壁で覆われてるせいで暗いんじゃなかったら・・・。
「おお、気付いたようじゃな。」
少し心配してるような、嬉しそうな声。この声は・・・久しぶりに聞く。でもこの独特な喋り方、この声、間違えようもない。
「セレネ様、お久しぶりです。また会えて嬉しいです。」
「うむ。我も久しぶりに会えて嬉しいぞ。光栄に思うが良い。」
セレネ様も登場して、ようやく状況が掴めた気がする。
「セレネ様・・・俺は試練を失敗してしまったのですね。すみません・・・。」
そう、俺が今までで居たのはセレネ様の試練の洞窟の中。そして、俺は敵の強力な一撃を受け、ここにいる。セレネ様がいる場所に。
所詮死に戻りというやつだろう。多分試練に挑んでる時限定で発動するものだ。
「ふっふっふ、貴様がそう思うのも無理は無い。じゃが、安心せよ。試練はまだ続いておる。」
えっ?
「良いか?この試練は勝利して力を手にするためのものではない。死を経験し、それを通して己の真の弱点を理解するものなのじゃ。そして、もちろん試練を完遂した時に力を与えておるが、死んでしまった時も少しではあるが力与えられるようになっておる。」
つまり試練は失敗ではないどころか、これも完全に試練の一部ということか。
「じゃが、貴様もなかなか死なぬな。本来ならば貴様は一度ミノタウロスに殺されてここに来る予定だったのじゃよ。なのにじっくりと時間をかけてから切り抜けおって・・・。我はその間ずっとここで暇しておったのじゃぞ?」
「あはは・・・、すみません。」
「まったく、貴様は我の物なのだから我の傍に控えていなくてはならんのじゃ。それを肝に銘じて、さっさと試練を終わらせて我のもとに戻って来るのじゃ。まあ、死んでもよいが、それではすぐに試練に戻る必要性が出てしまうからの。終わらせて来るのじゃ。」
「了解です。まあ・・・頑張って来ます。」
俺がそう言うと、セレネ様は満足したように頷いてから、試練の洞窟に戻るための扉を作った。
さて、セレネ様もそう言ってるんだし、さっさと終わらせましょうか。