その30 女王
約100匹の匠さんの駆除が完了した。
だが安心してる暇は1ミリも無い。
匠さんたちが来た方向を見やる。大体800メートルくらいだろうか、第2波が迫ってきてる。心なしか行軍速度も第1波に比べたら少し早めだ。
ていうか、何なんだあいつらは?色が普通の匠さんと微妙に違うし、何か迫力が増してるような気もする。色のバリエーションも何通りかあるみたいだな。
こういう時はさっさと鑑定してしまうに限る。
まずは最前列の奴ら。
【匠さん・神風】
【軍の先陣に立ち、仲間のための道を切り開くタイプの匠さん】
【攻撃方法は爆発】
【爆発力と移動速度が通常の匠さんより高いが、成長に時間がかかり、あまり大量に用意することができない】
【しかし十分な時間をかけて作り上げられた匠さん・神風の軍勢はそれだけで戦いを終了させる力がある】
カミカゼ特攻隊か!仲間のために道を切り開くとかかっこいい事言ってるけど絶対突破口を作るために壁に穴開けるやつだろ。絶対に近づかせちゃだめなやつや・・・。
その後ろの奴らも、
【匠さん・戦士】
【ただの匠さんを除き、最も一般的な匠さん】
【主に、匠さん・神風が開けた穴に入っていき、敵を物量で制圧していくのが役目】
【攻撃方法は爆発】
【爆発力と移動速度は通常の匠さんに比べて少し高く、また、比較的大量生産をしやすい】
【匠さん・弓士】
【匠さん・戦士に次いで一般的な匠さん】
【主に、匠さん・戦士の後ろに続き、後方支援を務める】
【攻撃方法は爆薬を飛ばす事による遠距離爆発】
【移動速度は通常の匠さんと同じくらい、爆発力は極端に小さいものの、攻撃方法が自爆ではないため複数回の攻撃が可能】
【匠さん・女王】
【多くの匠さんを束ねる女王】
【匠さんの生産を司る】
【自らの体内の爆薬を消費する事で様々な匠さんを生み出す事ができ、消費した爆薬も時間とともに回復する事ができる】
【攻撃方法は存在せず、すべて配下の匠さんたちを通して行われる】
【配下を統率し、統制された攻撃を行う事により、女王が存在する群れはとてつもない破壊力と影響力を誇るようになる】
前の2種類は見ての通りだ。ちょい強めの匠さんと遠距離攻撃可能な匠さんだ。戦士の方は第1波でやったのと同じ戦略でいけるし、弓士の方も遠距離攻撃なら避ける事も難しくはないだろう。
問題は最後の奴だ。
俺が前の2種類を鑑定してる時に遠くから「呼んだ?」みたいな感じでひょっこり現れやがった。
どうもこの世界では群れの長として女王を据えたがる傾向があるような気がする。うちのキメラ然り。ここの匠さん然り。
女王単体では問題無さそうなんだが、配下を新しく作り出す能力が厄介だな。長期戦になればなるほどそれだけで俺が不利になってしまう。しかもなんかデカい。高さは5メートル位だろうか。あれが近くまで来てしまったら大変な事になってしまうんじゃなかろうか?鑑定結果は攻撃方法はないと言ってたが、それはそう書いてあるだけだ。もしあの大きさの匠さんが自爆すれば被害が甚大になるのは目に見えてる。洞窟の崩落だって考えられる。危ない橋はできる限り渡りたくない。
という事で作戦変更、消耗覚悟で女王を先に片付ける事にする。
ここで問題になってくるのがこの空間を埋めつくさんばかりの様々な種類の匠さん達だ。
女王はまだ、こいつらに比べてずっと先にいる。だからこそうまくたどり着きさえすれば女王を先に倒すという作戦が比較的安全に行えるわけだが、こいつらを超える事ができなければそもそも作戦が成り立たない。
まあ、考えはあるから心配はいらない。
残りの魔力を確認。やはり少ないが多少はある。この作戦を実行すれば残りの魔力はほぼ0になってしまうだろうが、仕方ないか。
物理超越。重力を反転。そしてある程度浮かび上がったところで重力の方向を変更。俺にかかる重力を女王に向ける。
うーむ、横向きに自由落下なんて普通じゃ考えられない体験だが・・・言ってしまえば飛行体験のようなもの。悪くない。
さてと、女王との接触まであと3、2、1...
「魔爪槍!!」
ズドンッ!ズドンッ!
「ジジジジジジジジジジジィィィィィィ!!」
おぉ〜苦しんでる苦しんでる。こりゃあさっさと逃げないとヤバいかもな。
そんじゃさっさと離脱、数メートルのフリーフォールくらいなら多少足がしびれるくらいで行動に支障はない。
一撃で仕留める事には失敗したが、今回はこれで問題ない。魔爪槍を女王に埋め込む事に成功したからな。
魔爪槍はその名の通り、魔爪でできた槍だ。簡単に言うと魔爪を束ねたものだ。今回は風属性の魔爪だったから風属性の魔爪槍になるな。
長さはおよそ1メートル、小さな敵に使ったら体に大穴が開いて即死するような代物だ。
だがこれの真髄は敵に大穴を開ける事じゃない。実際、今回の女王みたいな巨大な敵に対しては大きなダメージは与えられても殺す事はできないだろう。
ま、そこは問題ない。
特殊な仕掛けが施してあるからな。女王の死まであと5秒だ。
5、4、3、2、1、
・・・シャッ・・・。
ズズズズズズズズ・・・ドゴォォォォン!!!
女王の討伐、完了だ。