その2 見た目は直葬クラス
目を開ける。靄がかかったようでぼんやりしていて、あまりよく見えない。
・・・ん、待てよ?俺は確か彩華に殺されて・・・あれ?
輪廻転生は実在のシステムだった、ってことかな。いや知らんけど。
とりあえず今周囲がどんな状態なのか確認しないと。現状の把握が現在の最優先事項だ。幸い、目はだんだんと見えるようになってきてる。起きた直後に眩しい光を見て、目が慣れてくるあの感覚に似てるかな?
それでもどんな感じかわからないなら、そうだな◇涙で視界がぼやけて、涙が乾くにつれてだんだんと見えるようになるあの感じだ。そうそう、一部の奴らはわかるだろ。フラれた後のあの感じだよ。懐かしい感覚だなチクショウ。
あと数分もすれば完全に見えるようになるだろう。
さて、体は動くかな?・・・だめだな、全く動かない。
ていうか、自分の体がどうなってるのかすらわからない。実際、俺の体は今どうなってるんだろうか。
まあ、確認しようにも目が見えないんじゃしょうがない。どうせすぐに見えるようになるんだし、ちょっと一息ついて頭の中でも整理でもするか。
そう思ったその時、
ザッ、ザッ、ザッ
誰かの足音。
誰だ!? 反射的にそう叫ぼうとする。しかし、思うように声は出ない。かすれたような音が微かに出るだけだ。
俺の焦りとは裏腹に、足音は無慈悲にもどんどん近づいてくる。ついに足音は俺のすぐ目の前まで来てしまった。
脇のあたりをつかまれたかと思うと、次の瞬間には俺を襲う浮遊感。俺はその「誰か」に掴み上げられしまったようだ。
だめだ、まだ視界がぼんやりしてるせいで俺を掴み上げてる「誰か」の正体はわからない。輪郭が辛うじてわかるくらいだ。
少し視界の助けになるかと思い、何度か瞬きをしてみる。ちょっと薄眼で見てみる。・・・おっ、あと少しで見えそうだ・・・あと少しで・・・。
・・・・・・見えた!
まあちなみに、結論から言うと俺は、
「ひっ!?」
って感じの悲鳴をあげて気絶してしまったんだけども。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
目を開ける。今度は最初からちゃんと見える。意識を失ってる間に完全に見えるようになってくれたようだ。
体も動かせる。少し弱々しいが足にも力が入る。よし、立てそうだ。地面に手をついて、ぐっと足に力を入れる。よし、立てた。
ああそうだ、自分の体が今どうなってるのか確認しなきゃ。周囲を見渡しても鏡の代わりを果たせそうなもの無いから、自分の体を見下ろすことしかできない。顔とかは確認できないけど、胴体と四肢が確認できるだけ良いと思おう。
まずは手。普通の手。但し肌が黒い。黒人の肌色みたいな黒じゃなくて本当に真っ黒。そして爪が尖ってる。
次は足。普通の足。こっちも肌は黒い。それくらいか。
最後に胴体。今胴体を見下ろして気づいたんだが俺は麻のような素材でできたシンプルな服を身につけていたようだ。まあ良いや。おそらくさっき俺を抱え上げた奴が俺に着せたんだろうが、深く考えないことにしよう。
さて、改めて胴体を。服をたくし上げて確認する。普通の胴体。当然肌色は黒。 そして様々な色の幾何学模様の刺青のようなもの。
バッ!
素早く服を戻す。
いやいや待て待てどうなってんの!?俺は確かにハーフだけど黒人の血は入ってないしそんなレインボーでアーティスティックなタトゥーを入れるようなヤンキーじゃないし!
・・・落ち着け、落ち着くんだ俺。賢者・・・賢者になるんだ。あの虚脱感を思い出せ。
・・・・・・うん、ちょっと落ち着いた。とにかく今は現状の把握に努めるんだ。
周りを見回してみよう。何というか、普通の洞窟?地面は 普通の土で、壁はごつごつとした岩肌がむき出しになってる。
蝙蝠を実際に見てみよう!みたいな感じの企画の旅行で洞窟には行ったことあるが、まさにそんな感じだ。
だが、決定的に違うところが1つだけあるな。光源に困らないということだ。俺が行ったことのある洞窟は懐中電灯を消した時点で周囲が完全な暗闇に包まれた。洞窟の奥まで入ったことのある人ならわかると思うが、目が慣れるなんてこともない、完全な暗闇だ。
それは、洞窟の奥深くまでは外の光が届かないからだ。だから蝙蝠も目が退化して超音波を出して、超音波で周囲を感知できるように進化する。
でもここは、壁に所々澄んだ青色の結晶が埋まったり生えたりしていて、仄かな光を放っている。普通に観光名所になりそうなくらいの幻想的な光景だ。
にしてもここ何処なんだ?死んだ記憶はある。間違いない。今更俺は実は死んでなかったんだとか言うつもりはない。俺の体もどう考えてもおかしい事になってるし。ならば、此処はいわゆる死後の世界ってヤツか?
もう一回周りを見てみる。
ないわー。ここ死後の世界とかまじでありえんわー。
天国っていうともっと白くて、綺麗で、白くて、美男美女がいて、白くて、天使とかいて、白い所を期待してたんだが。ん?そうだよ、天国って言ったら白いくらいしかイメージ浮かばんよ。
え、 地獄? んなもん俺の辞書にはありません。地獄に落ちたとしても閻魔大王殺してても天国まで行ってやる。
ザッ、ザッ
ん、足音?また同じ奴が来たのかな?まあ、今回は大丈夫だ。流石に一度見たものをもう一度見て気絶するつもりは無い。
お、入って来なすった。
実に不思議、ちぐはぐな生き物だ。体の様々なパーツを別の生き物から取ってきたような見た目。
胴体は何かの毛むくじゃらながっしりとした生き物。両腕は鱗のあるトカゲのような腕。足は山羊のような足だ。
そして最後に頭、ここが1番やばい所で、俺が一瞬で気絶してしまった原因だ。
頭も足のように山羊なんだが蛸の触手のような髭がびっしりと生えてる。しかも目が真っ赤で禍々しく光ってるようにすら見える。
正直一瞬でSANチェックが入るレベルである。
まあ普通ならぎゃーとか叫んで逃げ出すところなんだが、人間あまりにもビビると一周回ってどっしりと構えていられるものである。
そうして余裕ができると当然相手に対して興味が湧いてくる。例えば、あれの首付近の蛸足部分はどうなってるのか、とか。
実際どうなってるんだろうか?あの触手は何処から出てるんだ?じっくりと首のあたりを見てみる。
うーん・・・そのまま生えてるように見えるな・・・。
そして、俺が目を首から顔に移した時にそれは起きた。
【鑑定に失敗しました】
【血縁者により情報の開示が可能です】
【情報を開示しますか?『はい』『いいえ』】
俺の視界の右端に出現する半透明なスクリーンのようなもの。そこに羅列されていく文字。よく分からないが、深く考えずに『はい』を押す。現代民はタッチスクリーンを押さずにはいられないのだ。
【確認しました】
【個体名ガズラの情報を開示します】
【名前】ガズラ
【種族】キメラ・限界種
【性別】男
【年齢】26
【レベル】56
【ランク】A+
【血縁により開示可能な情報はここまでです】
お、おぉぉ!なんか知らんけど出てきた!もしや、これはかの有名な「鑑定」というヤツでは!?よく見たら失敗してたけど!そしてあいつはキメラでガズラって名前なのか!
そして、どれどれ・・・そうかそうか俺と血縁関係のある人か。はっはっはっ・・・・・・は?
うん気にしない気にしない。見た目はあんなんだけどきっとすごく優しいに違いない。俺を持ち上げたのもとって食おうとしたんじゃなくて優しさゆえの行動だったはずさ。
まあこれで、俺があの人に襲われる心配はない事がわかったな。仮に家族も平気で殺すタイプの種族ならまあ、来世でいっぱいドンマイって言ってもらおう。
という事で一応は身の安全が確保できたって事で、自分にも鑑定をかけてみる。自分の体を対象にしてるからなのか、驚くほど簡単で、鑑定したいって思ったのとほぼ同時にスクリーンが出てきた。
【名前】カイ
【種族】リトルクソザコナメクジキメラ・弱小種
【性別】男
【年齢】0
【レベル】1
【ランク】G-
【体力・回復力】13
【魔力】8
【攻撃力】3
【防御力】3
【敏捷性】9
【称号】クソザコナメクジ 転生者 運命の赤い糸
【加護】転生神の加護
【スキル】
・通常:女運1 絶倫1
・称号:臆病1 危機察知1 獲得経験値上昇1 獲得スキル経験値上昇1 運命の赤い糸1
・加護:神託1 神格上昇1 魂容量増加1
・ユニーク:鑑定1
・種族特性:肉体変質1 他者吸収1 吸収強化1
【魔法】
へー、よくわからんがステータスの数値を見ると俺はおそらく、相当弱いんだろう。まあそれはいいんだ。これのおかげで俺がキメラに転生してあの人が俺の父親だと分かったし。
でもさ・・・称号とか種族名とか馬鹿にしすぎだろ!?泣くぞ!!