その18 一方そのころ~クイーン~
~クイーン~
その日、大変な事件が起きました。
国の民が2人増えたことで私を含めた一部のキメラが少し浮かれていた以外、至って普通の一日となるはずでした。事実、皆はいつも通りの平穏な日常を過ごしていたのです。
その2名を除いて。
それは結晶時計が刻む、昼過ぎ頃だったでしょうか。私がルナに眷属化をしてもらってから数時間後のことでした。
もともとルナは生活空間の外へ魔物を倒しに行くと言っていたのでその日は夜までルナの顔を見ることは無いと思っていたのですが。そのルナが、すごい勢いで私の部屋に入ってきたのです。
「クイーン助けて!!カイが!カイがいなくなっちゃったの!」
『!!どういうことですか!?詳しく説明しなさい。』
咄嗟のことで、あまりにも大変な事だったので口調がかなり強くなってしまいました。でも今はそんなこと関係ありません。
「私とカイで、外まで魔物を倒しに行って、そしたら、いきなり大きな魔法陣が現れてカイがいなくなっちゃたの!お願いクイーン、カイを助けてあげて!」
ルナはかなり慌ててここまで来たようで、息も絶え絶えな様子です。ですが、よくここまでつてに来てくれました。さて、ルナの頼みとあらば助けてあげるしかありませんし、言われなくともできる最善を尽くして助けます。大事な友達ですから。
『では、その場所に案内してください。』
当初私は自然発生した魔方陣による神隠し的なものだと思っていました。その場合は異次元に飛ばされるのですが、魔方陣の作りがかなり雑になるので魔方陣の出現場所に行くことさえできれば簡単に助けることができます。
しかし実際は、事態は私の思いもよらぬ方向に進んでいたようです。
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「ここに大きな魔法陣が現れたわ!」
ルナが言う魔方陣が発生した場所まで来ました。しかし、おかしなことに魔方陣がここで形成されたという形跡が微塵も感じられません。だとすれば、この魔方陣はかなり精密なものだったという事になり、自然発生した魔方陣による神隠しという可能性は完全に消えます。
他にはどのような要因で魔方陣は発生するでしょうか・・・。
私は記憶を辿ってみます。魔法陣は誰かが魔法を行使する、もしくは、何か強大な存在がいる場所や、惑星規模のエネルギーなどが集結している場合に発生します。この辺りに魔法陣を発生させるような何かがあったでしょうか?
そこで私は閃きます。いや、でも、そんな話があり得るのでしょうか?あれは完全に伝承の類いだった筈です。それに今まで誰もそこに落ちてしまう事は無かったので何か人為的な要因があることになってしまいます。
『魔法陣の色は、何色でしたか?』
「真っ黒だったわ!」
私の仮説が現実味を帯びてきました。これは私の部屋に戻って色々調べる必要がありそうです。
『ここで何が起こったのかは戻って調べない限りはっきりとはわかりません。でも私の仮説が正しければカイくんがまだ生きているのはほぼ確実です。安心してください。』
「ホントに!?よかった〜。」
まあ、人為的要因が無ければ今回みたいなことは発生するはずがないので、その人為的な要因を生んだのが誰なのかは不安材料として残りますが。言わないでおきましょう。
『まさか、カイくんの事、心配してるんですか?』
「ば、バカじゃないの!?私がそんなことするわけないじゃない!ちょっと大丈夫か不安になっただけよ。」
『それを心配だと言うと思うんですが・・・。まあ、いいでしょう。カイくんがおそらく安全なのはわかりましたが、いつ戻ってこれるかはわかりません。ですので、一旦戻りましょう。いいですね?』
「わかったわ!いつ戻ってこれるのか早く調べてね!」
ルナの笑顔のためには、頑張ってしまいますね。それに、私だって早くカイくんに帰ってきてほしいですし・・・。早く戻ってこれるようにこっちでもできることが無いか調べる必要もありますね。
さあて、部屋に戻ってからはもうひと踏ん張りです。
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私の部屋に到着しました。
ルナは一緒に居たいと駄々をこねましたが、家に帰しておきました。だんだん遅くなってきましたし、今からやることを見ても何も面白くないと思いますしね。
では、調べ物を始めましょうか。
まあ、調べ物と言っても書物を漁ったりするわけではありません。そもそもこの国には書庫と呼べるものが存在しませんし。もっと別の方法です。
その方法を言う前に、折角なので私の持つスキル、王権について解説しておきましょう。
王権とはその名の通り、王の権力を象徴するスキルであり、王に王としての権力を与え、王を王たらしめるものです。一言でいうなれば建国と国の運営を可能にするスキルです。私も、このスキルを用いて先代のこの国の支配者からこの国を受け継ぎました。
このスキルは、スキルレベルが上がるごとに新しい能力が解放されていくタイプのスキルなのですが、その能力というのが基本的に、国づくりに関わる便利スキルのようなものです。正確な体内時計然り。国民の状態把握然り。
さて、突然なのですが、この世界には世界図書館というものが存在します。世界図書館にはこの世の全ての情報が記されているとされています。情報量があまりにも膨大なので確認する術は存在しないともされているのですが。
さてここで本題ですが、実は王権により解放される能力には世界図書館閲覧権というものがあるのです。もちろん、禁忌と呼ばれる情報や世界図書館への干渉権を持つ上位の存在によって隠された情報などは見ようとしても閲覧不能と表示されるのですが、王権のレベルを多少上げるだけでほとんどの情報が閲覧できるようになる便利な能力です。
世界図書館閲覧権を行使するのはかなりの集中力を必要とする上に、行使している途中は体が完全に無防備になり、終わった後にかなりの倦怠感を感じるのであまり使いたくないのですが、今は緊急時。ためらうことなく行使します。
私は意識を全能図書に潜り込ませ、欲しかった情報を世界図書館に読み込ませさせました。
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【大魔王】
【名前はセレニティ】
【大魔王の他、一なる魔王や試練の魔王、調和の魔王などとも呼ばれている】
【他者に対して試練を与え、試練に成功したものに対して力を与えることによって強大な軍勢を築き上げたことで知られている】
【非常に愛情深く、人間の征魔軍に配下を殺された際には、怒り狂い全世界に戦争を仕掛けた】
【戦争の末、キメラの島の洞窟内部に勇者によって封印された】
【以後、伝承にのみ残る存在となっている】
【かつて勇者を擁した聖国の教皇は、征魔軍を編成する数年前から神の力を自らの物とすることに囚われていたとされる】
【神の加護を得られず、神の力を幽かにも手にすることが叶わなかった彼はついには自ら神を作り出そうとした】
【それが勇者であり、征魔軍が編成された本当の理由である】
【勇者は大魔王を討伐することに成功し、人類の賞賛を幅広く得たことで神格を手に入れ、神となった】
【それ以来地上には勇者を見た者はおらず、勇者は依然行方が知れないが、神となったことで天上界に昇ったという情報が教皇によって流されてからは、気にする者はいなくなり、勇者は神となった男として語り継がれるようになった】
【貴様はそのようなくだらぬ理由で我の友を殺したのかっ!!許さぬ、許さぬぞ!我のこの怒りと!憎しみが!いずれ廻って貴様らを撃ち滅ぼす強大な力の奔流となろう!!貴様は楽には殺してやらぬ!精々その時を自分の行動を後悔しながら待つことだ・・・】
【封印される直前の大魔王セレニティの最期の言葉である】
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私が目覚めたのは3日後でした。
そして目覚めた私の前には、何やら真剣な顔をしたルナ。
・・・あぁ、ルナたんはかわいいなぁ・・・。疲れた体に沁み渡ります・・・。