その14 その名は調和
それで、早く進化をして魔力量を大幅に強化したいところだから、例のごとく生活空間の外までやってきた。今回はガズラはいなくて俺一人だけだ。
もちろん俺は魔物を呼び寄せるスキルなんて使えないから自分で探し回って倒す魔物を見つけることになるんだけどこの辺は結構魔物が出るらしいから少し探し回るだけで大丈夫だろう。
そして歩き回ること約3分、出た。
【レッドエレメンタルスライム】
【火属性の魔力を体中に帯びたちょっとだけ強めのスライム】
【でも魔法は使えない】
【触るとちょっとだけ暖かい】
【魔力を込めると周囲にニトログリセリンをばらまく危ないヤツ】
それに続いて6体のスライムが姿を現す。
【ブルーエレメンタルスライム】
【水属性の魔力を体中に帯びたちょっとだけ強めのスライム】
【でも魔法は使えない】
【触るとちょっとだけ冷たい】
【魔力を込めると周囲に過冷却状態の水をばらまく危ないヤツ】
【グリーンエレメンタルスライム】
【風属性の魔力を体中に帯びたちょっとだけ強めのスライム】
【でも魔法は使えない】
【触るとちょっとだけ気流を感じる】
【魔力を込めると周囲に鎌鼬をばらまく危ないヤツ】
【イエローエレメンタルスライム】
【雷属性の魔力を体中に帯びたちょっとだけ強めのスライム】
【でも魔法は使えない】
【触るとちょっとだけしびれる】
【魔力を込めると周囲にβ波をばらまく危ないヤツ】
【ブラウンエレメンタルスライム】
【土属性の魔力を体中に帯びたちょっとだけ強めのスライム】
【でも魔法は使えない】
【触るとちょっとだけほかのスライムより硬い】
【魔力を込めると周囲に石礫をばらまく危ないヤツ】
【ホワイトエレメンタルスライム】
【光属性の魔力を体中に帯びたちょっとだけ強めのスライム】
【でも魔法は使えない】
【触るとちょっとだけ光る】
【魔力を込めると周囲に眩しい光をばらまく危ないヤツ】
【ブラックエレメンタルスライム】
【闇属性の魔力を体中に帯びたちょっとだけ強めのスライム】
【でも魔法は使えない】
【触るとちょっとだけ周りが暗くなるような気がする】
【魔力を込めると周囲に空間の光を奪う波をばらまく危ないヤツ】
それぞれが、自分の名前と一緒の色をしていて、半透明のちょっとつぶれたような球形だ。
そしてこいつら全員の説明文の最後の一文。危なすぎじゃないか?ニトログリセリンは衝撃に敏感な爆薬、過冷却水は衝撃を与えると瞬時に凍る水、鎌鼬は言わずと知れた自然の猛威、β波は高エネルギーの電子で放射線の一種、石礫は普通に危ないヤツ。最後の2つは知らんが。
まあ、全部の効果は条件として魔力を込めると、とあるから普通に戦えば問題ないんだろうが。とにかく、戦ってみないことには経験値は手に入らないからな。初めて戦う相手だから警戒しながらしながらだけど、戦ってみることにしよう。
ちょうどいいしな。微炎の直剣の試し切りだ。
微炎の直剣を構えた状態で7体のスライムにじりじりと寄っていく。スライムたちは何の反応も示さない。もう少し近づく。反応は無い。これを複数回繰り返して、ついに距離約3メートルのところまで来た。
未だに反応はない。もしかして外界を認識するための器官が備わってないのか?
だとしたら簡単だ。こいつらを一方的に叩いて終わりだ。まあ、警戒するに越したことはないからしっかりと警戒は続けるが。
先頭にいる赤いスライムを指先でちょんちょんとつついてみる。無反応。今度は微炎の直剣でつついてみる。反応は劇的だった。
つついた瞬間、
「ピュイイイイイイイ!!!!」
といった断末魔を残して空間に溶け込むようにして消えてしまった。後に残るのは拳大の赤くて半透明な結晶のみである。
・・・倒したのか?今ので?流石に剣先でつついただけで死ぬとか弱すぎやしませんかね?
まあ、いいか。これなら全部簡単に倒せるな。
というわけで残りのスライムもスパスパと切りつけて殺して、7匹分の結晶を回収した。この結晶がなんなのかは非常に気になるが敢えて鑑定はしない。楽しみは後まで取っておこうと思う。
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時は変わって約20分後。魔物をなかなか見つけることができなかった俺は偶然にもルナを発見してそこに合流、ルナと一緒に魔物を狩っていた。
なんでもルナは吸血鬼型という特性上血の操作に長けており、自分の血の匂いを周囲に広げることで魔物をおびき寄せることができるらしい。
ちなみに「匂い」は誤字ではない。普通は血の臭いと表現するところだが、なぜだかいい匂いがするからこっちの字で表現した。これも魔物になった影響だろうか?
「ところでルナ、ずっとゴブリンとかホブゴブリンとか狩ってるの流石に飽きてくるんだけど。」
「何よなんか文句あるの?あなたが怪我でもしたらどうすんのよ!」
「・・・もしかして心配してくれてるの?嬉しいねぇ。」
「な、何言ってんのよ!?このバカ!!」
ああ、こんなに美少女でさらにツンデレだなんて最高すぎる!おぉ神よ・・・私は今非常に幸せだ・・・。
この巡り合わせの良さはもう神の御業としか思えない。そう思って俺は神に祈りをささげた。作法とかは全く知らないがこの行き場のない感謝の気持ちはきっと届いてくれるだろう。
『ほう、久しぶりに霊体として顕現して地上に来てみたが、なかなか面白い出会いもあるものだな。なかなか面白い。だが貴様のその運命力は気に食わん。将来俺の障害となり得るほどだ。フン、ちょうどいい。俺が過去に封印した大魔王と一緒に封印されているがいい。』
え!?誰!?
・・・応答なしかい。
「カイ!足元に何か出てるわ!!」
はっ!?何だこれは!足元に煌々と輝く白の魔方陣が展開してる。魔方陣に接してる足からどんどん何かが吸われていく感じがする。
無意識のうちに膝をついてしまう。なんだこれ、意識が保てない。
「ちょ、ちょっと!?どうなってんのよ!カイ何とか言いなさい!何が起こってるのよ!?」
俺はルナのかわいい声を聞きながら、意識を手放した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
う・・・どこだここ、知らない天jy、天井ないやん。あの名台詞言わせてよ・・・。
まあいいや。で、何なんだここは?
周りが全部黒い・・・真っ黒な空間、というよりか虚無?AAAカップみたいな感じ?
まあ冗談はさておき、空間全体を見回してみる。壁とかはなさそうだな。ずっと真っ黒が続いてる。
そして周りを見渡していると、ある事に気づく。自分の内側のどこかから、何かが呼びかけてくるのを感じる。その呼びかけに意識を向けると、それが闇魔法のスキルだということがわかった。
闇魔法のスキルが教えてくれる。この空間は闇魔法の根源属性、吸収が異次元の空間に複雑に影響を及ぼすことでできてる。
おそらくこの空間の主や相当に強力な存在以外にはスキルの使用は不可能だろう。すべての効果がこの空間に渦巻いてる吸収の力に奪われてしまう。この真っ黒だって単純に何もないんじゃなくて吸収の力の強大さの影響で存在の余地すら与えられてないんだ。例えるならば超強力なブラックホールだろうか。
逆になんで俺という弱い存在がまだ俺という形を保ててるのかが不思議なくらいだ。
どうしようもないな。何とかしないと絶対にここからは出られないぞ。さてどうしたものか・・・。
「何やら困っておるようじゃな。」
「っっ!誰だ!?」
「まあまあ、そう警戒するでない。我は過去、一なる魔王、大魔王と呼ばれていた者じゃ。こう見えても数千年前は全世界を恐怖に陥れた魔王として知られておったのじゃぞ?私の名を聞いた者は老若男女問わず誰もが畏怖し恐れおののいたものじゃ。して、貴様はなぜこのような場所におるのじゃ?」
大魔王!?ヤバい・・・ガズラに魔王様だけは怒らせてはならないって教わってたのに、完全にタメで話しちゃったよ・・・。
「えっと、急に誰かの声が聞こえて来たかと思うと足元にいきなり魔方陣が現れたんです。それで、気づいたらここにいました。」
「そうか、そうならば我の封印も弱まっておるということじゃな。小僧、どこから来たのじゃ?」
「キメラの地下洞、その生活領域のすぐ外です。」
「そうか、ならば詫びねばならんな。我は勇者から逃げ出し、その洞窟に逃げ込んだのじゃが結局力尽きて勇者に封印されてしまったのじゃ。小僧、貴様はちょうどその場所で勇者の霊体と出くわして勇者にここに入れられたのじゃろう。封印が弱まっておったのじゃろうな。いくら勇者といえど霊体では強固な封印を部分的に破って別の存在を入れるのは無理じゃろうからな。さて、詫びの物じゃ。何がほしいか?」
え、何かくれるの?ちょっと畏れ多いけどそうだな・・・魔王様声からして・・・
「なるほど、実はちょうどある者から今連絡を受けておってな、出るあてがあるのじゃ。じゃが、貴様のその願い、決して叶えられぬものではないがその代価は大きい。実は我の肉体は今各国に分けて保管されておるのじゃが我は自分の完全体を取り戻したい。貴様が我の仲間として各国を侵略し我を完全体として復活させると約束するのならば貴様のその願い、この大魔王セレニティが確実に叶えてくれよう。誓えるか?」
「もちろんです!ではまず第一、俺はここからどうやって出ればいいんですか?」
「我のスキルで貴様に試練を与える。魔王が他者に与えることができる特殊な試練じゃ。それを無事達成できれば貴様にもここからは出れるだけの十分な力がついておるじゃろうし、適切なスキルも手に入るはずじゃ。」
そう言うと同時に空間の裂け目とでもいうべきものが俺の眼前に発生する。
「それは力の譲渡を可能にする空間じゃ。中で試練を与え、それを達成した者に我の力の一部が服製されて譲渡されるのじゃ。その力を使えばここから出られるじゃろう。」
「魔王様自身がその力を使って脱出できないんですか?」
「我は封印対象、貴様はあくまでも異物じゃ。かかってる封印の強さが格段に違う。それと小僧、我が魔王だったのは過去のことじゃ。我の事は魔王様ではなく、セレネ様と呼ぶが良い。」
「ありがとうございます!セレネ様!それじゃ、頑張ってきます!」
「うむ。じゃが、最後に1つ。貴様をここに落とした者、そ奴は悪の神の一柱で人間からは勇者とも呼ばれておる。気をつけるのじゃぞ。では、行って参れ。」
そして俺は、セレネ様に開けてもらった空間の裂け目に足を踏み入れ・・・
転移(?)する時って必ず気を失うのか、また意識を手放した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
うぅ・・・頭がガンガン痛むぞ・・・。
目を覚ましたのはいいがこの痛みは一体なんなんだ?
原因か何か解決できそうなスキルが無いか、ステータスを開いてみる。鑑定!
【名前】カイ
【種族】リトルクソザコキメラ・転生種
【性別】男
【年齢】0
【レベル】4
【ランク】H-
【体力・回復力】122
【魔力】119
【攻撃力】117
【防御力】117
【敏捷性】121
【称号】クソザコナメクジ 転生者 運命の赤い糸 同族喰らい 外道 悪食 逃げ腰
【加護】転生神の加護 鍛冶神の加護 大魔王の加護
【スキル】
・通常:色欲者2 筋力2 魔術師2 集中3 六感強化4 高速機動2 下級鍛冶6 魔剣創造4 鍛冶確率強化4
・称号:臆病2 危機察知2 全経験値量上昇2 運命の赤い糸1 胃強化2 同族殺し1 敵痛覚強化1 死体冒涜1 解毒1 神蝕1 オーラ1
・加護:神託5 神格上昇1 魂容量増加1
・ユニーク:鑑定2 合成1 転生法1
・種族特性:肉体変質2 強力吸収2 物理超越1
【魔法】炎魔法1 闇魔法1 獄炎魔法1
【形態】角2 脳2
【被眷属化】ルナ1
レベルとスキルがいくつか上昇してる。これはルナとのレベリングの成果だ。だがステータスの伸びが明らかに異常。まあ、ちょっと調べるだけで原因は簡単に判明したが。
【大魔王の加護】
【我が今までに加護を与えたのは貴様だけじゃぞ。誇るが良い、小僧】
【全ステータス100上昇】
【大罪系統のスキルを獲得しやすくなる】
【大魔王の知識を得る】
【その知識量は余りにも膨大なため、一時的に脳の処理が追いつかなくなり、一時的に激しい頭痛に襲われるが、数分もすれば痛みは引く】
【かつて大魔王セレニティは愛での治世を試みた】
【しかし、勇者によって悪の存在として仕立て上げられ、そのまま人間に封印されてしまった】
【永い封印の時間の中彼女は何を思ったか、少なくとも予想外の客人をうれしく思ったのは間違いない】
【獲得時点で神蝕、オーラを獲得する】
【神蝕】
【神や神話生命体、英雄などを殺した際にその神格の一部を吸収する】
【吸収量はスキルレベルに依存する】
【オーラ】
【魔力を纏って様々な効果を得る】
【自分より弱い敵対者が寄り付きにくくなる】
【属性魔力をまとう事で様々な肉体性能の強化が可能となる】
ああ、原因はセレネ様の加護で間違いなさそうだ。でも痛みは数分で引くらしいし放置でいいか。
それよりさっさと現状を確認せねば。リソースを正確に把握しないと何も行動には移せない。
周りは洞窟になってる。小さな空洞で、出口は1つ。その出口はこの洞窟の奥に通じてるっぽいな。鑑定!
【大魔王セレニティの試練の洞窟(セーフゾーン)】
そしてその時気づいた。出口の正反対の位置の壁際に何か転がってる。何だろうか?
見てみると紙切れだった。そこにこう書いてある。
〈悪いの、餞別を渡し損ねておったようじゃ。今更何かを渡すことも出来ぬし、かわりに特別な知識を与えよう。スライム族の核に魔力を流し込むとそのスライムを従えた状態で復活させることができるぞ。さらに、魔物である貴様は魔力を食べれば生きていけるが、スライムは完璧な魔力源になる上にすぐに再生する。微々たるものだが食べることで経験値も手に入る。この情報をぜひ活用するといい。〉
読み終わった瞬間に、紙切れはボロボロになって消えていった。
じゃあ魔力を流してみるか。
まずは試しにレッドエレメンタルスライムの核を取り出してそこに魔力を流す。瞬間、核がまばゆい光を放って視界を埋め尽くす!
光がなくなるとそこには・・・スライムがいた。でもちょっと色変わった?