プロローグ
思い付きで書いてみました。
奇しくも今日はバレンタインデー。私はリア充を殲滅しなければいけませんね。皆さまはどうでしょうか?貰ったり、あげたりするのでしょうか。
いや、しかし。こんな習慣を作ったのは誰なのか。
リア充、爆発しろ。
やめて、くれ。それを、見せるな。
人間の脳は、悪いことはすぐに忘れやすい仕組みをしているらしいが、本当にそうだろうか。
いや、正確には毎月のように訪れるから忘れることなどできないか。
この体験を、数年前……5年ほど前に初めてしたのだが、まるで忘れる気配がない。毎日意識しているからだろうか。いや、そんなことはない。
毎日ではない。一か月頻度でこのユメを見てしまう。月の、最後の日に、得体の知らない黒い影がカウントダウンしてくる。
その、影のカウントダウンが0になった11月30日、俺は------
◇
高校二年生、11月29日。
いつもは授業中睡眠学習に入る俺なのだが、月の最終日だけは絶対に寝たりなんかしない。
その理由はいたって簡単。カウントダウンが進んでしまうかもしれないからだ。
そもそも、カウントダウンとは。俺の呪いのようなものだ。きっかけなどないが、小6のときから60のカウントが月の最終日に1ずつ減っていく謎現象が発生している。ちなみにその日にオールなどしようとしても、何故か、絶対に眠ってしまうから絶対にカウントダウンが進む。
0になったらどうなるかなど俺が知る由もない。
だが、好奇心で俺がカウントダウンを進めようとなどするわけがない。何が起こるかわからない。良きか悪きかなら、必ず真ん中を選ぶ。下手にリスクを負い良きを取ろうとする行為は無意味、愚かである。ハイリスクハイリターン。
しかし。カウントダウンの終わりなどなど法則を掴み計算したら小学生でも分かってしまうものである。小6の11月30日、俺の誕生日。カウントダウン始め。一か月後、59。一か月後、58。
すなわち、明日、カウントダウンが0になる。これは抗えるものでも何でもない。まぁ、抗うも何もどんな現象が起きるかも謎な訳だが。
そんな思考を頭のなかで張り巡らされていると6時限目の終わりを告げるチャイムが鳴る。
「では、号令を。委員長」
古文担当で担任の竹野が……竹野先生が号令を求めてくる。
「はい、起立。気を付け、礼」
こうして、帰宅部である俺の今日の学校生活も終わる、と思っていたのだが……
「少しいいかな?高梨君」
……担任に帰宅を引き留められた。
◇
「悪いねぇ。忙しそうなのに」
「いえ。暇なので」
適当に愛想を振りまいておく。今日カウントダウンで死ぬにしても担任に悪印象を抱かれるのは良いことでもないからな。あえて自分が進む道を歩きにくくする必要もない。
「それは良かった。さすが高梨奏だな」
今更だが、俺はクラスの委員長をしている。理由はいたって簡単である押し付け。この俺が自分からそんな役職を望むわけがない。残りの副委員長などは仕事がないに等しいので簡単に決まった。というか、なんでさすがなんだ。
「いえ。そんなことはないですよ」
「謙遜しなくてもいい。期末も学年1位を維持しながら、見事な結果だったしな」
「あははは……」
今季のアニメはあまり評判が良くなかったから、あとからまとめて見ようとしていたら暇でしょうがなかったから、課題を早めに終わらせて復習をしていたら、いつもより点が上がっていただけの話だ。
ちなみに、全教科ほぼ満点だったが、英語だけが95点というのはあまり言いたくない。古文は、2位と5点差をつけて1位であった。その他も教科別2位以下という結果はなかった。
「で、要件とは?」
「ああ。これを運んでほしいだけだ」
教卓に積まれた課題のことだろうか。まぁ、これくらいなら……
「あと、これも」
教卓に置かれた課題の約2倍の量を竹野先生が持ってきた。……重いわ。
「じゃ、よろしく頼むぞ。俺の机に置いていてくれればいい」
「はい。わかりました」
その後、二階の教室から二回に分けて課題を職員室に運んで、俺は無事帰宅するのだった。結局委員長とか言うのは、ただのパシリである。
◇
家に帰り、自宅に籠る。ここまでの話でだいたい察してくれていると思うが、今日カウントダウンが0になる。0になったら、どうなるとかそういうのは知らないがいつ何が起きても良いように録りためていたアニメを一周する。
◇
「ふああああ……そろそろ、12時か」
現在、11月29日、11時30分。丁度録り貯めていたアニメを全て見終えた。あと30分で絶対に眠ってしまうので、どうせ寝てしまうならベッドで寝た方がいい。俺は、ベッドに潜り込む。
明日、誕生日を迎えられるかわからない。もしかしたら---。だがしかし、俺はそこまで生への執念というものがない。バカなやつらが軽はずみに死ねとか死にたいとか言う、そういうのではない。
この世界がつまらない、飽きている、などという俺理論の哲学にこれ以上は縺れていくので思考を止める。正直、一言で言えばつまらない、飽きた、で収めることが出来る。
あと、10分。電波時計であるから時間に狂いはないだろう。
ああ。俺はどうなるのか。少しだけ、不安が心の中を満たす。そんな心中を少しでも抑えるために英単語を暗記し始める。
バカ真面目、とでも言われそうだが、別に俺だって最初から真面目であったわけではない。むしろ、中学生のときは勉強が嫌いでしょうがなかった。
だが、今、この状況下ではカウントダウン後にどうなるのか、それを予想しているより英単語の暗記をして次の定期テストでパーフェクトスコアを出すことを考える方が心が落ち着くのであった。
声に出して、暗記をしていたらあと、3分。
教科書を閉じて、ベッドの外、床に放り出す。
「ああ。怠い」
なんだか、カウントダウンに促されて眠るのも癪なのでベッドから出て明かりを消すことにする。意識を放り出そうとするが、それを意識した途端眠れなくなる。良くあることであろう。
携帯を起動させて、時間を確認。あと、40……2秒。
ダメだ。やはりこうして意識してしまうと眠れない。俺は冬場だからと言って押入れから引っ張り出してきた分厚い布団を頭の上から被る。
あと、4秒。
ああ。ダメだ。やっぱり、強制的に、やられ、る。
◇
黒い影。黒い影が、俺?の目の前、に?ああ、カウントダウンであろう。俺は月末にこの光景を59回見てきた。
『どうせ、今回もカウントダウンだろう。早くしやがれ。最後の数字を、出せ』
通じているのか知らないが影は俺のもとに寄ってくる。
『なんだ。どうかしたのか?』
『…………な』
『……?』
『なぜ、そんなに焦っている……?』
『焦っている?俺が?何をバカなことを言っている?そんなこと、あるはずないだろう。それにしても驚いたな。まさか喋るとは思わなかった』
『これ、転移神様に貰った力。私、転生神様の下僕』
神、ねぇ。転移神、なるほど。だいたい読めてきたが、ここはもう少し雑談に高じるか。
『ふむ。その偉大なる転移神様の下僕さんは俺に何をご所望だ?』
『私の知ることでは、ない。私はただの下僕』
『でも、今日カウントダウンが0になるのだろう?俺はどうなるのだ』
『それも、私の知ることでは、ない』
ああ、イラつく。が、それを表情には出さないように努める。
『では、君は今から何をする?』
『儀式、行う。終わったら、転移神様のところに、送る』
『送ってどうする?俺をどこかに転移させたりでもするのか?』
『私の知ることでは、ない』
意外に質問ができないというのはきついものだな。まぁ、この儀式とやらは受けてみるか。あとは、何か俺に不都合な事があったら意見するとしよう。
『一瞬で終わる。何もしなくていい。動かないで』
『分かった』
そう言うと、いつものカウントダウンのときのように身体が一瞬火照ってから、眼前に0の数字が表れる。その数字もすぐに消えた。
『終わった。あなたの世界……国の文字、出たと思う。じゃあ、送る』
そう影は言うと、俺の意識は一瞬途切れて---
◇
俺は、いったい。ベッドに入って就寝してから、どうしたのだろう。
ああ、思い出した。転移神の下僕とか言う黒い影に儀式を施されて、送る?と言っていたな。ということは、話の流れから多分転移神のところだと思うが。
『ああ。やっと目を覚ました。それにしても、綺麗な顔してるね。君』
『誰だ?』
だいたい察しは付いているが、形式上聞いておいた方がいい。
『おっと。ごめん。僕は、転移神ラゼ』
『で、その転移神さまが一体何の用だ。あと、カウントダウンについても詳しく教えてもらいたい』
『ああ、大丈夫。全部説明するけど、まず一つ、唐突にこんな事態に巻き込んでしまってごめん』
一応、しっかり礼儀は出来るみたいだな。だが……
『そんな言い方をしなくてもいい。最初から俺が目的だろう』
『あ、あはははは。バレちゃったか』
脳みそはこんなことが見抜けないような奴だと俺のことを思っているほど腐っているらしい。
『君は、第50界にいるような器の持ち主でないと思っただけ、僕の気まぐれで呼んだだけなんだ。つい数時間前にね』
『待て。専門用語やら何やらいろいろ分からん。まず、第50界というのを教えてもらおう』
『ああ。そうか。そうだったな。確か何年前かにキリスト教とやらにその存在自体の概念を消されたのだったのだな』
ん?こいつの時系列、おかしくないか?キリスト教とかは知らんが、カウントダウンの件で少し考えたんだが、数時間前?俺にとっての5年がこいつにとっては数時間?
『第50界とは、君のいた世界の事を指す。第50界はすべての世界の中でもっとも文明が進んでいるが魔法などの能力が使用できない』
『第50界ということは、ほかにも複数世界が存在するということか?』
『ご名答。まぁ、ほとんど壊滅してるんだけどね。残っているのは第50界のほかに10の世界かな』
ふむ。勉強になった。
『では、次に。器とはどういうことだ?人柄でもないだろう。自分で言うのも何だがあまり性格は良くない』
『50界以外の世界の住民は亜人種以外は魔力を保有しているわけだが、その中でも器という魔力を保有するための、そうだな。コップみたいなものが大きいほどより多くの魔力を有することが出来る。君に言ったのはそういう器だよ』
『そして、その器を有意義に使って発展を促してもらうために他の世界に転移してもらいたいと。ベタな話だな』
『君のその明解な頭脳も素晴らしいと思っているよ。この世界で終わるのは惜しい』
全く、実に自分勝手で人に迷惑をかけるタイプだな。俺の嫌いなタイプである。自分のために行動するのはいいがそれに伴い人を巻き込むのはいけないことだと俺は教わってきた。
『断る。俺は今の環境で満足しているからだ。それをあんたの身勝手かつ俺に不利益な願いなど承諾する必要もない』
『えぇー。そんなー。でもさ、君の言い方だと自分に利益さえあれば僕の願いを了承してもいいみたいな言い方だよね』
『それはそうだろう。何故自分にメリットがないことを人のためを思ってやらなければならない?』
『うん。僕が思っていた通りの人間だ。むしろそのほうがいい。あれで君が了承していても気持ち悪いだけだ』
ラゼが笑いながら話す。あんたの方が気持ち悪いがな。
『君は何がほしい?財産か?名誉か?何でも望みのものを上げよう』
『そんなものに興味はない。そんなもので俺が釣れると思っているのか』
財産や名誉など努力すればどうにでもなる。
『俺は努力しても手に入らないものが欲しい。無論、そんなもんはないだろうが』
『神の領域に至る力でも欲しいというの?まぁ、それくらいならいいけど』
こいつは、ここまでして俺を別の世界に、異世界に転移させることにメリットはあるのか?
『そんな力があったらイージーモードになっちゃうだろうが。バカなのか?』
『例えの話だよ。それじゃあどんな対価が欲しいんだい?』
対価、ねぇ。そもそも転移なんてしたくないのだが。まぁ、大してあちらの世界に居たいという気もないが。
『魔法が使えるなら行ってやってもいい』
魔法という言葉が、俺の中二心を揺さぶっていた。使えると言っても最初からバカみたいなのが使えるチートは論外だが。
『ホントに!?そんなのでいいの?でもさ、異世界に行ったら自動的に身体が順応して魔法、というか魔力が使えるようになるよ』
『その変わり、その世界の発展に尽くすとかそういうのは無しだ。あくまで俺の見分を広めるためだ』
『むぅ……まぁ、僕の身勝手だし別にいいんだけどさ。ほんとにいいの?』
『いいと言っているだろう。ああ。ついでに黒いベンチコートと手袋を付けてくれ』
『なんで黒なの?』
『目立たないためだ』
『ああ。なるほど。いいよ』
あー。あとあれだ。ちゃんとフラグは潰しておこう。
『転移先は安全なんだろうな?変な場所だったら呪い殺してやるぞ』
『だ、大丈夫だよ……街の最寄りの森に転移させるから』
『どうせあれだろ。魔物とかいる落ちだろ』
異世界転移系でよくある落ちだ。一応聞いてみる。
『いると言っても子供が倒せるようなスライムくらいだよ』
『俺でも倒せんのか?それ』
『大丈夫。転移した場所から200メートル直進したらすぐ街だから』
『200メートルって。これまたかなり微妙だな、おい』
『走れば一分もかからないでしょ?大丈夫だよ』
『まぁいいか。じゃあ早く転移させろよ』
『いいよー。よいしょっと』
あ、もう一個聞いとくか。
『俺は元の世界に戻れんのか?』
『身体は違うと思うけど死んだら魂をそのままにして転生するように頼んであげてもいいよ。あっちの発展に尽くしてくれたら』
『死ね。とっとと消えろ』
そんなことなら絶対にやってやらん。というか俺が人のために働くことはない。
『そんな怖い目をしないで。じゃあもういいかな?』
俺は頷くと、俺の身体を目が眩むほどの光が包み始める。
そして、俺の意識はまた途切れるのであった。
◇
『全く、かなり骨の折れる奴だった』
奏に悪態をついてから、転移神ラゼはニヤリと口に弧を描いて何者かにこう言った。
『高梨奏。第26界に転移させたよ。じゃあ、あとのお世話はよろしく』
3/6、主人公の名前を一部修正しました。
3/8、プロローグ2とくっつけました。一日遅れてしまい申し訳ありません。