親子 男爵と対面する
屋敷の門構えに圧倒され、重厚な造りにも圧倒され、目の前のリーノ男爵にも圧倒される。男とばかり思っていた。
この世界の住人全員が美形というわけではないが、目の前のリーノ男爵は可愛いと言ったほうがしっくり来る。年齢は俺より10歳は上だろうか、40前半ぐらいだ。俺の首ぐらいの身長に丸顔、目が柔らく、纏う空気も包み込むように柔らかい。可愛いおば、お姉さんだ。
要らない想像のせいか、少しだけ背筋が震えてしまった。
「お久しぶりでございます、リーノ男爵。この度は援軍の召集ありがとうございます」
「エルザちゃん、ローレット辺境伯を信じなさい。アラビックの狂人の浅知恵でビグスを落とされるほど甘い人ではないわ。それより、まずは座りなさい。顔色が悪いわ」
エルザとリーノ男爵が向かい合うように座る。
「辺境伯なら援軍が無くとも二ヶ月は篭城戦をこなすでしょう。もちろん、迅速に援軍を組織して出発させるわ。城壁に阻まれて、後方を私たちが撹乱すれば狂人どもは簡単に逃げ出すわ」
「それでも、私は不安なのです。父や精鋭達が簡単に城壁を越えさせるわけないと思います。でも、戦に絶対はないと・・・」
「不安はわかりますよ、エルザちゃん。明日の朝、騎兵のみで先行。昼に歩兵を出発させますから。今は私たちができることを今は最大限行いましょう」
「はい。リーザ様、よろしくお願いします」
体の力が抜けたようにエルザがふらついたので、倒れないように支えた。
「ここまで来た疲れがでたのでしょう、部屋を用意するから休みなさい。大丈夫、あなたを置いて勝手に救援に向かったりしないわ。だから、朝までゆっくり休んで、出発に備えなさい、食事や湯浴みは侍女に指示しておくから」
「ありがとうございます。この二人は、」
「ハルドから詳しく聞くから、あなたは先に休みなさい。悪いようにはしないわ」
「お心遣い、感謝します」
侍女達がエルザを連れ男爵の応接間を出た。ドアが閉まり、リーノ男爵とハルド隊長と俺達親子だけが残された。
「さて、大まかな話はハルドからの連絡で聞きましたわ。コージ殿はエルザに召喚された人。私が口出しすることではないけど、今後はどうするつもりかしら」
エルザがいたときとは違う顔で聞いてくる。そして、この目は完全に俺を見定める目だ。
「今後についてはまだ決まっていない。元いた世界には帰る場所が無くなったことは俺もカケルも理解しているが、こちらの世界について知識が乏しい。正直に言うと、エルザやあなたを完全に信用しているわけではない。一方的に利用されるのも、後ろから刺されるのも避けたいと考えている。今は俺だけの命ではないからな」
言い方はきつくなってしまったが、どうするのが俺達にとって最善なのかが判断できない。簡単にエルザに肩入れしてしまうことで、多くの敵を作ってしまう可能性もある。
「エルザに召喚されて、情報も無しにここまで連れてきたあなたは、言葉と裏腹にお人よしのようですね」
「俺達がいた国は、和を以って貴しと為す、を古くからやってきた国だからな。自分に余裕があり、困っている人がいたら助けるさ」
「お父さんの言うとおり!困っている人がいて、助けてあげられるなら助けるの」
「そうなのね。少し、あなたたちのことがわかったわ」
「それは何よりだ。ここまでエルザをつれてきた事を恩に着せるわけじゃないんだが、今後の身の振りを考えるためにも色々と教えて欲しい」
忙しいリーノ男爵の勧めで、屋敷の執事を借り、夕食までの間思いつく限りの質問をした。