親子 少女と町へ
今私が乗っている馬車はクルマと言い、馬以外の力で走る馬車らしい。私が魔法学校へ入学のために乗っていた馬車と比べて、乗り心地が比べ物にならないくらい良い。そして、馬車と比べても圧倒的に早かった。
交易路として使われている路を車が走る。景色がどんどんと後ろに流れる。
「エルザ、前に馬車がいるんだが、避けて追い越せばいいのか?」
馬車一台分の路しかないため、普通は前の馬車に話をして、後ろをついていくか前の馬車に横にずれてもらい止まったところを追い越す。
「馬車から見たらこのクルマは魔物ですから、できるだけ刺激しないよう迂回して抜かしてもらうほうがいいと思います」
「了解。少し揺れるから、舌噛まないように口閉じとけよ」
路から外れ、草の絨毯を走り始める。前を走る馬車から遠ざかりながら走っているとやはり魔物と勘違いされたか、矢が射掛けられた。
窓ガラスやドアに矢が当った音がしたが、割れたり刺さったわけではなさそうだ。
このクルマは防御力が高いのだろう。速く動く魔物に矢を当てる技術を持つ者の力が素人の訳が無い。
「ましな路に戻ったから、話しても大丈夫だ。エルザ、ここがどの辺りかわかるか?」
周りを確認しながら目印を探す。森と路の間に一本の白樺が立っているのを見つけた。
「あの白樺で昼休憩して出発すると、夕方にはリーノ男爵がいるキーレの町に着くくらい」
「馬車が時速10キロで、日の入りまで6時間なら、この車で1時間半あれば余裕で着くな。エルザ、俺達も町の中に入れるのか?」
コージさんに言われて初めて気がつきました。召喚で呼んだため、二人の身分証も無ければ、町へ入る為に支払うお金も無い。私も身分を証明するものがお父様からいただいた懐剣しかない。
「身分証や無い場合はお金を払わないといけないの。町の外で待ってて、リーノ男爵に掛け合うから」
車を走らせること1時間、車に時計付いているから時間はわかった。開けた視界の奥の方に日本ではお目にかかれない町を囲う壁が見える。
「お父さん、壁見えた!」
「カケル君、あれがキーレの町の外壁よ。このまま路を行けば西門が見えるから、そこから入りましょう」
エルザは目的地が近づいたため、興奮していて色々見落としているようだ。
「まだ距離はあるが、ここからは歩くぞ。車で近づけば魔物と間違われるんだろ?」
「そうだった。ここまできて門で足止めは困る。時間はかかるけど歩きましょう」
車を収納することを想像すると、召喚したときの逆再生のように煙が発生し収縮し消えた。煙の中の車もきれいに消えていた。
「車庫要らずだな・・・・」
車の収納をしているうちに、他の二人は門に向かって歩き始めていた。
追いつくよう少し早めに歩く。城壁が近づいてきた、門の前に列ができているのが見える。こっちの世界の初都市だ、少し緊張してきた。
列の最後尾が見えたが、その横を素通りして門の警護をしている兵に話しに行く。ここはエルザに任せたほうが良いのだろう。
「すみません、ハドル隊長はいらっしゃいますか?」
「君は誰だい?隊長を呼んでくるにも名前を聞かないとね」
ずいぶんと腰の低い兵士だな。本人の資質か、それとも教育か。
「信じていただけないかも知れませんが、ローレット辺境伯爵の次女でエルダと申します。ハルド隊長と以前お会いしたことがございますので、お呼びいただくか案内していただけると助かります」
「かしこまりました。何かご証明できる物はお持ちでしょうか」
「これをご確認していただければ信じていただけるかと」
エルダの手には大きいが、鞘に入った包丁サイズの剣を取り出し渡した。
「詰め所の入り口まで同行してください。護衛の方もご一緒に」
腰の低い兵士に案内され、詰め所へ向かい入り口で待つ。
城壁に囲まれた町は新婚旅行で行ったヨーロッパの町並みを思い出させた。
「すごい!木じゃなくて土の家だ!」
「これはな、レンガって言って、土を固めて焼いたものを重ねて壁にしているんだよ」
既にレンガでできた建物に興味が失せたようで、行きかう人々を興味深そうに見ていた。
「エルザ様、お久しぶりでございますな。ビグスの件は早馬で伺っております。リーノ様は既に兵の招集をかけられており明日の昼、救援に向かわれることを騎士たちに指示しております。で、こちらの方々はどなたですかな」
「この二人は、私が召喚魔法で呼び出した人族よ」
「俺はコージ、それと息子のカケルだ」
「ここに来る途中で盗賊に襲われて、ジーノたちが殺されてしまったの。私一人ではここに来ることもお父様の下へ帰ることもできなかったから、召喚魔法を使ったのよ」
「そうなのですか。今リーノ様は救援の準備をされておりますが、エルザ様の到着をお待ちになられておりましたのでご案内いたします。コージ殿、警備上とは言え、素性を疑うようなマネをしてしまい申し訳ない」
「気にしなくていい。服装からして怪しい人間に見えることは仕方ない」
「そういってもらえると助かる。では、これからリーノ様の所に案内する」