二人 脱走のプランを手に入れる
体が揺すられ起こされた。皓太が視線で事態を知らせてくれた。
俺達を連れてきた騎士たちが奴隷商らしい者達を連れて門から出てきたようだ。
乗客や船のクルー達は疲労や空腹から座ったまま視線を送っていた。
「これからお前達を奴隷商に売り渡す。女は門の方へ来い、子供もつれて来い」
騎士が大声で叫ぶ。ゆっくりと女子供が門へ近づいて行く。200人くらいいるのだろうか、奴隷商らしい三人が兵士を連れて女子供の首に色のついた布を巻きつけていった。
老人や肥満体系な女性は省かれたようで、騎士に何かを渡し、連れて行った。
「男ども、門の方へ来い」
もう一度騎士が叫んだ。
俺達は言われるがまま門へ向かう。奴隷商らしい者達が13人いた。色の着いた布を手に持っていたが、それぞれ違う模様が描かれている。
次々と布を男達の首に巻いていく。一人だけ、怪しい動きをする商人がいた。騎士と兵を連れ、他者が選んだ奴隷の布を解き別の布を兵士に巻かせる。
騎士は笑いながら追随していた。そして、その集団が目の前に来た。
「黒髪・黒目のおもちゃも欲しいわね。この二人に布を巻きなさい」
背筋が凍る。横の皓太も身震いしているようだ。
「お前たち、喜べ。このお方は、王都で貴族御用達の男娼を経営されているお方だ。もちろん客はほとんど男だがな」
騎士は説明が終わると、俺達の反応が面白かったのか大笑いを始める。
お尻の穴がキュっとなる。予想はできたが当って欲しくなかった。
「王都に戻ったら、欲しがるようになるまできっちり躾けてあげるわ」
恰幅が良すぎる商人が俺の尻を撫でながら、ゆっくり後ろを通り過ぎていく。
「ひぃ!」
「あら、敏感なのね。王都に帰るのが楽しみだわ」
皓太も同じ目にあったようだ。そして、気に入られたことにご愁傷様。
奴隷商の布が巻かれた俺達は町の中へ通された。
後に残された老人や肥満体系の男女が気になり、振り返る。なぜか、馬で牽くことができる牢が用意され詰め込まれていた。
壁に囲まれた町はテンプレだった。土が剥き出しの不衛生な路にレンガ造りの町並み、草原を歩いているほうがマシだと思わせる匂い。
トイレ文化が根付いていない町だ。
他の人も鼻を押さえたり、えづく人も多い。
現代の日本人や欧米人は免疫力が低下しているから、リアルファンタジーでは早死にしそうだ。これも含めて状態異常任意解除だったのか?
と、能天気に考え事をしていたら広場に連れてこられた。
「昼にここを発つ、それまで広場から出ないように。それと、もうしゃべっていいわよ。でも、逃げようとしたら苦痛が襲うから痛みが好きな人以外は考えるのもだめよ」
ここに連れてこられた者達が話し始める。逃げることを意識した言葉は吐けない。
「皓太、どう思う?」
小声で話す。日本人はいないようだが、日本語がわかる奴がいても面倒だ。
「たぶん、馬車に乗ってから王都までが脱出するリミットになると思う。でも、この服とこの髪は目立つね」
「そうだな、どこかで服を調達するのと、この髪を何とかしなきゃ逃げてもすぐ見つかるよな。でも、この町で騒動を起こすのはマズイ。50人とはいえ兵がいるからな。賭けにはなるが、途中の町や村に寄ったときに行動を起こそう」
「わかった。賭けって言うのは王都が近くて何処にも寄らなかったらってことだね」
「ああ、その可能性が無いわけじゃないからな」
「二人の貞操の為にも、賭けには勝ちたいね」
奴隷商人が5人の武器を持った護衛と4台の馬車と御者を連れて戻ってきた。1台の馬車は木で天井やドアを設えた豪華なものだった。後の3台は馬こそ4頭引きだが、荷馬車そのものだ。
「お前たちは、荷馬車に乗りなさい。乗り遅れて私から離れたら苦痛で死ぬわよ」
大人しく3台に分かれて乗り込む。苦痛を味わうのが嫌なのか、奴隷商人の馬車に近い荷馬車に半分近くが乗っている。2台目に俺達以外が乗り込んで、俺と皓太だけが3台目に乗っていた。
「途中の町に寄るまで休憩は無いから、そのつもりでいてね。後、五月蝿いのは嫌いだから、次の町までおしゃべり禁止。では、出発して」
奴隷商人がそう言って馬車に乗り込む。護衛の一人は御者の隣に乗り込み、他の四人は奴隷商人と乗るようだ。
入ってきた門と違う門を通り過ぎると、荒野に出た。背の低い木が所々生えているが遠くに見える森や林以外は乾いた土の一色だ。
荒野の道は荒く、荷馬車の振動が腰骨にダメージを与える。
皓太が膝を抱えるように寝転んだ。
「弘樹も真似して。馬車がうるさいから少しぐらいなら話してもばれない」
御者に足を向け、不自然にならない程度に皓太の近くに寝転ぶ。
「次の町を出た後に決行しよう、手順は考えたから」
前の馬車が巻き上げる土ぼこりに辟易しながら、皓太のプランを聞いた。