二人 脱走の時期を窺う
隷属の首輪を付けられ、俺と皓太は列の長い列に並ばされている。
隷属の首輪は意識を乗っ取る首輪ではなく、上位者の命令に背くと激しい苦痛が全身を襲う道具のようだった。
船の乗客やクルーが黙って命令に従っているのは、目の前でその効果を見たり、自分自身が体験してしまった為だった。
中には、苦痛にまみれながらも抵抗しようとした人もいたが、上位者が何か呟くと首輪が弾け死亡してしまった。子供は特に悲惨だった、痛みのため泣くが、親がいなかったり親に何とかしてもらおうとするとさらに苦痛が襲って来る。そして、首輪が弾ける。
俺達は並ばされ、先頭から順番に質問をされている、答えによって選別されているようだ。俺達の前の人たちは神様にもらった能力を答えている。
俺の番が来た。隷属状態は既に解除した。
「お前は何が出来るか真実を答えろ」
心臓に剣を突きつけられた。この能力を答えるのはまずい。かといって目立つことも言えない。
「何も出来ない、神から能力を選ぶよう言われたが今使える能力は選べなかった。知識についても深く考えようとすると首が痛む」
俺が話しているのは日本語のはずだが、向こうの言葉も通じるし、こちらの言葉も通じる。しかし、前のクルーは中国人で中国語で話をしているが通じていた。
「お前はこの札を持ってあの白旗へ行け」
札を受取白旗へ向かう。目で皓太へ合図を送る。同じように答えてこっちに来るだろう。
聞かれたこと以外答えるなという命令をされている為、白旗にいる他の乗客や後から来た皓太と話はできない。
かなり時間が経ち、全員が振り分けられた。
「ここに振り分けられたお前たちは商品だ。近くの町で奴隷商人へ売り渡す。癖の悪い商人に売られないよう精々上の機嫌でもとっておくんだな」
白旗の周りは幼い子供から、老人まで、白人、黒人、黄色人種さまざまだ。
「黒旗の連中に比べたらお前らはマシだな。あいつらは奴隷兵として使い捨てにされるからな」
遠目ではあるが、黒旗にいた人たちが苦しみ始めたり、泣き崩れたりしているのが見える。俺は勇者でも英雄でもないから、遠くから見ていることしかできなかった。
白旗に集められた俺達は、わずかな食料を与えられ、歩き続けた。
深い森を抜けたところで日が暮れ、野営することになったのだが、50人近くの兵を中心に円のように配置された。
「お前らが寝るのは勝手だが、ここは魔物が出る森の近くだ。寝ている間に連れ去られても俺達は助けない。武器は何本か渡すからそれで何とかしろよ」
小さな子供は泣き疲れ、ほとんどの大人たちも疲労のピークがきている。
しゃべることを禁止されているから相談もできない。
自然と草を抜き、地面に文字を書き相談する。20歳前後から50歳ぐらいまでの男女がグループに分かれて相談している。
子供や面倒を見ている母親は身を寄せあっている。
各グループがリーダーを出し、与えられた剣や槍を持つ。
武器ごとにグループを作り、グループ内で武器を持つものと補佐を決め二人組を何組か作り交代で朝まで警戒することになった。
子供の泣く声や、少年少女のすすり泣く声が後ろから聞こえる。
「皓太、小声でなら大丈夫そうだから今のうちに相談だ」
「わかった」
「どの段階で逃げ出すか。兵がいるうちか、奴隷商人に買われた後か、奴隷商人から誰かに売られた後か」
「兵がいるうちはありえない、人目が多すぎる。理想は奴隷商人以外に買われた時だけど、別々に買われてしまう可能性があるから、奴隷商人に買われた後かな」
「OK、そこまではおとなしくしとくか」
魔物に襲われることなく朝が来た。
「今日の夕方には町に着く。死にたくなければちゃんと着いて来いよ」
騎士が大声で叫び移動が始まった。
夜は少し肌寒いくらいであったが、日が昇るにつれ日差しが強くなり、汗ばむ気温になってきた。
自分の視界では何人ぐらいが移動しているのかわからないが、騎士が馬を駆り落伍者が出ないか確認して回っている。
落伍者もなく夕方に町まで着いた。しかし、塀に囲まれた町には入らず、奴隷は野営をさせられた。